プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「リップヴァンウィンクルの花嫁」

<<   作成日時 : 2017/05/22 09:45   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 3 / コメント 0

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年日本映画 監督・岩井俊二
ネタバレあり

「リップ・ヴァン・ウィンクル」はワシントン・アーヴィングの短編集「スケッチ・ブック」に収められた名短編である。高校の時にこの作品を単独で一度、先年念願叶って短編集全体が読めた(日本で紹介されている「スケッチ・ブック」は精選されたものが多い)。アメリカ人なら知らぬ者がいないほど有名なお話で、アメリカ版「浦島太郎」とでも言うべきもの。

さて、その題名を拝借した本作は岩井俊二が日本製実写映画としては「花とアリス」以来12年ぶりに発表した作品である。

高校の臨時教師をしている黒木華は、SNSで知り合った教師・池曳豪と親しくなって、とんとん拍子に結婚することになる。結婚後部屋で発見した女性の持ち物が気になり、SNSで相談するうちに、便利屋の綾野剛を紹介される(実際は彼こそハンドルネームの主であろう)。浮気調査が終わる前に、夫が浮気している相手の恋人という男が現れホテルに連れ込まれる。これも綾野に依頼した結果無事に終わるが、その時の様子を収めたビデオが義母(原日出子)に流出、結局離婚を強制される。

途中でその仕組みが観客に明らかにされるように、実は全て綾野が仕組んだ狂言である。これにより詐欺的にお金儲けもできるわけだが、彼にはもっと大きな目的があるのである。これが面白い。

新居を追い出されて途方に暮れる彼女は辿り着いたホテルに暮らしながらそのホテルの従業員になるが、またまた現れた綾野に「家の掃除などをするだけで月100万円」の仕事を紹介される。元レストランの家屋で留守の家を片付けていると、何と冠婚葬祭で家族・親戚の振りをするさくらバイトで知り合った女優Coccoが先輩メイドとして現れる。
 やがて実はAV女優である彼女は末期がんで、友達になれる人を探していた家の持ち主ということが判る。彼女は「一緒に死んでくれる?」と頼むふりをして一人で死んでいく。
 最初はつっけんどんな態度を取っていた母親りりぃは最後に母親らしい思いを遺骨を届けに来た綾野と華嬢に見せる。これを一区切りにしてヒロインは人生を前向きに捉え始める。

実際に幕切れの時点でどう思ったか定かではないが、臨時教師の時意地の悪い生徒たちにマイクを与えられるほど声の小さかったヒロインが便利屋と別れる際に大きなしっかりした声で「有難うございました」というところで彼女の心境・進境がよく伺える。
 「リップ・ヴァン・ウィンクル」をもじって言えば、目を覚ましたら隣にいたCoccoは死んでいたが、それでも何も変わっていない社会が進境したヒロインには大きく変わって見えるのである。今の日本程度の社会であれば、清濁併存しているとは雖も主観によって良くも悪くもなる、そんな寓話のようなお話なのだろう。

綾野扮する事実上の詐欺師は、前半は彼女に不幸をもたらす悪魔のような存在、後半死という最大の不幸をもたらしきれず彼女が生命力に目覚めるため結果的に天使のような存在になる。
 この狂言回しにより人生を受動的に生かされてしまうヒロインは、この物語自体が悪漢小説のような変遷をたどることもあって、マルキ・ド・サド「美徳の不幸」のジュスティーヌの如し。最後に雷に打たれて死んでしまうジュスティーヌと違って彼女は生き残る。

彼女にとってSNSが生きる糧のようでもあり、これが有機的な人間関係が希薄でそのくせ一部の人間とは密接でありたがる現在の疑似家族・疑似友人的な風潮を象徴し、冠婚葬祭のさくらなどという商売のもそうした一環で出てくるわけだろうが、東京で頼りなく生きている人は、逆説的に元気づけられるのではないか。

配役陣の演技は極めて自然体で終始セミ・ドキュメンタリー・タッチで進められながら内容は寓話的であり、そのギャップが大変面白く観られる。近頃稀な邦画の力作であると思う。

悪漢小説は教養小説なり。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(3件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
リップヴァンウィンクルの花嫁
目覚めるべき現実はもはやない茶番の現実 公式サイト。岩井俊二原作・監督。黒木華、綾野剛、Cocco、原日出子、地曵豪、毬谷友子、和田聰宏、佐生有語、夏目ナナ、金田明夫、りりィ ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2017/05/22 10:28
りりィ(・シュシュ)の子どもたち〜『リップヴァンウィンクルの花嫁』
 岩手県花巻市出身の皆川七海(黒木華)は、東京で派遣教員をしながらコン ビニでもバイトをしている内気な女性。地元出身の作家・宮沢賢治が好きな彼 女のHNは ”クラムボン”。SNSで知り合った鉄也(地曵豪)と結婚することに なったものの、親戚が少ない七海は、これもSNSで知り合った ”ランバラル”  こと、何でも屋の安室行舛(綾野剛)に代理出席を依頼するのだったが・・・。 ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2017/05/22 12:45
リップヴァンウィンクルの花嫁 ★★★★
「Love Letter」「花とアリス」の岩井俊二監督が「小さいおうち」「母と暮せば」の黒木華を主演に迎え、一人の若い女性の心の彷徨と成長を見つめたドラマ。現代の日本を舞台に、ふとしたことから“普通の人生”を踏み外してしまった世間知らずのヒロインが、周囲に流される... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2017/05/22 19:11

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「リップヴァンウィンクルの花嫁」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる