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zoom RSS 映画評「ブルックリン」

<<   作成日時 : 2017/06/05 09:13   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2015年イギリス=アイルランド=カナダ合作映画 監督ジョン・クロウリー
ネタバレあり

今年の初めに観た「キャロル」と好一対を成す1950年代を描いた作品である。かの映画はその時代の映画ムードで同性愛を描くという大胆な手法が僕の興味を呼び、映画としても実に優れていたのに、何故か☆☆☆★という秀作一歩手前に相当する採点に留めてしまった。甲乙つけがたい印象なので本作と同じ☆☆☆☆でも良かったとは思う。凄みではあちらが勝るが、好みから言えば厳しくもリリカルなこちらである。

1950年代初め、二十歳のアイルランド娘シアーシャ・ローナンが、アメリカにいる神父に勧められて、ニューヨークはブルックリンに行くことになる。恐らくは移民となる。アイルランド人が集まる場所に何故か現れたイタリア青年エモリー・コーエンと親しくなるが、そこへ突然大好きだった姉の死の悲報が届き、一時帰国することになる。青年は悪い予感がしたのか、帰国前の結婚を迫る。
 結婚の届を済ませて帰国した彼女は葬儀の後、親友アイリーン・ヒギンズの結婚の日まで滞在を延ばすうち、幼馴染の青年ドーナル・グリースンに好意を寄せられ、米国での結婚を言い出せないまま、今や一人ぼっちになってしまった母親までその気にさせてしまう。

さて、その首尾は・・・というお話であれば、日本の三文青春恋愛映画と大して変わらないが、本作の本当の主題は、世界が狭くなった時代、人(本作ではヒロイン)の居場所はどこにあるか、ということである。
 彼女は因循な故郷を後にして新天地へ行く。とは言えホームシックにかかる。良い人ができたと思ったら最愛の姉が亡くなる。帰ってみたら故郷は思いのほか悪くない。昔嫌いだった少年も好青年になっている。それならば故郷に残るのも悪くないのではないか。
 しかし、どちらの男が良いか悪いかという恋のお話ではない。やや強引に解釈すれば、二人の恋人はどちらの土地を愛するか、どちらに骨を埋めるかというお話の象徴に過ぎないのである。

確かにこれを見た目通りに語るならば、やはり、見合いもどきの誘いがあった時にヒロインは正直に告白するべきで、それをしなかった彼女は母親にも相手の男性にも実に失礼千万だと言うしかない。彼女に共感できないという感想はその範囲では解る。
 しかし、本作の主題は土地を愛するとはどういうことなのか、である。アメリカへ行っても彼女は暫くアイルランドを象徴する緑の衣服を身にまとうことが多い。服の色が変わることでアメリカに慣れたと思わせておいて、作者は緑の水着を着させる。彼女は故国でもそれを着る。「やはりアイルランドは良いわあ」てなもんである。ところが、彼女の元の雇い主であるいじわる婆さんがアメリカでの結婚の話をしたことで彼女に思い出させる、故郷はこんな嫌なところであったことを。

つまり、作者は彼女をして室生犀星よろしく「ふるさとは遠きにありて思うもの」と思わせる、結局はそういう内容である。

描写は散文的な現実を踏まえつつ頗る抒情的なもので、サンドバーグの「シカゴ詩集」を読むが如し。こういう抒情詩のような映画は世界的に少なくなった。僕は本作の叙情性を大いに買いたい。展開が進むにつれ見る見る自信のある大人の顔になっていくシアーシャ・ローナンが抜群の好演。

今、グローバルになった世界が揺れている。甥が留学中のマンチェスターでテロがあった。その前に遊びに行ったサンクト・ペテルブルクで到着する直前にテロがあった。どちらも危機一髪。またロンドンでテロがあった。早く帰ってこないと本当に心配だ。1週間後に帰国する。帰るにもロンドンを経由する。今、欧州に住むのは大変だ。

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ブルックリン〜内向性と外向性
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
 この作品は、年初のプロフェッサーの年間ベスト10記事へのコメントで、自分の2016ランキング入り作品だと記しましたが、早くも、プロフェッサーのお目に留まった上の高評価、僕としてもうれしいですね。
同じニューヨークでも「キャロル」のほうは高級なマンハッタンが背景で、こちらは下町のブルックリンが舞台というのも面白い・・。

>二人の恋人はどちらの土地を愛するか、どちらに骨を埋めるかというお話の象徴

彼女の心の両天秤で揺れていたのは、男じゃなくて2つの国ですからねぇ・・。
昨今の、堪忍袋が異常に小さくなんにでもビクビク反応しては「不倫がー」とか声高に論ずる若い世代に、彼女の葛藤はわからないだろうなぁ・・。

>シアーシャ・ローナンが抜群の好演

いいですねぇ・・。ルーニー・マーラが華奢な白百合なら、こちらは向日葵のイメージがある骨太な感じの美人で、小津や成瀬の東竹映画(笑)の原節子を髣髴とさせる・・。

>マンチェスターでテロ
アリアナ・グランデのコンサートでの悲報の際、一瞬、甥子さんの留学先の地であることが脳裡をよぎりましたが、サッカー観戦ならともかく、優秀な学生さんが米国のアイドル歌手のコンサートでもなかろう、と思い、翌日のプロフェッサーの記事も特段、触れていなかったのでコメントはしませんでしたが、ロンドンで再び、というのは心配ですね。



浅野佑都
2017/06/05 11:52
浅野佑都さん、こんにちは。

>2016ランキング入り作品だと記しました
半ば忘れていましたが、思い出しました。
現実的な問題を、叙情性たっぷりに扱って、文句なしの秀作と思いましたね。

>同じニューヨークでも
住む場所が対照的である反面、どちらのヒロインもデパート勤務という共通点があり、こういう符号も楽しめます。

>「不倫がー」
戦前の日本ではあるまいし、まるで姦通罪があったじだいのように芸能人が扱われますし、映画でも不倫をする人間に対して激しい嫌悪がぶつけられますね。
僕は案外古臭い人間ですが、不幸な結婚をした人間が別の人間が好きになるのは人情だと思いますよ。

>骨太な感じの美人
ケルト系や北方系は骨太な感じの人が多い。
シアーシャちゃん(本人はサーシャと発音すると言っているらしい)、大きくなりましたね(笑)。

>東竹映画
本当に、原節子が出演する東宝映画は、本当に松竹の小津作品みたいですよね。
彼女は日本人では珍しく骨太の女優でしたからねえ。

>留学先の地であることが脳裡をよぎりました
よく憶えていらっしゃってくれました。有難うございます。
心配しましたが、姉から無事ですよ、という連絡があって、安心した次第。
そしたらまたロンドンで、小規模とは言え、又ですからね。
来週後半に帰る予定で、帰ってきたら、色々報告せよと言ってあります。
勉強熱心な彼は、その義務もないのに、帰ったら早速通学するそうですよ。
従って、報告は7月か8月になる模様。早く聞きたいです。



オカピー
2017/06/05 21:10

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