プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「狂った一頁」

<<   作成日時 : 2016/11/07 09:59   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 1 / コメント 18

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1926年日本映画 監督・衣笠貞之助
ネタバレあり

衣笠貞之助監督のこのアヴァンギャルド作品を、僕はずっと、焼失して金輪際観られない作品と思い込んでいたが、先日別の映画について一番古いブログ友達【良い映画を褒める会】の用心棒さんと話していた時にYoutubeで観られることを知った。
 用心棒さんの情報やものの本によると、1971年に衣笠邸でフィルムが発見され、音楽をつけて欧米に続いて日本で公開されたということである。1926年であるから世界的にはサイレントの晩年に属するが、日本では最盛期であろう。いずれにしても大正時代の一般大衆の理解を越えた怪作であるからヒットはしなかったものの、この年に始まる【キネマ旬報】邦画部門の第4位に入った。

お話のアウトラインは簡単と言えば簡単。

妻が入所している精神病院の用務員になった老人(井上正夫)が日々様子を伺って連れ帰るチャンスを狙って実行しようとする、というもの。ただ、一切の字幕がないのでそれすら解らない方もいらっしゃる方かもしれない。

いずれにしても、重要なのはそのお話を語るための映像テクニックである。中でも全編を覆う多重露出が目立つ。これにより幻想性が鮮やかに醸成もしくは暗示される。実際にも、主人公が院長を殺すのは幻想であることが後段の展開で解り、これは影響を受けたとされる「カリガリ博士」(1919年)の主人公が院長を監禁する件(くだり)の扱いとそっくり。逆にそっくりだから影響を受けたと言われるわけで、衣笠監督曰く「『カリガリ博士』は観ていない」と。尤も原案・脚本主筆の川端康成は観ているかもしれない。

精神病院が舞台であるためダッチ・アングル(斜め撮影)も使われる。観客に恐怖や不安を覚えさせる効果があると言われ、これは1940年代に流行した。或いは、高速のパン(パンに見せかけたものか?)の積み重ね。
 開巻直後、豪雨の中を走る車と病院のカットバックも新鮮であり、秀逸と言うべし。最終的にこれが二重露出やごく短いカットで繋がれ、圧巻。それに導かれて始まるのが病室の中で激しいダンスで、まるでこの翌年事故死するイサドラ・ダンカンを見るが如し(彼女のダンスは映像に殆ど残っていないので全く想像に過ぎないが)。

監督ご本人が絡んでいるだけに後付けの音楽が非常に的確にして効果的、セリフを十分に補っているように思う。しかし、どちらかと言えば若い娘や子供が絡んでくる常識的な場面に不明な点があるのが気になり、まだまだ解らないところが多い為、実験性と先端技術の駆使という印象を述べるに留めざるを得ない。

上映時間がオリジナルに比べて10分ほど短いようであるが、必ずしもカットを意味しないと考える。ヒッチコックのサイレント時代の諸作も当時の記録より現在の上映時間が概ね10%以上短く、僕は映写機のスピードが相対的に違う(16コマと24コマの違いにあらず)のではないかと推測するのである。

戦前の邦画に名作あり。大昔より観られず。また悲しからずや(『論語』のパロディーなり)。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
『狂った一頁』(1926)奇跡的に見つかった日本発の前衛映画。未だ発売されず。
 タイトルは『狂った一頁』と書いて、“くるったいっぺーじ”と読みます。『カリガリ博士』に代表されるドイツ表現主義やセルゲイ・エイゼンシュタインが唱えたモンタージュ手法の集大成である『戦艦ポチョムキン』が映画界を席巻していた1920年代はサイレント黄金時代でした。 ...続きを見る
良い映画を褒める会。
2016/11/08 00:21

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(18件)

内 容 ニックネーム/日時
YouTubeでは思わぬ収穫がありますね。
こんなのが観れるんだと驚くことがあります。
ねこのひげ
2016/11/07 23:48
こんばんは!

僕らがこの作品を見るとどうしても撮影技法に目が行きますねwww

しかしよくもまあ、これほどの完成度を誇る作品が戦前に完成していたものですよね。今見ても圧倒的な迫力と生々しさに驚くばかりでした。

ではまた!
用心棒
2016/11/08 00:19
ねこのひげさん、こんにちは。

>Youtube
凄いですね。
「アッシャー家の末裔」「霊魂の不滅」という90年前の欧州映画が貴重で、多分よく解らないと想定しつつ、観る予定です。
オカピー
2016/11/08 18:11
用心棒さん、こんにちは。

オーヴァーラップは今世紀の初めにはもう使われていたのですのからビックリですが、それから四半世紀経っているとは言え、本作のような使い方は芸術的に先端だったのではないでしょうか。

序盤のカットバックから踊りに至るまでの編集は、怒涛と言うしかないですねえ。
見ながらピンク・フロイドの「原子心母」の終盤部分が頭の中で鳴っていましたよ。それまで出てきたメロディーが一斉に奏でられる、あの感じ。
オカピー
2016/11/08 18:21
こんばんは!

前衛映画には即興ジャズや初期プログレが合いますね。「原子心母」「狂気」などのピンク・フロイド、キング・クリムゾン「暗黒の世界」「太陽と戦慄」「レッド」は若い人にも押さえておいてほしいのですが、無理でしょうねww

映画自体はとても洗練されていて、古さを全く感じなかったのが新鮮な驚きでしたよ。溝口監督ファンとしては「血と霊」なんかもどこかからひょっこりと出てくると嬉しいですよw

ではまた!
用心棒
2016/11/08 18:35
用心棒さん、こんばんは。

映画につけられていた前衛ジャズ的な音楽も良かったですが、僕の頭の中では「原子心母」ががんがん鳴っていましたねえ。
最初の二枚より後のキング・クリムゾンも強烈で、こうした映像に効きそうですね。

>「血と霊」
詳細は知りませんけれど、この頃の作品が出て来ると良いです。
「忠治旅日記」なんて世界のどこかに埋もれていませんかねえ。

オカピー
2016/11/08 22:27
こんばんは!

>忠治旅日記
1990年代に広島の民家でフィルムが見つかったそうで、5年くらい前にCSの衛星劇場で106分版が放送されていたのですが、見事に録画に失敗し、今日に至るという感じですww

DVDは出ていませんが、こういうのこそソフト化すべきですね。ぼくは『狂った一頁』を見た後に同じ衣笠作品の『十字路』を買ってしまいましたww

阪妻の鬼気迫る演技が印象深い『雄呂血』も好きですよ。

ではまた!
用心棒
2016/11/10 20:23
 ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、エマーソン・レイク&パーマーで当時プログレ四天王といわれてましたね!
プロフェッサーと用心棒さんのやりとりは、最初に近くから、徐々に距離をとって力強く投げ込む野球のキャッチボールを見ているようで楽しいですね!

最近の若者も、ユーチューブの恩恵で、プログレッシブやオルタナティブロックを時間を巻き戻して聴いてるようですが、この時代に洋楽を愛する彼らはアンテナを張った所謂エッジの利いた人たちです・・。
70年代は、ぼくのような、ごく普通の中学生や高校生が、ヒプノシスの製作した印象的な牛ジャケットを持っていたり、タンジェリンドリームを聴いてたりしてましたから・・。
ELPのファンだったぼくは、台風の迫る72年の後楽園球場のコンサートに行った従兄弟をうらやましく思ったものでした・・。
あと、ちょっと早く生まれていて群馬でなく東京に住んでいたらなぁって・・(笑)
浅野佑都
2016/11/11 15:32
用心棒さん、こんにちは。

>忠治旅日記
そう言えば、そのニュースは聞いたことがあるような気がします。
この数年色々あって忘れておりました^^;

>DVD
絶対必要ですね。
運が良ければ、(貧乏人には助かる)Youtubeで見られますし、そうでなくても購入すれば確実に見られるわけですから。

>『雄呂血』
は、衛星放送で観ました。
後年のほんわかムードとは違う阪妻に痺れましたねえ。
「御誂治郎吉格子」も前世紀にBSでやっていたのを録画しましたが、一部しか入っていなかった。図書館にあるのを確認してあるので、後日観る予定です。
この時代の時代劇は、凄いデス。
オカピー
2016/11/11 19:37
浅野佑都さん、こんにちは。

>プログレ四天王
僕は中学生の時はFMで流れるのを聞く程度でしたけど、後年のめりこみました。
加えて、メロウなムーディ・ブルースも結構お気に入り。

>タンジェリン・ドリーム
少しマニアック。
僕はFMでエアチェックした程度だから、彼らについては余り語れませんね。

>ヒプノシスの製作した印象的な牛ジャケット
僕の周囲には見かけませんでしたが、多分隠れてプログレを聴く連中はいたのでしょう。そういう人とお友達になりたかった(笑)
中学の時からよく知っていましたけど、実際にレコードを買ったのは大学生になってから。「狂気」が一番、「原子心母」のA面もよく聴きましたよ。

>ELPのファン
それは大人っぽい!
中学時代「展覧会の絵」は名前だけ知っていましたけど、曲としてよく聴いたのは「ラッキーマン」。

>ちょっと早く生まれていて群馬でなく東京に住んでいたらなぁ
僕は、もう少し早く生まれていれば、ビートルズをリアルタイムにきちんと体験できたのになぁ、と思います。どうせ武道館のチケットは手に入らないから群馬でも良かったですが(笑)
ラジオで何曲かは聞いて憶えましたが、あの程度では知っているとは言えない。残念だなぁ。兄貴は1953年生まれなのに…
オカピー
2016/11/11 21:38
こんばんは!

>ELP
エマーソン、レイク&パーマーでしたが、80年代中盤にコージー・パウエルを入れた時もELPになっちゃったんで大笑いしましたよww

ぼくは『展覧会の絵』と『トリロジー』、そして後期のエイジアのような『ラブ・ビーチ』や浮世絵ジャケットのベスト盤などを持っていました。あと好きだったのはキャメルですかね。

しかしまあ、すごいバンドが多かったので、どれを買うか、どれを誰に借りるかで人脈が広がりましたよね。

ふだんしゃべらなかった奴でも、「えっ!お前ZEP好きなの?」とか「あいつがビートルズの『武道館ライブ』の海賊盤持ってるらしいぜ!」とかで仲良くなったりしましたよ。シン・リジィやリトル・フィートのアルバムが好きだなんて言うやつは「渋いなあ!」と言っていましたし、中古レコード屋のおやじさんから60〜70年代のブリティッシュロックのシングル盤とかレジに持って行くとニコニコしながら話しかけてくれたのも良い思い出ですなあww

ではまた!
用心棒
2016/11/12 00:44
用心棒さん、こんにちは。

>コージー・パウエル
あれは面白かったですね。同じ姓の人と結婚して、結局籍を入れても名前が変わらなかった人のような。
浅野佑都さんの感想はどうだったのかな?

>エイジア
プログレ系から結成されたエイジアとか、その頃新盤を出したイエスが余りにポップだったので、「ちと違うや」と思ったものです。
当時ムーディ・ブルースもエレクトリック・ライト・オーケストラみたいになって面白くなくなりましたし(ELO自体は嫌いではないですが)。

>キャメル
これもテープ止まり。
中世の楽器を使うグリフォンなんてバンドも面白いと思いましたが、結局盤は買わずじまい。円高の時に輸入盤を物色したけれども、安いのがなかった。

>ZEP好きなの?
で、思い出すのは、大学に入った当初僕がロックを聴くと聞いて友達に驚かれたこと。いかにも上品そうな顔をしている(笑)僕はクラシックでも聞いているように見えたのでしょう。その彼はピンク・フロイドとビートルズが好きで僕と好みが重なり、よく付き合うようになりました。レコードも売っていたスポーツ用品店【ヴィクトリア】でブートレグを漁っていましたよ。

>リトル・フィート
シン・リジーは割合聞きやすいハードロック・バンドでしたが、サザン・ロックは渋いですね。代表作「デキシー・チキン」はブラック・ディスクとCD両方とも持っています。
渋いと言えば、ザ・バンド。アナログ盤でも持っていましたが、CDで聴き直して本当に良さが解りました。「ミュージック・フロム・ビック・ピンク」は涙を流しながら聞きましたよ。僕もシン・リジィならぬじじぃになったということか。

つまらぬ洒落ですみません。では、また。
オカピー
2016/11/12 18:59
こんばんは!

>洒落
洒落はぼくらオジサン世代のコミュニケーションの潤滑油ですよww
若い子に言って、ドン引きされる感じが好きですよ!

>付き合う
大学のころ、洋楽をあまり知らないという友人のためにカセット5本組くらいで60〜70年代ロックをまとめたのですが、その友人が車に乗った時に別の友人にテープを聴かせたところ、ヤードバーズ、クラプトン、ヴァニラ・ファッジ、10t、ブルース・スプリングスティーン、キング・クリムゾン、キンクス、マディ・ウォータースなどに加えてジャズのチャーリー・パーカーやソニー・ロリンスらを入れた選曲に彼がかなり興奮したらしく、その後に会って友人になったのもいい思い出です。

>ザ・バンド
『ザ・ウェイト』『アイ・シャル・ビー・リリースト』など名曲揃いですよね。映画『ラスト・ワルツ』も好きですし、まだ録画したのを持っています。独特なゆったりとしたうねりが好きですが、1990年代まで活動していたんですよね。

また『ラスト・ワルツ』が見たくなりましたww

ではまた!
用心棒
2016/11/12 21:37
用心棒さん、こんにちは。

>テープ
と言えば、30年くらい前に洋楽にご無沙汰していた姉貴に僕の持っているレコードからピックアップして、90分テープにまとめたことがあります。どういう印象を持ったか知りませんけど(笑)

>キンクス
最近キンクスの初期から中期のCDを聴いているのですが、60年代後半大流行した日本のグループ・サウンズに一番似ているのは、一番人気のビートルズやローリング・ストーンズではなく、キンクスではないかと感じます。面白いなあ(何が?笑)

>マディ・ウォータース
そりゃまた凄い選曲。何年か前に二枚組のベストを買いました。あの頃はブルースの大物を色々揃えたものです。

>ソニー・ロリンズ
ジャズでは一番好きなので、かなり持っていますよ。
当り前過ぎてつまらないでしょうが、「サキソフォン・コロッサス」は痺れますね。

>『ラスト・ワルツ』
昔見た時はそれほど聴き込んでいない時期だったので感慨もなかった記憶がありますが、今観たら泣くかも(笑)

ではでは。
オカピー
2016/11/13 19:39
こんばんは!

昔の映画を我が家のDVDラックで探してみたところ、さすがにメディアがビデオからDVD化してから15年近く経つので、数千枚のWOWOWやスカパーから録画したDVDがありますが、整理するのが面倒です。

スコセッシのブルース・ムーヴィー・プロジェクト全部、『バングラデシュのコンサート』『ヤア!ブロード・ストリート』『ジギー・スターダスト』『ハーダー・ゼイ・カム』などがありました。映画ではありませんが、山口百恵ラスト・コンサートもありました。

>泣くかも
楽しいはずの『ビートルズがやってくる ヤアヤアヤア!』(あえて邦題!)で躍動するビートルズやパティ・ボイドを見ていても、ジェーン・アッシャーを『早春』で見ても、なんだか泣けてきますよww

ではまた!
用心棒
2016/11/13 23:03
用心棒さん、こんにちは。

>整理
僕は一年以上かけて、ビデオで録った貴重な古い作品をブルーレイ・ディスクに移しました。元々大した画質ではないため最低のモードにすると一枚に15本くらい入るので、ビデオを捨てた後部屋が広くなりましたね。まだ残っているビデオもありますが、概ね片付きました。
DVDは移せませんが、再放送で半分以上はカバー(ブルーレイにハイビジョンで録画)したでしょう。
新しい映画がつまらない為、年々これらに触れる機会が多くなるはずですので、無駄な作業ではなかったと思います^^

>ブルース・ムーヴィー・プロジェクト
全部デジタル・ビデオに保存してありますが、現在2年ほど機械が休眠中。生きていれば観られますが^^;

>なんだか泣けてきますよ
年を取ると涙もろくなりますねえ。
今日も「ソロモンの偽証」を観て、若者たちの懸命さに泣けてきました。
やれやれ(笑)
オカピー
2016/11/14 18:25
こんばんは!

どうしても昔の映画には鼻が働きますので溜まる一方ですね。新作に関しては基本的に観に行ったものは録画しませんし、新作はTSUTAYAさん任せですww

>休眠中
3本見ましたが、なかなか楽しいですよ。マディ・ウォータースなんかも出てきたのには驚きました。

ではまた!
用心棒
2016/11/15 00:10
用心棒さん、こんにちは。

僕は、新しい映画でも「良かった」と思うと、どうしても録ってしまう。一時はかなり厳選していましたが、最近はハードルが下がってまた増え始めました(ブルーレイで画質を多少下げて録っていますので、物理的にはそう増えませんがね)。
しかし、全体的に新作のレベルは低下するばかり。そんなわけで、今年後半は再鑑賞を増やしています。

>マディ・ウォータース
サン・ハウスも出てきましたよね。彼のCDも買いました!
オカピー
2016/11/15 21:36

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「狂った一頁」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる