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zoom RSS 映画評「海の沈黙」

<<   作成日時 : 2016/12/24 09:46   >>

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☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1947年フランス映画 監督ジャン=ピエール・メルヴィル
ネタバレあり

20年位前にWOWOWで観た時いたく感銘したジャン=ピエール・メルヴィルの静かなる反戦ドラマであり、監督デビュー作である。僕が初めて観た時は日本の劇場では未公開であったが、近年正式に公開に至った模様。昨年ヴェルコールの原作も読んだが、こちらも素晴らしかった。

実は、鑑賞の十日くらい前に映画ブログ【時代の情景】のトムさんがこの映画の話をしてきたのに続き、その五日後くらいに奇しくも「フランス組曲」という極めて似た状況の作品を観たため再鑑賞したくなった。ライブラリーからなかなか探し出せず、目に入ったイングマル・ベルイマンの「沈黙」(1963年)を先に観てしまったのだが。

ナチス・ドイツがパリを占領した後のフランスの小村、音楽家の青年将校イーブルナック(ハワード・ヴァーノン)が、伯父(ジャン=マリー・ロバン、実は当時まだ34歳)と姪(ニコール・ステファーヌ)の暮らす一軒家に滞在することになる。二人は歓迎するわけもなく、無言の抵抗をするが、彼が二人の前で独白して部屋に去っていくのを繰り返すうちに、フランス文学とドイツ音楽を愛して独仏の平和的な結合を願うその存在が慰めのようになっていく。
 しかし、骨休みに行ったはずのパリで戦友たちのフランス語の本を発禁し、野獣(ここではフランス人のこと)を叩き潰すという発言を聞いた将校は絶望に陥り、帰村後前線への復帰を願い出て家を去ることになる。
 老人は、彼の出るドアの横に置かれた小机にアナトール・フランスの本を置いておく。将校は、栞の挟まったページに「犯罪的な命令に従わない兵士は素晴らしい」というフレーズを見出す。

とにかく、メルヴィルの特徴である静謐さがこのデビュー作で早くも見出されることに驚嘆し、その簡潔に研ぎ澄まされた進行ぶりに圧倒された。本作唯一の会話が、沈黙を保ちながら一種の愛情を育んでいたに違いない男女の「さよなら」であるというのが象徴的にして感動的。この「さよなら」は「アイ・ラブ・ユー」に等しいように思われる。姪が初めて発声するのも開巻後1時間近く経ってから・・・

静謐であること、簡潔であることは、意味もない程に出入りの激しいテレビ・ドラマやハリウッド映画を好むような人々には退屈を誘うだけであろう。allcinemaにあった、そうした輩に怒りをぶつけるコメントは理解できるが、審美眼に育まれていない人にこの種の映画の醍醐味は解らないわけで、残念ではあるものの、損をしているのは彼らであって、我々が嘆いても仕方がない。

内容的には象徴が多い。
 彼の愛するフランス文学とドイツ音楽は、主人公の仏独共存願望をストレートに象徴する。ドイツがフランスを占領するにしても良いものは互いに尊重しようという願いである。
 彼が引用する民話「美女と野獣」は、そのままフランスとドイツである。ドイツ(ここでは野獣はドイツ)は醜いかもしれないが実は心優しい。最終的に結ばれた二人(二国)が設けた子供(文化)は両者の良いところを併せ持ちさらに美しい(美しくなるであろう)。
 しかし、彼がパリで観た現実はその願いと理想を打ち破る。老人はアナトール・フランスの言葉を以って、青年将校の自暴自棄を抑えようとする。何という、素晴らしい抒情、素晴らしく人間的な幕切れであろう。

画面的には、ジャン・コクトーの幽玄な雰囲気がかなりあって秀逸であるが、特に強く印象に残るのは、カメラが仰角になって上空を捉えそのままパンして戦場場面である回想シーンに移行するという手法。
 無言の抵抗がいつの間にか愛情に代わった姪の表情が、終盤になって何度かアップで捉えられるのも、台詞によらず感情を打ち出して大いに効果があり、栴檀は双葉より芳し、という諺はメルヴィルの為にあるとさえ思う。

メルヴィルの次の作品がコクトーを原作とした「恐るべき子供たち」というのも面白い。

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コメント(4件)

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オカピーさん、こちらにもお邪魔します。
わたしとしてはメルヴィルは今興味深いところなので、とてもうれしいです。何だかオカピーさんの作品鑑賞の流れを狂わせてしまったかな?
いやあ、それにしても素晴らしい作品ですよね。これが遺作ならわかるんですけれどデビュー作でここまで完成度が高いと・・・<栴檀は双葉より芳し>とは言え、これからどうするの?と心配になります(笑)。
「フランス組曲」も素晴らしかったですけれど品格、やはり美しさの表現はメルヴィルが秀逸です。思うんですけれど戦中のレジスタンスものは、どの人(もちろん戦争経験者)の原作や映画でも、似た状況・テーマが描かれていることが多いですよね。
キーワードはいろいろありますが、
敵方との恋愛、裏切りによる味方の粛清、捕虜の青酸カリでの自害、捕虜の脱獄への執念、抵抗運動の英雄譚・・・「女猫」、「影の軍隊」、「抵抗」、「白バラの祈り」、「鉄路の闘い」・・・描き方や主軸の置き方には種々ありますけれど、いくつかのキーワードが重なったり共通していることも多いように思います。そして、それはどれも全て真実だったような気がします。
しかし、レジスタンス運動で死を決して、みんなで読み回すようなアジテートの手段に、何故、こんな美しい文学が使われたのか、不思議でしょうがないですよ。労働運動に徳永直や小林多喜二を使うなら、まだわかりますけど。私も早速、ヴェルコールの原作を読んでみようと思っているところです。
ただ、確かに、生きることの素晴らしさ、人間の尊厳、敵国の人間が決して鬼畜ではなく、むしろ本物のインテリジェンスを持った素晴らしい人間がいること。確かに勇気や歓びを与えてくれる内容かもしれませんね。
では、また。
トム(Tom5k)
URL
2016/12/26 00:22
トムさん、こんにちは。

>オカピーさんの作品鑑賞の流れを狂わせてしまったかな
大丈夫ですよ^^
新作鑑賞スケジュールに穴が開き通しなので、ちょうど良いと思いました。
年末にかけて、また新作に観るものがない。
邦画をいくつか録画してありますが、大したことなさそうですし。

>「フランス組曲」
あの映画の大衆性は、それはそれで侮りがたい。
それ故に、仰る通り品格では落ちますが。
ヴェルコールの「海の沈黙」が発表されたのは1942年と記憶していますが、収容所で亡くなった「フランス組曲」の原作者はどこかで読んでいたのではないでしょうか?
偶然だとしたらこビックリするくらい似ていますよね。
「フランス組曲」という曲は、作品の中でドイツ人将校が作った曲として出てきますが、「海の沈黙」が独仏の架け橋としているバッハも作っています。実に興味深い。絶対読んでいるな(笑)

>本物のインテリジェンスを持った素晴らしい人間
「ふたりのアトリエ〜ある彫刻家とモデル」という何年か前の西仏合作映画で、美術の造詣が深いドイツ人将校がほんの少し絡んでくるのですが、この将校が本作や「フランス組曲」の音楽家と通底するものがありましたよ。

>アジテートの手段に、何故、こんな美しい文学が使われたのか
ショーペンハウアー「意志と現象としての世界」という難しい哲学書を読み終えたところですが、美には人間の根源に絡むものがあるようで、人間存在と芸術との関係を論じた第3巻を読むと、解るのではないかなあと言っておいて、逃げます(笑)
現在の僕にはまるで説明できないので。
オカピー
2016/12/26 20:19
オカピーさん、こちらにも再度お邪魔します。
ヴェルコールの「海の沈黙」読了しましたので報告にあがりました(笑)。
いやあ、原作本も素晴らしいですね。私はこの原作のほうが、フォン・エブレナクの絶望感がより、ひしひしと伝えられたように思います。ナチが踏みにじろうとしたのは、フランスではなく全世界の良識、文化・教養だったのでしょうね。結局、自分自身の良識に報復されることになるということをヴェルコールは訴えていたような気がします。
こういった抵抗文学は英雄譚も含めてなのですが、とにかく美しいですよ。それだけれで心が洗われるような気がします。
では、また。
P.S.
コクトー原作「恐るべき子供たち」読み始めています(笑)。
トム(Tom5k)
URL
2017/01/05 00:06
トムさん、こんにちは。

原作本、素晴らしいでしょう。

>自分自身の良識に報復されることになる
言い得て妙ですね。
本当に美しい小説で、狙ってはいませんが散文詩の趣。僕などは奇跡の書とでも言いたい気持ちになりました。

>「恐るべき子供たち」
あっという間に読める長さしかありませんが、偶然にも今日、読了しました。奇遇ですねえ。
現代におけるギリシャ悲劇の再現のようでした。これも美しい。内容こそ違え「オルフェ」や「美女と野獣」の画面が脳裏を横切る感じ。文章と映像の感覚が近い気がしました。
オカピー
2017/01/05 19:53

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