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zoom RSS 映画評「帰ってきたヒトラー」

<<   作成日時 : 2017/07/02 09:26   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年ドイツ映画 監督ダーヴィト・ヴネント
ネタバレあり

ちょうど一年前、英国留学した秀才君とは別の甥が「ヒトラーが現代に蘇る映画ができたくらいだから、ヒトラーは復権している」と言った。「ヒトラーを正面から扱うことを認めないドイツとその周辺国ではありえない」と僕。「しかもコメディーだよ」と彼。そこで僕曰く、「コメディーだからこそ、ヒトラーのアンチ・テーゼなのだ」と。
 さらに彼は「ヒトラーは一種の天才なのでは」と言う。「天才なら戦争に勝っている。ユダヤ人を排斥しなかったら彼は戦争に勝っただろう。阿呆に過ぎない。そんなことを言っていると、ユダヤ人から文句を言われるよ」と僕。「そんな奴はワーゲンを買うな」と彼。「それを言ったらナチスやヒトラーを否定する世界中の人たちがワーゲンを乗れなくなり、ワーゲンが潰れる」。そう言うと「そんなの関係ねえ」と甥。
 延々論理性の滅茶苦茶な彼に付き合わされた。
 ワーゲンに関する意見が短絡的であるのとは別に、ワーゲンやアウトバーンをヒトラーの功績にする歴史の考察自体が僕は間違っていると思う。歴史のダイナミズムを考えた時当時のドイツの元首であれば余程のトンチキでない限りあれくらいのことはやっただろう。そんなことでホロコーストと相殺できるわけもない。

それから一年、やっとご本尊を観るチャンスが巡ってきた。

確かにコメディーであるが、役者がやっていると勘違いされる本物のヒトラーを演ずる役者オリヴァー・マスッチを事実上のレポーターとするドキュメンタリーの部分が多い。
 そこで語られるのは多くは移民排斥やそれに近い感情である。数年前から湧き上がってきた反移民や質の低いナショナリズムの台頭を如実に感じさせる。
 しかし、現在の反移民感情とナチスのホロコーストとは類似はするが同質ではなく、実際にそうしたところで暮らしている人々の感情も解らないではない。欧州における移民問題は僕らの考えが及ばないくらい深刻であることは事実であろう。

それでは原作者ティムール・ヴェルメシュやその原作を脚色して映画化したダーヴィト・ヴネントの目的では何だったのか? それはポピュリズムの怖さである。しかも、現在はネットの普及でポピュリズムが形成されやすい。かつてポピュリズムを利用して台頭したヒトラーを現在に蘇らせた時にどんな恐ろしいことが起きるのか想像させるのが本作の目的である。現実にはヒトラーは再び現れることはないから、勿論、フランスの極右ルペンのような人物があっという間にトップになる可能性があるという怖さである。現に、アメリカでは精神に障害があるとサイコロジスト数千名(或いは万単位だったかもしれない)が弾劾署名運動をするほど問題のある人物トランプが大統領になってしまった。

本作においてヒトラーは最後まで敗北しない。だからと言って、甥の言うようにヒトラー的思想が復権したと見ることはできないのは既に述べた通り。

映画としては、ドラマとドキュメンタリーを組み合わせた作りであるだけでなく、劇中劇のメタフィクション的な作りも面白く、相当興味深い作品と言って良い。見る価値は大いにある。

「報道ステーション」が2月頃トランプ大統領を支持する人々に取材して連日放送していたコーナーが興味深かった。トランプが支持される理由がよく解り、良い企画であった。しかし、パリ協定脱退など結果的に彼の政策は中国を利するだけではないのか、そんな気もする。

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帰ってきたヒトラー ★★★★
現代にタイムスリップしたアドルフ・ヒトラーが、モノマネ芸人と誤解されて大ブレイクしていくさまを過激な風刺で描いて世界的ベストセラーとなったティムール・ヴェルメシュの同名小説を映画化したドイツ映画。主演は舞台を中心に活躍するオリヴァー・マスッチ。監督は、これが日本初紹介のダーヴィト・ヴネント。 あらすじ:1945年に自殺したはずのアドルフ・ヒトラーが、なぜか2014年のベルリンにタイムスリップして甦る。やがて彼をモノマネ芸人と勘違いしたディレクターにスカウトされ、テレビ番組に出演することに。すると... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2017/07/02 21:15
「帰ってきたヒトラー」
コメディと見せかけて、如実に今のドイツにある危機感を示している。現代のドイツにタイムスリップして現れたヒトラー。荒唐無稽だし、笑ってしまうけれど、本当は笑うに笑えない。もしカリスマ的な扇動者が現れたら、現代のドイツでも又事は起こってしまうかもしれない。そんな警鐘を鳴らす一作である。ドイツだけでなく、恐らく(先進国と言われる)他の国でも可能性はある。そうだ、例えば日本でも。そういう点では両目をよく開いて観なければならない。ある意味、アドルフ・ヒトラーという分かり易い姿形をとっているだけまだマシなの... ...続きを見る
ここなつ映画レビュー
2017/07/03 12:42
「帰ってきたヒトラー」
あなた、どこのヒトラー? ...続きを見る
或る日の出来事
2017/07/03 22:38
「帰ってきたヒトラー」☆ブラック過ぎて笑えねぇっ!
ドイツでベストセラーとなった原作小説の表紙の、ちょび髭の部分にもデザインされているように『笑うな危険』なのである。 ブラックすぎて顔が引きつってくるけど、どうしても笑っちゃう。 だけどこれはブラック過ぎて笑っちゃダメだろー?な自分や、いやそこ笑うところだから!と場内がドン引きしている様子とも戦わなければならないややこしい脳内第三次大戦が勃発! ...続きを見る
ノルウェー暮らし・イン・原宿
2017/07/04 18:14

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
冒頭の空撮。ベルリンの街並みが雲の切れ目から見える・・あれは、劇中でも触れていたレニ・リーヘンシュタールの『意思の勝利』のオマージュですね。

ドイツで250万部の大ベストセラーで映画も大ヒット、日本の僕が観た劇場でも、フルハウスの盛況振りでした。

 甥子さんは、ナチス政権下においては、人種差別のみならず、弱者迫害(こちらのほうがもっと悪い)もあったこともご存知なのかなぁ(笑)
ただ、甥子さんの考えを擁護するならば、、当時のドイツで蔓延する民衆の不平、不満を的確にすくい上げ,ブレのなさゆえの否定しがたい説得力とカリスマ性、もっと言えば(これは非常に重要ですが)チャーミングささえ湛えていたのは間違いないですね。
言うまでもないですが、ナチスは、軍と警察機構を掌握し、大戦前から国民を監視しその後の変化にも、ドイツ民衆は実は気づいていた・・。

『ヒトラー〜最期の12日間〜』あれが作られた当時に、たしかやっぱりドイツ国内で「ちょっとヒトラーを人間的に描きすぎじゃないか?」っていう批判が巻き起こったはずです・・。この作品が、一部の批判はあっても、これだけ本国で受けた最大の理由は、プロフェッサーも指摘していますが、ドキュメンタリー方式で、実際の移民や、それに反感を持つネオナチも含む一般人に、オリヴァー・マスッチ扮するヒトラーがインタビュー形式で望んだ、という点でしょうね・・。
浅野佑都
2017/07/02 19:15
ドキュメンタリータッチの部分の秀逸さと比較して、TVディレクターの視点を中心とするフィクション部分が、彼が最終的にたどる末路も含めて、やや弱いと・・。
原作だと、彼はヒトラーに心酔する21世紀のゲッペルスみたいになってゆくので、流石に、映像化の際には批判的役割を持たせなければいけなかったのか。一般人的視点を据えることでエンタメとしてわかりやすくなるのは理解しますが。

ヒトラー役の俳優は、背格好も顔もヒトラーとは似ていませんが、即興対応性を買われての大抜擢だったと・・。
演技力とアドリブ力で、いかにも、本物のヒトラーが言いそうな、歪んだ、それでいてそれなりに筋の通ったヒトラー的回答を、ウィットをこめて瞬時に、顔出しして対峙している実際の民衆に返している。
彼は、映画完成後「想像以上にヒトラーの格好をした自分と本音で話す人たちが多かったことにショックを受けた」と、述懐していますねぇ・・。
途中、ドイツを貶す一人のロック風の若者に対して、みなでちょっとしたリンチを扇動するシーンがありましたが、流石に仕込みなんでしょうが・・。

エンドロールの、マンチェスターでの忌まわしい事件を髣髴とさせるような紅蓮の炎をバックに、映し出されたヒトラーの横顔・・『機は熟した』という言葉に暗澹たる気持ちにさせられましたよ・・。
ぼくは、戦後に生まれた国が多い東アジアと違って、歴史を経験している欧州の大人の考え方に期待しているんです。映画で、銃弾でも死ななかったヒトラーが嘯いたように、ドイツ人の中にヒトラーが存在する・・とことん追い詰めれば、ドイツは同じことをするかもしれない。
格差の不満はあっても、ユーロの中で未来志向でやっていこうと。

 昨年の都知事選の結果、自民党内で石原伸晃の株がガタ落ちしたように、安倍政権にエールを送る結果なら御免ですわ(笑)
浅野佑都
2017/07/02 19:35
浅野佑都さん、こんにちは。

>甥子
火曜日にマンチェスターから帰ってきた甥の意見を参考にすると、若い人はゲームといったところが情報を得ているようで、表面的な印象で判断しているのでしょうね。僕らは無数のホロコースト映画や弱者差別を扱った文章を読んでいる人には、とんでもないことですよ。あな、恐ろしや。

>インタビュー形式
マンチェスターの甥と話した結論は、撮影自体は警察に連絡をし、インタビューイーにとってはいきなりの本番だった・・・ということです。浅野さんも仰るように、素直に本音が表れていると思います。

>フィクション部分
メタフィクション的な扱いに面白味があるとは言え、確かに弱いと感じましたね。迫力がない。

>原作
ゲッペルスのようになっていくのが原作なら、改変せざるを得なかったでしょうね。
読解力のない人々は誤解する可能性もありますし。

>ヒトラー役の俳優
本人より背も高く太ってもいて、全く似せようとしていないのが、却って面白かったですね。

続く・・・
オカピー
2017/07/02 23:22
>東アジアと違って、歴史を経験している欧州の大人の考え方に期待
僕も、同様に、日本を含めて東アジアが戴けず、アメリカが情けない状態になっている中、欧州に対しては「立派だな」と思っています。
真面目な国民であるドイツ人は一つ間違うとナチスのような政権が誕生しないとは限りませんが、戦後締めてきたたずなを緩めることがなかったのは立派です。日本の右派は比較されることを嫌って優等生のドイツの悪口を言うことを多いですが、歴史にきちんと学ぶ姿勢は日本も真似してほしいと思いますね。歴史修正の全てが嘘とは思いませんが、日本だけに都合の良い、思想だけが先行した歴史修正は駄目ですね。そんなことをしているといつか来た道を繰り返す・・・

>安倍政権にエールを送る結果なら
自民党は都議選史上最低の結果に終わるようです。首都の選挙結果ですから、国政にも影響が出るでしょう。
東京は元来革新が強いですから、国民・都民をなめるとこういう結果になりますね。
国の選挙も、小選挙区制をやめると、もう少し力のバランスが取れるようになるのですがねえ。二大政党政治は日本では無理と判ったので、中選挙区制に戻すべし、と強く思います。そうすれば簡単に驕る政権が生まれにくくなるはず。
オカピー
2017/07/02 23:24

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