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zoom RSS 映画評「灰とダイヤモンド」

<<   作成日時 : 2016/10/27 09:28   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1957年ポーランド映画 監督アンジェイ・ワイダ
ネタバレあり

アンジェイ・ワイダが先日亡くなった。ブログを始めて以降新しい作品は勿論、「地下水道」(1956年)も再鑑賞したが、一番有名な本作にはなかなか手が伸びずにいたので、初見作品に全く観るべきものがないこのチャンスに乗じて観、追悼することにした。

本作を初めて観たのは1979年のリバイバルにおいて、初公開の20年後、今から37年前である。今の僕が1996年に観た作品を振り返ってもそう昔には思えないのに、当時の僕は大昔の映画を観る気分だった。

製作の12年前、1945年5月ポーランドにソ連側(共産主義)の新体制が出来る。反体制派の闘士マチェク(ズビグニエフ・チブルスキー)は同志アンジェイ(アダム・パブリコフスキー)と共に、新政府の要人シュチェーカ(ヴァクラフ・ザストジェジンスキー)を待ち伏せして車ごと銃撃するが、人違いと判明したので、要人も参加する新政府樹立の祝賀会が開かれるホテルに身を隠す。
 しかし、マチェクはホテルのバーで女給クリスティナ(エヴァ・クジジェフスカ)と知り合い逢引するうち自分の現在の立場が疑問に思え、彼女との生活を夢見るが、結局アンジェイに従って夜中にシュチェーカの暗殺を試みる。首尾よく暗殺するが、翌日銃所持を咎めた保安隊に狙撃されて負傷、延々と逃れて遂にごみ溜め場で息絶える。

実は昨年イエジー・アンジェウスキーの原作を読んだ。映画の記憶が先行していたのでやや意外な感があったのだが、群像劇だった。4度目くらいの鑑賞となる映画は記憶通りほぼマチェクに焦点を絞り、その他の人物を彼にまとわりつかせる形で進行させ、原作者自身が脚色に加わっている為、上手く整理されている。お話の骨格が小説よりぐっと鮮明になっている。

しかし、映画は、本当の主題であるポーランドの悲劇以上に、空しく主人公が青春を散らす一種の青春悲劇として記憶したい内容になっているのではないか。
 とは言え、アンジェウスキーやワイダは、そこから、ドイツに攻められた後ソ連の思想的支配下に置かれた、大国に蹂躙される祖国の悲惨を浮かび上がらせようとしたというのが実際であろうし、こういう形をとらざるを得なかったのも、当然共産主義国ならではの厳しい検閲を通す為に苦肉の策であった筈である。
 現に、幕切れは検閲官の“反体制者は抹殺されてしかるべし”という意見に一見沿ったものだが、見る人が見ればそれと反対の感想を持つことになる。例えば、僕ら平均的な日本人がこれに触れた時「ざまーみろ」などとは絶対思わない。

ワイダは特に室内の描写においてアングルや構図に工夫を凝らして閉塞的な気分を出しているが、やはり、狙撃されたマチェクがシーツに身を潜めてそれで血をぬぐい、そこから延々と逃げてゴミ捨て場に倒れ悶絶して死ぬ有名な幕切れが強い印象を残す。虫のような死に方に心臓を握られるような痛みや虚しさを感じてしまう。ワイダの捉え方、チブルスキーの演技が我々をそう導くのである。

主人公はクリスティナや彼女との生活に光輝くダイヤモンドを見出したのかもしれないが、中盤告白するように彼女自身は自分をそう思っていない。戦後のポーランドでは、良い気になっていた共産党幹部以外の小市民は、自分を灰のように感じていただろう。結局は泡沫であった共産主義体制が壊れて四半世紀が過ぎる。

ワイダ監督に合掌。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
『灰とダイヤモンド』(1957)規制が多い東側陣営下で撮られた、反逆の青春映画。
 ぼくらはずっとアメリカの加護のもと、国防やら仮想敵国などという観念をまるで持たないまま大人になりました。マスコミも自衛隊や国防を唱える政治家を危険視するなど、もっとも平和ボケした巨大権力として21世紀になってもわが国で君臨している。このようなボケた世界しか知らない日本国民にはアンジェイ・ワイダが住んでいるポーランドという国は理解できないのではないだろうか。 ...続きを見る
良い映画を褒める会。
2016/10/27 22:16
灰とダイヤモンド
(1957/アンジェイ・ワイダ監督・共同脚本/ズビグニエフ・チブルスキー、エヴァ・クジジェフスカ、バクラフ・ザストルジンスキー/102分) ...続きを見る
テアトル十瑠
2016/10/28 14:14

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コメント(11件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは!

また映画作家が亡くなってしまい、どんどん寂しくなりましたね。ワイダ監督はあまり日本の若いファンにはなじみがないのでしょうが、せめてこの作品、『地下水道』『世代』『大理石の男』くらいは見て欲しいのですが、TSUTAYAさんにでも置いていそうなのは『カティンの森』くらいでしょうかね。

字幕版でDVD化された作品も多いのですが、いかんせん値段が高すぎて、中古でも5000〜10000円以上がザラでとても手は出ませんよ。BSあたりで全作品一挙放送とかやって欲しいですね。まあ、やるとすればCSのシネフィル・イマジカくらいでしょうし、僕らの住む関西で追悼上映をしてくれそうなのは唯一の名画座くらいです。

自由に表現できなかった環境だからこそ磨き抜かれた映像センスと行間ににじみ出る反体制の熱い思いは今の腑抜けた日本の人々に届くのでしょうか。

ただ寂しいことにワイダ監督が亡くなったと言っても、職場の人も知人も誰も彼を知らないということです。オカピーさんと彼の死を追悼できたのも幸せです。ネットでつながれる時代で良かったですね。

謹んでご冥福を祈ります。

ではまた!
用心棒
2016/10/27 22:12
追伸

調子が悪いらしく、TBが届いていませんでした。こちらからも記事をTBさせていただきますね。
用心棒
2016/10/27 22:14
初めてみた大昔、事前に持っていた戦争と政治に翻弄された若者の青春物語みたいなイメージは崩れ去りました。記憶が殆ど飛んでしまった今回はどう映るかなと思ってたら、「見終わればマチェクが主人公の話だと分かるが、鑑賞中は群像劇を観ているようでした」と書いております。
とりあえずドイツからは解放されたいが、その後西側につくのか東側につくのか、そんな葛藤がポーランド国民にはあったんでしょうが、その空気感は伝わっても心情まではなかなか理解しがたい作品でした。
十瑠
2016/10/28 14:24
用心棒さん、こんにちは。

ワイダは巨匠ですけれど、余りに政治絡みなので、かなりの映画マニアでも好んで観るという人は少ないかもしれませんね。
この作品のカメラを見ても映画作家としても卓越した存在だったと思いますが、やはり政治色の強さが敬遠を招くのでしょう。

WOWOWもNHKも古い映画に関しては本当に情けない状態。WOWOWは邦画では面白い特集を組んでいますけれど、この洋画版が欲しいところ。

>職場の人も知人も誰も彼を知らない
本作のアクセスも古い映画の中では寂しいほうで、コメントの書き込み等で数字が増えているようなもの。例によって、有名すぎて来ないのか。

>TB
今日またしておきましたが、今度は入ったでしょうか?
オカピー
2016/10/28 19:18
十瑠さん、こんにちは。

あはは、僕と真逆の印象ですわなあ。

>群像劇
十瑠さんは、作品の性格をきちんと理解していると思います。
小説は完全なる群像劇で、マチェクを捉えた部分は数分の一程度、それに対し映画は相対的にマチェクの物語になっています。だから、本文のような書き方になりましたが、僕も正確には「記憶よりは群像劇に近い」と思いました。

僕はこの映画を観る前、即ち高校で世界史を習った時から大昔から周辺の国から良いようにやられているポーランドに妙に同情的だったので、主人公の抱えるジレンマが伝わってきたのですよね。主人公のもがきがポーランドのもがきそのものに見えるわけです。
逆に政治映画と思って観始めると、検閲官の要求を通した結果、青春映画に見えてくる。ジャンルも相対的なものではないでしょうか。
オカピー
2016/10/28 19:32
こんばんは!

さきほどTBを確認してすぐに反映させました。

>NHK
たまに何やっているのかなあと番組表を見ますが、見事に何も興味をそそるものがないww

WOWOWも番組を録画しようとすると異常にHDDのデータ容量を喰うし、見たい映画もマニアックすぎるためか、ほぼなくなりましたので、やめちゃいましたよww

ここ数年はソフト化されていない『狂った一頁』や大昔に見た映画でタイトルが分かったものをしかたなく英語版でYouTubeや海外版DVDで見たりと苦労しながら記事を書いております。

ではまた!


用心棒
2016/10/29 00:58
用心棒さん、こんにちは。

>TB
ありがとうございました。

>『狂った一頁』
これ、焼失してなかったのですか?
先日「カリガリ博士」を再鑑賞した時に想起した作品ですが、これ観られるですか!?

もしよろしければ、その他youtubeに上がっている貴重な作品がありましたら、お教えください。
オカピー
2016/10/29 10:56
こんばんは!

ぼくも焼失したと記憶していましたが、外国にフィルムが残っていたようで、YouTubeにアップされていますよ。

その他でオカピーさんが好きそうなのでは『霊魂の不滅』(phantom carriage)、ジェーン・アッシャーが出ていた『早春』(deep end)、『アンブリン』(スピルバーグの学生時代の短編。)、その他で『ひとで』『リズム21』などの前衛映画、『パニック・イン・テキサスタワー』(deadly tower)、『夜叉ヶ池』『煙突屋ペロー』はおススメですww

ではまた!
用心棒
2016/10/30 00:46
共産主義は専制君主制となんらかわりませんな。
どこかの大国はますますその感が強くなっておりますが。
資本主義もダメそうだし・・・どうなりますことやら・・・
ねこのひげ
2016/10/30 17:03
用心棒さん、こんにちは。

そういうこともあるのですねえ。良いニュースですけれど。

>『霊魂の不滅』
こりゃたまらん(笑)

>『早春』
これはWOWOWで放映されたので、ハイビジョンで保存してあります!

>『アンブリン』
スピルバーグは好きですから、見るべきでしょうね。

その他の作品を含めて、情報ありがとうございましたm(__)m
早速探してみます。
オカピー
2016/10/30 21:51
ねこのひげさん、こんにちは。

>共産主義
は、完全な民主主義を経ないと、歪になってしまうので駄目ですね。
ソ連型共産主義が失敗したのは、自由主義国家でも厄介な官僚が実権が握ったのが第一の理由。もう一つはドグマが人を縛りすぎたこと。自由主義的共産主義であればよいのですが。
オカピー
2016/10/30 21:55

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