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zoom RSS 映画評「孤独のススメ」

<<   作成日時 : 2017/07/20 10:33   >>

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☆☆☆(6点/10点満点中)
2013年オランダ映画 監督ディーデリク・エビンゲ
ネタバレあり

最近キリスト教のフォーマットを使ってアンチ・キリスト教的な展開をする作品が多い。解りやすいのものに「神様メール」、聖書やキリスト教の知識があればピンと来る「ひつじ村の兄弟」、日本人にはまず気づかない「教授のおかしな妄想殺人」などなど。本作は2番目のタイプである。

息子を追い出した後愛妻を交通事故で失ったフレッド(トン・カス)はその悲しみを癒すため信心に逃げ、ガソリンのねこばばを繰り返す男テオ(ルネ・フォント・ホフ)を咎める。一切口を利かない痴呆気味の彼に罰として芝生刈りの仕事を、そのお礼として食事を与え、結局テオはフレッドの家に住み着く。当初フレッドは困った男と思いつつ、動物の物真似が上手い彼と組んで芸人の真似事をするうちに慰めを見出していく。
 しかし、彼が妻の服を着て外に出た為に同性愛疑惑が湧き、それが元でテオの住所が判り、旅行代理店の店員であったその妻サスキア(アリアーネ・シュルター)の説明から、テオが交通事故の後遺症で知能が足りなくなったことを知る。二人でマッターホルンへ行くことを決めたフレッドは周囲の罵りに反発するように二人だけの結婚式を挙げる。
 隣人カンプス(ポーギー・フランセン)はフレッドを“悪魔”と罵るが、その背景には彼の孤独がある。テオをカンプスに預けた彼はゲイ・バーに出かけていく。

孤独な人々を捉えたシリアスな作品だが、コメディーと言っても間違いではない。日本人はコメディーと言うと、ゲラゲラ笑えるようなものを想像するが、それは本来ファース(笑劇)と言うべきもので、コメディーとファースを混同している日本人が多い。

それではこの映画のどこがキリスト教のフォーマットかと言えば、信心・不信心を扱っているということもあるが、テオが神の使いと考えられるのが第一である。にも拘わらず本作が見せるのは信心する人の狭量や宗教によるしがらみで、映画人は宗教の限界を見出しつつあると思う。キリスト教信心を勧める映画もボツボツ出てくるのはそうした傾向への抵抗だろう。

映画的には、お話が進行するにつれ、その前段で示された不明な点が解明される展開。1990年代以前であれば、布石を積み重ねて意味を深めていくのが平均的な作りであったが、ここ20年くらいはドラマのミステリー化という趣向が目立つ。時系列操作によるものが多い中、回想手法を使っていない本作は違う。
 例えば、フレッドは何故テオと結婚式みたいなことをするのか。その前にフレッドがゲイ・バーに行ったのは何故か。ゲイ・バーで歌っていたのは彼の息子で、キリスト教が認めない同性愛若しくはその類に彼が走ったことが原因で彼が息子を追い出したことが最終的に解り、“結婚”に関してはキリスト教的な狭量による息子への仕打ちを償う行為だった(と理解できるように作られている)のである。
 隣人カンプスのフレッドへの罵りも実は裏表の関係があり、若い時に好きだった女性を奪われたこと、目を掛けていたテオをまた奪われたこと・・・キリスト教的な圧力と思われたものは彼の孤独、彼の嫉妬に過ぎなかった。真に孤独だったのはカンプスのほうで、この邦題は一種の反語である。それが解っていない人が多い。

反語と言えば、大逆事件で死刑になった大石誠之助に対する与謝野鉄幹の詩、佐藤春夫の詩の解釈を巡って東京新聞でちょっとした騒ぎになっている。リベラル派の評論家・佐高信氏が二つの作品に見られる悪口を反語ではないとし、新聞のコラムニストと対立しているのだ。騒ぎが起こる前に僕はこの二作に初めて触れ、解りやすい反語と感じた。申し訳ないが、佐高氏は文学的な勘が悪いと思う。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
孤独のススメ
オランダの田園地帯の村。 初老の男フレッドは、判で押したような規則正しい生活を送っている。 毎日同じメニューで、食事の相手は壁に飾られた妻と息子の写真だけ。 そんなフレッドの村に、無精ひげを生やし、あまり会話の通じない男テオが迷い込んできた。 男に金をせびられたフレッドは、彼に庭掃除を命じ、夕食を与えることに。 二人の奇妙な共同生活が始まったが…。 コメディ。 ...続きを見る
象のロケット
2017/08/04 14:38
一年遅れのベスト10〜2017年私的ベスト10発表〜
 群馬の山奥に住み、持病もあり、WOWOWを中心にした映画鑑賞生活ですので、僕の2017年私的ベスト10は皆様の2016年にほぼ相当する計算でございます。と、毎年同じことを申しておりますが、これもルーティンということでお許し下さい。  スタンスとして初鑑賞なら新旧問わず何でも入れることにしていており、その年の状況によってはとんでもない旧作を入れることがあります。今回は、果たして? ...続きを見る
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
2018/01/10 23:42

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
 >反語
 ぼくにはどう見ても、二人の詩は明治政府を皮肉っていて、反語であり逆説に思えますがね・・。
いつも本屋で立ち読みする「週間金曜日」によると、佐高氏は、佐藤春夫と与謝野鉄幹を、現代保守派の妙齢美人二人(櫻井よしこと曽野綾子)に準えていますからね・・。これもちょっとセンスが悪い・・。

漫画「巨人の星」で、伴宙太が星飛雄馬に「お前は素晴らしい大馬鹿野郎でおれは本当の大馬鹿野郎だ」と言うシーンがありますが、佐高氏はどうも伴宙太の方でありましょう(笑)
浅野佑都
2017/07/20 22:51
浅野佑都さん、こんにちは。

二か所間違っていました。
大石誠之助を大森誠之助と書いていました。
与謝野鉄幹の【和歌】と書きましたが、浅野さんが何気なく示しているように、【詩】でありました。
二か所とも訂正・・・

>「週刊金曜日」
おおっ、読まれましたか。
僕は東京新聞を通して知りましたが、論争がメディアを超えて戦わされたのが面白いと思いましたね。

>櫻井よしこと曽野綾子
その例えは余りに、与謝野鉄幹と佐藤春夫に失礼と言うものです。
一時は結構買っていて、新聞に立場を超えて櫻井よしこを擁護する投書までしましたが、最近は嘘ばかり言っているので呆れ果てました。投書は掲載されました。

>佐高氏・・・伴宙太
こういうとんちんかんを言うと、政治的な意見にも疑惑が湧きます。5月に【朝まで生テレビ】で見かけましたが。
オカピー
2017/07/21 15:32
>櫻井よしこを擁護する投書

 それは東京新聞への投書でしょうか?差し支えなければ、どのような内容のご意見だったか、教えていただけますか?

ぼくは、実は、彼女が民放のキャスター時代はファンでして・・((笑)
「NNN今日の出来事」は、毎日観ていたものですから・・。
当時は、中国残留孤児の問題がクローズアップされた時期であり、この問題に大きな関心を持った彼女は、自ら中国語を習得するほどの熱の入れようで取り組み、少なからず感動的なルポルタージュに目を見張ったものです・・。。彼女が、キャスター引退後、著書やメディアで右寄りの論陣を張るようになったのは意外なことでした。
気骨のあるプロのジャーナリストに思えた彼女ですが、プロフェッサーは、彼女のどのようなところを評価されましたか?
浅野佑都
2017/07/22 03:31
 もう少しお付き合いください・・。
手元にある櫻井よしこの旧著「異形の大国中国」を今、読み返しても、得意分野だけに彼女の言うことはまっこて正論であり、此方の自民党へ向けて返す刀の切っ先も鮮やかでした・・。

 何かと話題の稲田女史が「朝まで生テレビ」によく出ていたころ、彼女には、リベラルを向こうにまわし説き伏せる知識も迫力も感じませんでしたが、それに拍車をかけるかのような最近の、まるで女子大生みたいなファッション系保守パネリストの稚拙な歴史認識と覚悟のなさには仰天してしまいます・・。
少なくとも、一時の櫻井よしこにはある種の”殺気”すら感じましたね、僕は・・・。
浅野佑都
2017/07/22 10:06
浅野佑都さん、こんにちは。

>東京新聞への投書
です。
いやあ、大したものではないんです。

浅野さんもご記憶にあろうかと思いますが、NHKの長時間番組で、日本と中国・朝鮮半島との対立について歴史のアングルから色々と語る回がありました。
東京新聞の一読者が、その言説を全く顧みることなく、櫻井女史の立場を以って彼女を非難していたのが気に入らず、僕はその読者に近い立場であったにも拘わらず、弁護というかその方に対して反論したのです。
「櫻井女史が彼女が集めた資料に基づき“真実”を提示したのだから、反論する側もきちんと資料等で“真実”を示して反論すべきである」といった内容だったと思います。
“真実”は主観なので必ずしも事実ではないのですが、基づく資料がしっかりしているかどうかが大事と思う次第です。最近の日米首脳とサポートする人々の言論はこの点が全くダメです。

続きます。
オカピー
2017/07/22 23:57
>どのようなところを評価
著書などは読んでいませんが、浅野さんと似た感じでしょうか。
日本テレビで巨人戦を観戦することが多かったこともあり、ニュースと言えば、「今日の出来事」オンリーでしたね。彼女が番組を去るまでずっと見ていたと思います。薬害エイズ問題での奮闘ぶりが特に印象的で、あの優しい語り口から想像もできないくらいタフなジャーナリストなんだなと感心したものです。

しかし、最近は、【原発反対に反対】の立場から、チェルノブイリはこんなに安全になりましたと言った地区が実際にはかなり離れた別の都市であったり、男系と女系の天皇を巡る意見でも女系容認派の言った意見を男系厳守のお話にミスリードしたり、ちと変です。

>稲田女史
彼女が出ていた頃「朝まで生テレビ」は観ていませんでしたが、「TVタックル」ではよく見かけ、彼女が自慢げに語った農業政策案が中国共産党のそれと同じだったのには苦笑しました。この人、馬鹿だろう、と思いましたが、大臣になってそれが見事に発揮されましたね。
 僕は、南スーダンのレポートにおける「戦闘」の文言を無視した、憲法違反になるという見解に基づく「あれは戦闘ではなく衝突」という彼女の発言を知り、自衛隊員が気の毒になりましたよ。今回の問題もそうしたことに頭に来た自衛隊関係者からのリークでしょうね。小渕優子同様、もう次の要職はないでしょう。
オカピー
2017/07/22 23:59
 >NHKの長時間番組
観ていますね、それは・・。
立場を超えて、というところがいかにもプロフェッサーらしい・・。是々非々ですね。第一級資料に基づいた歴史考察は傾聴に値しますが、最近のは手前勝手というか、転んでもただでは起きぬというか、拾うが為に転んでみせるような破廉恥も珍しくありません。

>日本テレビで巨人戦
ぼくも、同じくです(笑) 思うに、昔の群馬県と北海道の子供は、おおむね巨人ファンだったのではないでしょうか?どちらも日本テレビ系キー局だったですからね。

>小渕優子同様、もう次の要職はない

安倍さんも、ここまで庇えば、いっそのこと「はつ」と「徳兵衛」ならぬ「朋美」と「晋三」の永田町心中((笑)と洒落てしまえば、それはそれで上等かどうかはともかくある意味、平成浄瑠璃として加藤の乱みたいに記憶に残るのでしょうが・・((笑)
浅野佑都
2017/07/23 05:39
浅野佑都さん、こんにちは。

>第一級資料
東京新聞の文化コラムにこんな意見がありました。
 百田尚樹氏がぶち上げた高校授業での漢文廃止論について、「漢文を読めなければ一次資料が読めなくなる。二次資料・三次資料に頼るから、共産主義者が太平洋戦争(大東亜戦争)を引き起こしたなどという幻想を考え出す」云々という反論。
アメリカとロシアの共産主義者が組んで戦争を画策したとか、もっともらしい意見が流布しているようですが、でたらめも良いところでしょう。日本側にコミンテルンに通じていた尾崎秀実がいることも証拠とされているのでしょうが、尾崎本人が手紙に書いているようにコミンテルンとソ連は同一視できないと僕は思っています。
まして、戦争を長引かせたのも共産主義の軍人・・・という噴飯物の意見まであるようです。治安維持法や特高は何をやっていたのかとなりますよね。

一方、百田氏は多分「韓国人は、漢字を知らないので自国の歴史書を読めないのだ」と言っているグループでしょうに。日本の歴史書は尽く漢文で書かれていることを知らないのでしょうかねえ。こういう矛盾やダブル・スタンダードを平気で言う人間の意見など聞く気にはなれませんよ。

>平成浄瑠璃
そんな洒落っ気があれば、安倍さんを褒めたくなります^^
 今日の報道(毎日新聞)によると、安倍政権の支持率26%、不支持率56%だとか。明日から加計問題の審査が始まりますが、政権側から資料提出などなくなまなかに終わるでしょうから、これで支持率回復はないでしょうね。
オカピー
2017/07/23 21:24

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