プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「霊魂の不滅」

<<   作成日時 : 2016/11/23 09:30   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 2 / コメント 8

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1921年スウェーデン映画 監督ヴィクトール・シェーストレム
ネタバレあり

ヴィクトール・シェーストレムは日本では「野いちご」(1957年)の老医師役で有名で、戦前の名監督でもある。その時代の作品はまず日本では観ることが出来ないものの、Youtubeで一番有名な本作を観ることが出来たのは僥倖と言うべし。

救世軍のシスター、エディット(アストリッド・ホルム)は死の床にあって、世話をして来た酒乱のダヴィッド・ホルム(シェーストレム)の行く末を心配している。折しもそのダヴィッドは年越しの瞬間にホームレス仲間と喧嘩になって昏倒する。
 そこへ死神の御者が現れて「この瞬間に死んだ者は一年間死の馬車の御者にならなければならぬ」と告げ、ます臨終の床にあるエディットに二人して会いに行く。死神の御者は次に、彼が入獄中に子供を連れて家を出てしまった妻(ヒルダ・ボルグストレム)が困窮の余り子供二人を道連れに死の旅路に出ようとしている家に出かける。
 その原因が自分にあることをよく承知しているダヴィッドは何とかしてくれと涙を流す。死神は生については何もできないと言うが、涙を見て彼を死から救う。魂が肉体に戻った彼は慌てて家に向かい、妻がまだ無理心中を実行していないのを見て安心する。妻も夫の改心を知る。かくしてエディットは安堵して死んでいく。

二重露出を大量に使用するのは先日の「アッシャー家の末裔」(1928年)に似るが、こちらには此岸における幽体や死神を表現するという物語展開上の必然性が高い。いずれにしても、それにより抜群の幻想性が生み出され、神秘主義的映画というスウェーデンの伝統につながっていく。
 後年のスウェーデンの大監督イングマル・ベルイマンもこの映画に感化された一人で、「第七の封印」(1956年)という死神が出てくる作品を作っているが、直接の影響下にあると言われるのは実は「野いちご」で、主人公役に本作の監督シェーストレムを使ったのは表敬の意味もあるらしい。

善と悪をヒューマニズムの観点から捉えている内容については、救世軍の主張が些か宗教的にすぎる嫌いがあるにしても、回想の中に回想が入ってくるという多重構造のお話をなかなかスムーズにがっちりと展開させていて感銘させるものがある。

また、同じ時期のドイツ映画(表現主義時代)は勿論、ハリウッド映画に比べて、メイクや演技がぐっと自然でリアリズム志向なのも注目に値する。同時代のスウェーデン映画を全く観たことがないので、これがスウェーデン映画全体の傾向だったのか、はたまたシェーストレム個人の方向性だったのか解らないが、映画史的にリアリズムを考える時本作は案外重要なのかもしれない。

原作は、僕も小学生時代に読んだ「ニルスの不思議な旅」で有名なセルマ・ラーゲルレーヴ。

古い映画しか観るべきものがない。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(2件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
『霊魂の不滅』(1920)サイレント黄金期の傑作。日本ではこの映像美を見られないのが残念です。
 北欧スウェーデン生まれの映画監督、ヴィクトル・シェストレムのサイレント映画の傑作『霊魂の不滅』が公開されたのは今から一世紀近く前の1920年となります。 ...続きを見る
良い映画を褒める会。
2016/11/25 02:19
一年遅れのベスト10〜2016年私的ベスト10発表〜
 群馬の山奥に住み、体調も万全とは行かず、WOWOWを中心にした映画鑑賞生活ですので、僕の2016年私的ベスト10は皆様の2015年にほぼ相当する計算でございます。  スタンスとして初鑑賞なら新旧問わず何でも入れることにしていており、その年の状況によってはとんでもない旧作を入れることがあります。昨年はYouTubeでサイレント映画の秀作を幾つか観ましたが、果たして? ...続きを見る
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
2017/01/16 13:15

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは!

これだけ凄味のある作品、100年近く経ってもまだ才能がほとばしる活き活きとした映画がなぜソフト化されていないのか理解に苦しみますね。

ヨーロッパのPAL盤で購入しましたが、当時はけっこう高かったのを覚えています。今じゃ、YouTubeで見られるわけですから、もうちょっと待つべきだったかもですww

今後も『極北のナヌーク』とかも見られるかもしれませんね。ぼくはこれも買っちゃいましたwwまだ記事にしていないので書けたらアップします!

ではまた!
用心棒
2016/11/25 02:17
用心棒さん、こんにちは。

>ソフト化
僕は消極的な態度を決め込みWOWOWとNHKにしがみついているので、未ソフト化の作品にどんな貴重なものがあるのかよく知りません。
しかし、未ソフト化と古い映画のTV放映はかなり関係があるようで、現在はデジタル・マスター化された作品以外は原則的に放映しない印象があります。フィルムが揺れませんし、フィルム交換の印も出てきませんもの。

>YouTube
本作の場合もの凄く綺麗な状態で驚きました。

『極北のナヌーク』には期待しちゃいます。
ソフトがあるということは可能性が十分にあるということですね。
ヨーエ・マイの『アスファルト』が観たいのですが、これも日本ではまず観られませんよね。IMDbには投票している方が1000人くらいいるので、何らかの形で観られるのだと思いますが。
オカピー
2016/11/25 18:10
こんばんは!

日本もクールジャパンとか言うのならば、クラシックの名作がセンターに保存されているでしょうから、バンバン積極的に海外映画祭に持って行くとか、クラシック映画祭とかやればいいんですよ!

>フィルム交換
ビデオ時代まではそのまま残っていましたね。あれでフィルムが何巻なのか分かりましたし、どこまでを区切りとして製作側が考えているのかとか分かって楽しかったんですけどね。

>何らか
権利も大切でしょうが、新しいファンの掘り起こしをもっと考えるべきでしょうね!

ではまた!
用心棒
2016/11/26 01:07
用心棒さん、こんにちは。

>クールジャパン
おっしゃる通りですね。
数年前まで、日本映画を代表する名作「飢餓海峡」がIMDbになかったのも、海外への売り込みが消極的な証拠ですし、最新作も、海外において、韓国映画より全然見ている人が少ない。

>権利
利益追従は継続のために必要すけれど、映画ファンが増えないと映画はすたりますね。WOWOWでも見るべき新作の外国映画が非常に少ない。現在は、程度の低い邦画にばかりフォーカスが当たっているのですね。
オカピー
2016/11/26 20:34
こんばんは!

ブレッソンも最近書かれていますが、若い人たちはまず彼を知りませんね。映画の作り方だけでなく、考え方を『シネマトグラフ覚書』などを参考にすれば、映画ファンとしての審美眼は格段に増すはずなのですけど残念ですね。

映画界が変わらないならば、映画ファンが変わらねばならないのでしょうが、まず無理でしょうね。

>ではまた!
用心棒
2016/11/27 20:44
用心棒さん、こんにちは。

世界中の観客が僕らのようなシネフィルになる必要もないわけですが、「映画とは何か」ということと格闘する映画ファンが増えてほしいと思いますね。
若い頃僕は日夜研究し続けた双葉十三郎先生の☆★を夢に見たものですよ。相変わらず未熟ですけど、漫然と映画を見ていただけでは、ここまですら来られなかったでしょう。

>映画界・・・映画ファン
映画は他の芸術に比べ商業性が高いので、映画ファンのレベルが映画界のレベルを決めていくと思います。
ベルイマンのTVドラマが作られるスウェーデンの視聴者、観客のレベルは高いのだろうなあと思ったことがあります。
オカピー
2016/11/28 20:48
こんばんは!

>ベルイマン
さすがですね。ただあちらでもベルイマンの後継者と呼ばれるほどの映画作家は出ていませんし、難しいのでしょうね。

 映画を見始めた人には映画を見た時にここが引っ掛かるなあとか、ここで感じた違和感は何なのかなあとかそういった感覚を大切にしてほしいですね。

ではまた!
用心棒
2016/11/28 23:13
用心棒さん、こんにちは。

しかし、最近はスウェーデン製のミステリーがたまに紹介されて、独特の陰鬱さにベルイマンや本作のシェーストレムの影を感じますよ。
世界各国の映画がアメリカナイズされてつまらない中、なかなか貴重だなと思って、観るチャンスがあれば結構観ております。

>違和感
そうですね。
たまに書き込んでくれる若いドラゴンさんが、僕の指摘したことから「自分が感じた違和感の理由が解った」とコメントしてくれた時は、自分のブログが役に立つこともあると思えて嬉しかったものです。
オカピー
2016/11/29 18:59

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「霊魂の不滅」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる