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zoom RSS 映画評「沈黙」(1963年)

<<   作成日時 : 2016/12/22 09:01   >>

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☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1963年スウェーデン映画 監督イングマル・ベルイマン
ネタバレあり

40年近く前東京の映画館で観た。イングマル・ベルイマンが好きだと言いながら「ペルソナ」(1966年)以外は余り繰り返して観ていず、これもそれ以来の二度目であると思う。

本作は、「鏡の中にある如く」「冬の光」に続く“神の沈黙”三部作の最終作という位置づけで、生易しくない作品が多いベルイマンの中でも最も難解な部類であろう。

列車での旅行中、10歳くらいの息子ヨハン(ヨルゲン・リンドストレム)を連れた30代の母親アナ(グンネル・リンドブロム)が、同行するアナの姉エステル(イングリッド・チューリン)の持病悪化の為、某国に降り立つ。
 某国は、妹が「暑い」としきりに言っていること、戦車が出て来ること、新聞の文字から推測して、欧州東南部に位置する架空の共産主義国家であろう。
 彼女たちの精神状態の有り様を冷戦を背景にした世界的不安に象徴させた(或いはその逆)という見方もできるが、ほぼ同時代に“愛の不毛”三部作を作ったミケランジェロ・アントニオーニに比べ、冷戦は重要でない気がする。

翻訳などの文筆を生業とする優等生の姉は病気に苦しみ孤独をかこつ余り煙草や酒に走り自慰にふける(恐らく一般映画で自慰を描いた初めての作品)一方、奔放な妹は街に繰り出し酒場で引っ掛けてきたバーテンダーと隣室でヨロシク楽しむ。理知的な姉にコンプレックスを持っている妹にとっては当てつけだろうが、姉はその現場を目にして苦悩を深め病気も重症化する。
 結局、妹はそんな姉を放って息子を連れて旅立ってしまう。姉はこの国の言葉でただ「精神」と書いた手紙を息子に渡す。

見かけ上は、姉妹の葛藤のお話である。しかし、息子を含めて人物の配置が似ている「ペルソナ」と関連付けて見ると、対照的な姉妹は精神分裂した一人の人物のようでもある。
 ベルイマンは、両者の苦悩ぶりに(信心なき)現代人の普遍を投影し、行間に神の沈黙即ちその不在を感じさせる。多分インテリのキリスト教徒であれば、本作やフェリーニの作品の多くが神の問題を扱っていると直観的に理解するのであろうが、日本の凡俗の徒である僕などは論理的に推測してそう思うしかない。だからこの作品の内容上の凄みは半分くらいしか解らないというのが実際である。

反面、スヴェン・ニクヴィスト(撮影監督)とのコンビによる、光と影を強調するハイ・キーの撮影はいつも通り圧倒的。特にホテルの内部での直線を生かした縦の構図に美しいものが多い。ドア枠の左に行った時は服を着ていたアナが全裸で戻って来て枠の右に消えるワン・ショットなど何気ないのにひどく絵として映える。

姉妹がややずれて窓の外を見やるショットは、徹底してベルイマンを模倣した「インテリア」(1978年)でウッディー・アレンが恐らく拝借している。

再びお話上のお話。
 所在なさにホテルを歩き回って人々の様々な営為を見出す少年は一種の狂言回しであるが、彼が力をなくした神であるという見方が出来ないでもない。彼の持つおもちゃのピストルや戦車の火砲が男根をシンボライズしているという考え方もまたある。
 等々、色々考えさせるので、難解であっても実に面白いと言うべし。

「直観」と「直感」は違う。上記の「直観的」は勿論「直感的」ではない。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは!

難解で見る者を突き放す厳しさを持つ作品ですが、個人的には撮影技法やその選択などでとても刺激的な作品で、映画の作り方の教科書として研究すべきベルイマン監督の代表作だと思います。

一見すると冷たいと感じる人がいるのでしょうが、根底に流れるのは人間へのあたたかいまなざしではないでしょうか。

今年も一年ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。

それでは、良いお年を!
用心棒
2016/12/31 01:08
用心棒さん、こんにちは。

難解な作品にも色々あり、いけないのは、何から何まで客に丸投げするタイプ。お話の幕切れまで観客次第というのですから、お手上げ。考える気にもならない。
ところが、ベルイマンはそうではない。ショット一つ一つにすら意味を考えさせるものがあり、どの映画も美しいですよねえ。僕は大好きです。

>人間へのあたたかいまなざし
人間に関心のある監督ですから、仰るように、心底はヒューマンなんだと思います。

本年は有難うございました。
来年もよろしくお願い致します。

良いお年を!
オカピー
2016/12/31 20:20

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