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zoom RSS 映画評「蒲田行進曲」

<<   作成日時 : 2017/03/24 09:04   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1982年日本映画 監督・深作欣二
ネタバレあり

2015年の秋に観た「イン・ザ・ヒーロー」がこの作品(の階段落ち)にオマージュを捧げて作られているのを見て思い出したが、なかなか見る時間がなかった。遂にご本家を35年ぶりに観る。

売り出し中の俳優銀四郎(風間杜夫)の付き人みたいな大部屋俳優ヤス(平田満)が、銀四郎の子を宿した小夏(松坂慶子)を押し付けられて結婚することになり、家族を養うのだと危険なスタントをどんどん引き受け、生傷が絶えない。そして、「新選組」で共演しているライバル俳優・橘(原田大二郎)に主役の座を奪われ、新しい恋人(高見知佳)にも去られて孤独を深める銀四郎の為に映画最大の見せ場となる大階段落ちのスタントを買って出る。

というお話で、妙に大袈裟な演技と進行ぶりだなとニヤニヤ観ていると、これが劇中劇という種明かしがあって楽しませてくれる。劇中劇と言っても実質的にその外枠の劇は本作そのものであるから、メタフィクションと言えるわけで、なかなか興味深い。この幕切れはすっかり忘れていたが、フランソワ・トリュフォーの「終電車」(1980年)と全く同じ趣向である。

日本映画では本作のような舞台裏ものはそれほど作られていず、見た目は製作当時であっても内容的には1950年代で、スターシステム全盛期における俳優たちの序列をシニカルに扱ってこれが相当面白い。

そんな明確な序列を背景に異色な三角関係を見せるのが今でも新鮮であるが、そこで際立つのが中盤以降のヤスの複雑で屈折した心理である。
 彼は仕える銀ちゃんに一種の同性愛的な思いがある。銀四郎に押し付けられたから彼女を引き受ける。母子の為に一生懸命働こうというのは本音であるが、銀ちゃんの一種の愛情を受けることで彼は彼女たちの為に働けていたのであろう。だから銀ちゃんが彼の懸命さに他人行儀になることに却ってジレンマを感じてしまう。銀ちゃんの愛情が遠のいたと感じた時そのジレンマが爆発し、自分に尽くす小夏に激しく当たる。
 彼はどなたかの言うように「自分の不遇な境遇を嘆いて小夏に八つ当たり」したのではない。彼らの関係は形式上の小夏をめぐる三角関係ではなく、ヤスを中心とした(銀ちゃんをめぐる)嫉妬の全くない三角関係なのである。彼は不遇に満足していた自分を見失ったことに対して嘆いているのである。解るかな、解らねえだろうな(笑)。

ヤスの母親(清川虹子)の鋭い洞察力や、彼女と小夏との間に交わされる約束を基礎とする小夏の古風な女心、それらを巻き込みながら夫婦の深まっていく愛情と人情に僕は涙を抑えることが出来なかった。初めて観た二十代の時にはそんなことはなかったのに。

深作欣二の真価が発揮されているのは、案外、本作なのではあるまいか。

「キネマの天地」もそのうち観直そう。

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コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
>自分に尽くす小夏に激しく当たる。

小説でも映画でも、そのあたりが描かれていました。
どうしたらいいのかわからない小夏がいじらしかったです

>>「美しき人生」
>ソロ初期の名曲の一つ。

「マイ・スイート・ロード」よりも出来がいいですよ
イギリスではシングル盤のB面でしたっけ?何と言う勿体無い事を・・・

>売れに売れていただけにビックリでしたよね。

夏目雅子が急遽舞台を降板
「重病説」が流れる。まさかと思ったら・・・
本田美奈子と言えば「Oneway Generation」の身軽な動きを思い出します。
蟷螂の斧
2017/03/26 13:57
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>小夏
ヤスの心境は複雑で屈折しているので、彼女には対応が難しかったでしょう。
鞄を抱えているので家を出て行くのかと思いきや、出産のための入院なのでした。この時ヤスがいなかったのは気の毒でしたね。

原作者はつかこうへいですが、高校の授業中に英語の教師が何故か突然つかこうへいの名前を出したのにはビックリでした。演劇ファンだったのかなあ?

>夏目雅子が急遽舞台を降板
このニュースは憶えています。あんなに呆気なく逝ってしまうなんて。

>本田美奈子
1980〜1990年代は紅白歌合戦も観ないような時を過ごしていた僕は代表曲の「1986年のマリリン」くらいしか知りませんが、名前だけはよく知っていましたから、やはりショックでしたよ。
オカピー
2017/03/26 19:54
 これはぼくは、エンディングのオマージュも含めて、もし音楽さえ良ければ80年代以降の邦画の金字塔的作品だったと思います!
舞台の演技をそのまま映画に持ち込みながらこれほど映画的に輝いた作品は他にはあまり例を見ません・・。
主役三人のカヴァーも、中村雅俊の「恋人も濡れる街角」も決して悪くはないのですが・・。
「ピアニストを撃て」「突然炎のごとく」「恋のエチュード」「アメリカの夜」などで、トリュフォー作品を彩ったジョルジュ・ドルリューのスコアと比べると分が悪すぎますね・・。
深作は、自分にドルリューがいないのを嘆いたかもしれません。

>彼は仕える銀ちゃんに一種の同性愛的な思いがある
人間のどうしようもないダメさや残酷さを笑いの中で容赦なく描き切るつかこうへいの舞台版では、サディスティックな銀四郎と、マゾヒスティックなヤスとの関係性が映画よりも濃く描かれていました。
浅野佑都
2017/03/26 20:20
>「彼は不遇に満足していた自分を見失ったことに対して嘆いているのである。

蒲田行進曲」に限らず、自ら惨めさを選び取り傷つくことでしか自己の存在を確認できないような登場人物たちが織りなす悲喜劇こそが、当時のつかこうへい事務所の真骨頂で、それも70年代という時代性によくマッチしていました・・。
そのことを理解せずに「不遇を嘆く・・」なんて、この傑作に失礼ですね(笑)

映画では、ヤスにフォーカスを当てた分だけ銀ちゃんの描きこみがやや少なくなっている印象でした・・。
生半な映画知識の人では、映画を一度見ただけでは、子夏の心がまだ銀ちゃんに残っていた、などと錯覚しがちな展開なのを、プロフェッサーのように一度の鑑賞だけで阿吽の呼吸でわかっていただけるなら監督冥利に尽きる、というものでしょうね・・。
浅野佑都
2017/03/26 20:22
浅野佑都さん、こんにちは。

>音楽さえ良ければ
近年は大分良くなっている感があるものの、邦画は伝統的に背景音楽が弱く、まだこの頃は過渡期くらいでしょうか。
 ジョルジュ・ドルリューはトリュフォー以外でも充実したスコアを書いていますが、このコンビの互いの相性は抜群でしたね。

>サディスティックな銀四郎と、マゾヒスティックなヤス
この三角関係を成り立たせ、ヤスが小夏に八つ当たりした理由がこれですね。惨めな環境が、浅野さんの仰る、自己存在の確認手段になる。ヤスにとって、不遇は生きるモティベーションにこそなれ、八つ当たりする理由にはならない。

>銀ちゃんの描きこみ
舞台版は知りませんが、バランス的にそう感じられましたね。

>監督冥利に尽きる
恐れ入ります。
オカピー
2017/03/27 13:24
>ヤスの心境は複雑で屈折しているので、彼女には対応が難しかったでしょう。

小説「蒲田行進曲」ヤスが小夏に「あの時、お前は・・・」と色々な事を蒸し返して問い詰める。悲しかったです・・・

>あんなに呆気なく逝ってしまうなんて。

お通夜・葬儀のニュース。まだ「ぶりっ子」が通用していた松田聖子の泣き方を見て、虚しい気持ちになりました

>「1986年のマリリン」

あれも昭和末期の名曲です
蟷螂の斧
2017/03/28 06:30
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>小説
戯曲だけかと思いましたら小説もあるのですか。戯曲の小説化なんですね。

>蒸し返して問い詰める
八つ当たりですが、この時のヤスの心情が屈折していましてね。
責めている相手は実は銀次郎なので、小夏が可愛そう。その彼の心境を小夏はさすがに解らないのだろうなあ。

>ぶりっ子
松田聖子をめぐって生まれた言葉なんでしょうかねえ。
僕らが子供の時にはなかったと思いますが、先年、同級の女性と会った時に彼女が僕の初恋の人について「ああ、あのぶりっ子ちゃんね」と言うのを聞き、「なるほど、ああいうタイプをぶりっ子と言うのか」と納得したり、少し腹が立ったり(笑)

>「1986年のマリリン」
僕は80年代は余り歌謡曲(というか、ジャパニーズ・ポップス)を聴かなかったので、知っている曲自体が少ないのですが、知っている曲は皆良い曲です。

オカピー
2017/03/28 14:43
>戯曲の小説化

「銀ちゃんが、ゆく 蒲田行進曲完結篇」も同じです。
1991年末にドラマ化されました

>その彼の心境を小夏はさすがに解らないのだろうなあ。

解らないでしょう・・・

>なるほど、ああいうタイプをぶりっ子

そう言う思い出や後のコメントはいつまでも残ります

>僕は80年代は余り歌謡曲

80年代前半は僕が一番嫌いな時代です
蟷螂の斧
2017/03/29 20:27
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>「銀ちゃんが、ゆく 蒲田行進曲完結篇」
色々あるんですねえ^^
TV自体を余り観ない生活が長かったので、そのドラマも知らないです。
1991年と言えば、月に残業100時間くらいの頃。

>そう言う思い出や後のコメントはいつまでも残ります
そう言えば、大真面目だった僕が、音楽室のドアを閉めなかった初恋の彼女に「ドアを閉めたらどう?」と勇気を奮って言い、「自分で閉めたらいいじゃない(ぷんぷん)」と反発されてしまった、なんてことも思い出しましたよ^^;
 彼女の将来のことを考えて言ったつもりだったんだけどなあ。

>80年代前半
僕にとっては、大学生から社会人になる前後。就職には苦労したほうなので、嫌いではないけれど素敵な時代とも言えないですね。
 地元の市役所に入って楽をしようと思いましたが、コネの天国であった市役所には入れず。別居の祖父が市役所の現場で働いていたので、利用する手はなかったかということも後で言ったり言われたりしましたが。
オカピー
2017/03/30 12:13

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