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zoom RSS 映画評「ひつじ村の兄弟」

<<   作成日時 : 2017/07/18 11:22   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2015年アイスランド=デンマーク=ノルウェー=ポーランド合作映画 監督グリームル・ハウコーナルソン
ネタバレあり

合作映画扱いであるが、実質的にアイスランド映画。僕が観た限られたアイスランド映画の中でベストと言えると思う。

羊毛を唯一の産業としているアイスランドの寒村に、古い血統の羊を飼っている二人の兄弟がいる。40年間も口をきいていない犬猿の仲で、兄キディー(テオドール・コーリウルソン)は弟グミー(シグルヅル・シグルヨルソン)が父に可愛がられて全財産を相続し、時分は弟が所有する土地を借りている状態なのが面白くない。
 グミーが羊の品評会で優勝した兄の羊を調べると、英国由来の伝染病にかかっているらしく、当局に伝えた結果、村の羊全頭が殺処分されることになる。グミーは(実は違法だが)自ら羊を殺し、清掃に励むが、ひねくれ者の兄は何もしない。
 ところが、グミーが地下室に数頭の羊を隠していることが当局にばれてしまう。途方に暮れた彼は兄に協力を依頼、兄の提案で羊を山奥に運ぶことになる。しかし、吹雪の中、グミーが倒れる。懸命に雪の中に穴を掘ったキディーは裸になった弟を温める。

厳しい自然環境の下、ぼうぼうたる髭をはやした老兄弟が右往左往する様は、正に現代の神話の趣である。監督グリームル・ハウコーナルソンは、間違いなく旧約聖書の【カインとアベル】の挿話に材を求めている。この映画に何十年も前に死んだ父の話が出てくるのもその為で、父は【カインとアベル】における神に相当する。神は出来の悪い兄カインではなく、弟である羊飼いのアベルを愛したのである。

しかし、作者は終盤、聖書をなぞることを突然止める。カインは嫉妬して弟を殺すが、こちらの兄弟は羊の血統が途絶えるという最悪の危機に直面して、その存続を願う共通の心情により長年の仲の悪さを解消し、最後に兄は懸命に弟を蘇生させようとする。反キリスト教とまでは言わないにしても、神様の冷徹とは真逆なヒューマニティーに焦点を当てた人情味溢れる終盤となっている。
 最近、欧米特に欧州において聖書的な考えに反旗を翻すような映画が増加中で、これは少し注目に値する現象と思う。

「エデンの東」も【カインとアベル】の挿話にヒントを得ているのはご承知の通り。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
ひつじ村の兄弟 ★★★.5
2015年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリに輝いたアイスランド発の異色ドラマ。40年間も不仲の老兄弟が、大切な羊たちに訪れた絶体絶命の窮地を前に思わぬ行動に出るさまを、雄大かつ過酷な大自然をバックにユーモアとペーソスを織り交ぜ力強いタッチで描き出す。監督は、これが日本初紹介のグリームル・ハゥコーナルソン。 ...続きを見る
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プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
2017/07/20 18:12
ひつじ村の兄弟
アイスランド辺境の村で暮らす羊飼いの老兄弟グミーとキディーは、40年間絶縁状態だが、隣同士で共に独身。 ひたすら先祖代々受け継いできた羊の世話に明け暮れる毎日を送っていて、羊の品評会では優勝を争ってきた。 ある日、兄キディーの羊が疫病にかかり、保健所の指示で地域全体の動物が殺処分されることに。 グミーとキディーは、それぞれの方法で事態を収拾しようとするが…。 ヒューマンドラマ。 ...続きを見る
象のロケット
2017/08/04 14:36
一年遅れのベスト10〜2017年私的ベスト10発表〜
 群馬の山奥に住み、持病もあり、WOWOWを中心にした映画鑑賞生活ですので、僕の2017年私的ベスト10は皆様の2016年にほぼ相当する計算でございます。と、毎年同じことを申しておりますが、これもルーティンということでお許し下さい。  スタンスとして初鑑賞なら新旧問わず何でも入れることにしていており、その年の状況によってはとんでもない旧作を入れることがあります。今回は、果たして? ...続きを見る
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
2018/01/10 23:43

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
記事にはしていませんが
公開時、小さな映画館で観ました。
けっして愛想のいい映画ではないけれど
あの数分の結末で、鑑賞者は、心にじんわり
来るものにやられてしまいますね〜
良き作品でした。

>神は出来の悪い兄カインではなく・・・・

その出来の悪いカインの末裔が、
我々なんですわね。(^^);
特に「聖書」というネーミングが
日本人には誤解を呼ぶ。
そもそも人類の始まりから殺人ですもの。
実に生々しい人間たちの歴史の書。

vivajiji
2017/07/18 13:12
vivajijiさん、こんにちは。

>愛想のいい映画ではない
その表現がぴったりです。

>あの数分の結末
そうなんです。
聖書をなぞるのを止めて、ヒューマニスティックになって感銘させられますね。

>「聖書」というネーミング
だから「ドッグヴィル」で、ヒロインは神か神の遣いではないだろうかと言ったら、「神はあれほど残酷ではない」と反論されましたが、聖書の神を誤解していますね。
 僕は、聖書は優れた歴史書と思っています。初期の部分は神話で全くの事実ではない(聖書の文言は全て事実というグループには申し訳ありませんが、断言してしまいます)ですが、それでも文学的な価値が非常に高いですね。

>カインの末裔
有島武郎がこの題名で小説を書きました。(罪深い)“人間”の事ですよね。
オカピー
2017/07/18 21:32
「裁かれるは善人のみ」のアンドレイ・ズビャギンツェフも、神話性と寓意に溢れた良い監督ですが、このベルギーの作り手はこれがまだ2作目だと聞きました・。
いや、脱帽ですね・・。カンヌで黒澤清や河瀬直美の力作を蹴落として「ある視点部門」グランプリになったのも頷けますね!

クライマックスは、ぼくの好きなテオ・アンゲロプロス監督もかくや、と思える厳しくも幻想的な画面を魅せてくれました。
ラストの部分は、ぼくの周囲で観た人には不評でしたが((笑)

>聖書的な考えに反旗を翻す
神様メールもそうですが、欧州の映画は最近、特にそんな印象の作品が多い気がしますね・・。
キリスト教が、その出自から今のような洗練された宗教になるまでに1500年かかったといわれていますが・・。何か、新しい動きでもあるのかなぁ?(その伝で行くと、イスラム教はまだまだですね・・。)
浅野佑都
2017/07/20 05:34
>ベルギーの作り手・・あたた((笑)アイスランドでした。
浅野佑都
2017/07/20 05:37
浅野佑都さん、こんにちは。

>テオ・アンゲロプロス監督
>厳しくも幻想的な
「霧の中の風景」の幕切れなど圧巻でしたものね。

>ラストの部分
周囲に不評なのは一見苦さから甘さへの転換のように思われたからでしょうが、実は、反聖書的な展開で、ある意味実験的でさえあると思いましたよ。

>>聖書的な考えに反旗を翻す
今日アップした「孤独のススメ」もその中に入れても良い内容でした。本当に増えてきました。

>キリスト教・・・1500年
そんなところですね。
コペルニクスやガリレオが、天文学をアリストテレスに頼ってきたキリスト教に命題を突き付けて揺るがし、ニュートンを経て、モンテスキューやルソーが宗教の上に法律があるべきと示して、それを受け入れることでキリスト教が真に洗練されたのだと思います。16世紀にプロテスタントの台頭でカトリックが変わらざるを得なかった部分もありますが、科学者や宗教家ではない思想家が果たした役割が大きいように思います。

キリスト教圏で宗教が法律の下に入って二百数十年。
僕の計算では、イスラム教圏で宗教が法律の下に入るまでに300年以上かかるのですが(笑)、理論的に100年もしないうちに人が死ななくなることが可能になります。死がなくなれば、現在の宗教の存在価値がなくなります。そうなると面白いですね。
オカピー
2017/07/20 21:46

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