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zoom RSS 映画評「逃がれの街」

<<   作成日時 : 2017/04/29 08:33   >>

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☆☆★(5点/10点満点中)
1983年日本映画 監督・工藤栄一
ネタバレあり

杉下右京役で大人気の水谷豊の若い時が見られると思って見ることにした。原作は人気作家になる前の北方謙三が書いた犯罪小説で、監督は時代劇の多い工藤栄一。

東京で電化製品の配送係をしている水谷は、同郷の平田満による自白で殺人の共犯の疑いをかけられる。やがて無実が証明されて出所するが、勤め先の扱いが悪くなったので自棄になって辞める。高校生の恋人・甲斐智枝美が彼を慕ってやって来ても、彼女がアリバイを証言しなかったため恨み、必要な時にこちらが電話しても出てくれない為恨みがさらに募る。それには彼女の母親・草笛光子の男・財津一郎が彼女をものにしたということがあり、その縺れから彼は呼び出した男を殺してしまう。
 男がヤクザの中堅だった為に子分たちに追いかけられるが、経験の浅い若造ばかりなので逆にやっつける。その頃家族の心中で一人ぼっちになった4歳の少年・坂本浩之と知り合い、彼の伯父・小池朝雄のいる長野県の白馬村に少年を連れていくものの、選挙中の多忙を理由に無碍に扱われた為に屋敷を襲撃、先の殺人で行方を追う刑事・夏木勲に居場所を掴まれ、追い詰められることになる。

北方はハードボイルド小説の作家と言われているが、映画化されたものを見ると、即実的な描写に徹するというハードボイルドの定義に全く当てはまらない。ハードな殺伐としたお話ではあるが、だからと言ってハードボイルドな作品になるわけではないのは言うまでもなく、映画版においては作者が登場人物に寄り添いすぎている。
 例えば、幕切れで雪の上に横臥する主人公を工藤監督は寄りで撮っているが、ハードボイルドであればここはロングのままで終わるべきである。主人公の狂わされた人生に対して切なさを出す効果があるが、これに代表されるようにハードボイルドどころか湿っぽいムードが全編を覆い、もたもた感を生み出してしまう。

1980年代くらいまで邦画の青春映画はこういう陰湿さでうんざりさせることが多かった。水谷がこの6、7年前に出演した「青春の殺人者」も似たような下層クラスの若者の悲劇を扱っていたが、かの作品の出来栄えは断然優秀で、再鑑賞したい邦画の一つとなっている。翻って本作は、作劇的にも疑問が多く、新たに決まった就職先の件はどうなったのか。恐らくその前にくだんの殺人を犯してしまった為に出社(説明会出席)できなくなったのだろうが、時間的関係がよく解らないので疑問として残る。場面の繋ぎに隙間があるのである。
 一応のチャンスを与えられたのだから、それに主人公はきちんと対処すべきだったと思うが、冤罪により運命を狂わされる若者のお話として作りたかったのであれば、新しい就職先の話は違う扱いにすべきであっただろう。現状では、冤罪に関係なく、女性問題により人生行路を誤った形となってチグハグな印象が強い。

社会の不条理さはそれなりに表現され、社会と若者の波長が合わない感じはよく出ているが、彼の自暴自棄が突出しすぎていてメロドラマに堕してしまったのである。

やくざ殺害場面で噴水を赤く染めたり、少年と主人公が出会う場面でのジャンプ・カットなど工藤監督は画面的に色々と工夫をしているのだが。

ジグザグ気取った(若い人には意味不明じゃろう)けれど、チグハグになってしまった。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
 北方謙三 は、純文学の素養があるので文章は流石に上手く、この作品もはるか昔に読んだと思いますが、原作自体がウエットな小説なのでこうならざるをえなかったかと・・。
あまり彼の小説を読んではいないのですが、北方謙三の最高傑作は「檻」ではないでしょうか?

「青春の殺人者」は、高田馬場駅近くの西友スーパーの地下にあった2番館で観ましたが、主演の水谷と原田三枝子が素晴らしいですね(二人の代表作と言って過言ないかと・・)、水谷に殺されてしまう両親役の、内田良平と市原悦子がこれまた良かったのですが、再見できずに幾星霜・・。
この作品と、根津甚八と秋吉久美子主演の「さらば愛しき大地」がもう一度観たいですね・・。

浅野佑都
2017/04/30 04:37
浅野佑都さん、こんにちは。

>北方謙三
1970年代の終わり頃気になった作家ですが、結局読んでいないのですよ。
もうずっと古典を攻めてきたので、現代文学にはなかなか追いつかないのですが、この数年追い込んでいて、現代のものにも手が出せそうな状況になちりつつあります。もう少しお待ちください(笑)

聞くところによると、北方謙三自身はハードボイルド小説を書いているつもりはないらしい。日本人は、殺伐としたハードな小説をハードボイルド小説と勘違いしているのではないでしょうかねえ。

ウェットなのは良いと思いますが、冤罪が若者の人生を狂わせたようで、実際狂わせたのは女性の争奪戦の結果にしか見えませんから、その辺がチグハグに見えたのは問題。作者の主眼は“自暴自棄”の様(さま)にあったのかもしれませんが、それでももっと冤罪にピントを合わせてほしいという気がしました。

>西友スーパーの地下にあった2番館
パール座ですね?
 僕は大塚に住んでいたので、パール座には山手線で、早稲田松竹には都電で出かけていました。懐かしいですねえ。早稲田松竹は現存しているそうです。

>「青春の殺人者」
僕はテアトル吉祥寺のオールナイトで観ました。一緒に観た作品は水谷繋がりで「幸福」(市川崑監督作品ながら全くTVに出て来ずビデオ化もされていない希少作品)、長谷川和彦繋がりで「太陽を盗んだ男」、もう一本は「駅 Station」でした。なかなか豪勢でしょ?
 調べましたら、「青春の殺人者」はDVDで観られるようです。年金でも貰うようになったら買ってみたいと思います。その前にWOWOWあたりに出れば別ですが、ちと無理でしょう。

>「さらば愛しき大地」
僕はあの田園の緑が印象に残っています。
オカピー
2017/04/30 21:26

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