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zoom RSS 映画評「裁かれるは善人のみ」

<<   作成日時 : 2017/05/30 08:15   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年ロシア映画 監督アンドレイ・ズビャギンツェフ
ネタバレあり

父、帰る」(2003年)で神秘主義的な作風により強烈な印象を残したアンドレイ・ズビャギンツェフの新しい作品。とは言っても、十何年かぶりに触れる名前なので、監督の正確な名前はすっかり忘れていた。

モスクワより北部にある海辺の町。癇症なたちだが気の良い自動車修理工場主コーリャ(アレクセイ・セレブリャコフ)が、突然持ち上がった開発計画によりとてつもなく安い価格で地所を徴用されることに決まったのが面白くなく、モスクワに住む友人である敏腕弁護士ディーマ(ヴラディミール・ヴドヴィチェンコフ)に頼って不服申し立てを行うが、市長の息のかかった裁判所に棄却されてしまう。
 ディーマは後ろ暗いところのある悪徳市長(ロマン・マディアノフ)の弱みを掴んで彼らが正規の金額として要求したお金を確約させるが、縦にも横にも繋がりのある市長が暴力により脅しをかけると、彼はすごすごとモスクワへ帰ってしまう。
 その前に二人は警官の悪友と一家を挙げて射撃旅行に出る。コーリャが射撃を楽しんでいる間に彼の後妻リリア(エレナ・リャドワ)は先妻の息子ロマ(セルゲイ・ポホダーイェフ)と折り合いが悪いことなどもあって、ディーマと一線を踏み越える。コーリャはディーマとリリアに腕力を振るう(描写はなく、空に向けられた機関銃の音のみ聞こえる)。
 リリアは、その件で義理の息子に益々憎まれ、家を出て近所をさすらった後行方をくらます。リリアの失踪にコーリャは動揺するが、警察に届けるまでもなく直後警察から彼女の殺人容疑で連行されて有罪になる。実際は邪魔だてした彼を懲らしめるために市長一味が殺人を仕組んだらしい。

旧約聖書の「ヨブ記」をベースに、アメリカであった実話などから捻り出した話のようだが、最後に市長一味が一堂に会す教会の場面は、辛抱すれば報いられるという「ヨブ記」の教訓とは真逆で、現代の世界では権力のある者に弱者は勝てないという思いをたっぷりと沈潜させた、監督の皮肉であろう。「ヨブ記」通りであれば、コーリャには15年後の出所後に恩寵が待っているのだが、そうはならないだろう。

プーチンと宗教とを揶揄した現代神話の趣きで、「父、帰る」同様にそれにふさわしい厳しい環境描写が圧巻。検閲の厳しかったソ連時代なら到底無理だが、一応自由主義を標榜する国家になったロシアだからこういう風刺映画もまだ作れるのであろう。

登場人物の心境などを画面に沈潜させるために非常にじっくりとゆったりしたテンポで撮っているので、考えながら見るのが苦手な人には全くお勧めできない。そもそも興味を示すこともないだろうが。

教会で悪辣極まりない市長に諭される息子がプーチンみたいな顔をしているのは偶然だろうか?

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タイトル (本文) ブログ名/日時
「裁かれるは善人のみ」
タイトルの通りに考えると、裁かれるのは善人なのだからして、恐らく市井の貧しくも健気に生きている小市民なのだろう、と思いながら鑑賞。どんな風に裁かれるのだろうか?必ずや裁かれるんだよね?と、全編通して最初からドキドキしていて、ドアをノックする音にドッキリ、誰かが猟銃を手にすれば心臓バクバク、という大変に緊張を強いられる鑑賞となった。2時間20分、全てそんな状態。しかし、「裁かれる」とはそういう直接的な意味ではなかった。いや、むろん直接的な意味の描写もあるにはあったけれど、もっと概念的な。そしてつく... ...続きを見る
ここなつ映画レビュー
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裁かれるは善人のみ〜リヴァイアサン滅亡後のロシア
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佐藤秀の徒然幻視録
2017/05/30 13:36
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パピとママ映画のblog
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プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
2018/01/10 23:42

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
 アンドレイ・ズビャギン(長いので途中で切ってしまっています笑)このロシアの俊英の作品は、長編4本はすべて観ていますが、ぼくのなかでは「父、帰る」を超えた印象でした・・。

特に、後妻を演じたエレナ・リャドウ(若いころのオッタビア・ピッコロかイングリッド・バーグマンにも似た風貌)は素晴らしく、家族との葛藤という面ではベルイマン作品「秋のソナタ」の持つバーグマンの重厚さと苦悩に近いものがありました。

 キリスト教伝来以前のロシア、ヨーロッパ社会が女性尊重だったとすれば、キリスト教の長い歴史の大半は、言わば女性への偏見の歴史でもあり、ロシア正教でもそれは拡大されたことでしょう・・。
ロシア人はたいてい大酒飲みといいますが、この映画でも、子供を含めて男たちは、酒と銃に象徴される男性的なものに夢中になります。ミソジニー(女性嫌悪)と表裏の関係にある、男同士の社会的な絆としてのホモソーシャルな連帯が習慣として染みついている。
桎梏の因習から逃れられないリリアの苦悩を、このロシアの若き名花は見事に演じきったと思います。
 
>プーチンと宗教とを揶揄した
女性裁判官が、何の感情も見せずに長々と判決文を読み下すシーンは非情な権力のあり方そのものでしたね。
>現代神話の趣き
浜辺に打ち上げられた、海の怪物の全身骨格と、冷たくうねる波の間に見える巨大な鯨と思える生物の一部分。
これらが、ぼくに悲劇的な寓話を連想させ、観終わって暫し、ロシアの悠久の大地に思いを馳せました。
 浅野佑都
2017/05/30 17:12
浅野佑都さん、こんにちは。

>長編4本はすべて観ています
おお、そうですか。
僕はWOWOW放映に頼った消極的鑑賞スタイルを長いこと続けていますので、「父、帰る」と本作以外は観ていません。
このタイプの監督は、作品を観続けていくことで理解が深まりますので、日本では心許ないところもあると感じています。

>エレナ・リャドワ
僕も、バーグマンに似たムードがあると思いました。
「秋のソナタ」との比較も頷かせるものがあります。

>キリスト教伝来以前
正確には分かりませんけれど、世界的に女系家族であった可能性が高く、仰るように女性が大事にされていたと思いますね。
キリスト教は女性軽視的であるというのは僕の認識でもあります。日本が男尊女卑的であるというのは、キリスト教が本格的に入ってきた明治以降の日本であって、江戸時代以前武将の奥方などを見ても非常に強い。あるいは、通い婚であった平安時代、家を維持するために女性は非常に大事にされていたと理解しています。

続きます。
オカピー
2017/05/30 21:50
続きです。

>ロシア人はたいてい大酒飲みといいますが
正にその通りです。歌を歌うのも大好きです。日本のカラオケ店で、団体で来れば「カチューシャ」を歌うような連中です。
以前接待してつくづく感じました。

>ミソジニー(女性嫌悪)と表裏の関係にある、男同士の社会的な絆
正にそういう内容に立脚した作品でした。
「父、帰る」で僕は強く父権主義を感じましたが、この監督がそうしたものに関心があることに加え、ロシア人の国民性にきっとそうしたところがあるのでしょう。

>桎梏の因習から逃れられないリリアの苦悩
僕よりしっかりこの映画を捉えていますね。色々と考えすぎて、僕はそういう直情的な部分が抜けてしまいました。

>長々と判決文を読み下すシーン
あれはひどい。人間扱いしていない。

>巨大な鯨
大きな魚に飲まれるのはヨブではなくヨナですが、聖書繋がりとして監督の頭にあったものでしょうか。寓話・神話的ムードを鮮やかに醸成しましたね。
タルコフスキー、アンゲロプロス亡き後、神話的な作品を作る後継者と思います。
オカピー
2017/05/30 23:01

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