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zoom RSS 映画評グローリー/明日への行進」

<<   作成日時 : 2016/09/02 09:50   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年アメリカ=イギリス合作映画 監督エヴァ・デュヴァネイ
ネタバレあり

キリスト教社会主義者・賀川豊彦の自伝的小説「死線を越えて」の中に、“普通選挙”を言っただけで過激思想により逮捕される、という文章が出てくる。1910年代のお話で、僅かその10年足らず後の1925年に一応普通選挙(男子のみ)が実現したのに、その落差にびっくりさせられた。
 アメリカでは憲法で保障されていたのにもかかわらず、事実上1965年まで黒人に投票権がなかった。僕のような半可通は、1964年7月に公民権が認められ、その貢献によりその年のノーベル平和賞を受賞した後のキング牧師のお話なのに黒人の投票権をめぐる彼の闘いを描いていることに暫し首をひねることになる。

その解答へのヒントとなるのが、冒頭、中年黒人女性(オプラ・ウィンフリー)が選挙人登録のため役所を訪れる挿話である。役人は、彼女がアラバマ州64人の判事の名前が言えなかったので選挙人資格を与えない。質問が不条理すぎるが、要は選挙権はあっても資格を与えるかどうかは地方の役人が鍵を握っていたのである。差別政策が残っていた南部で与える役人はいなかったであろう。

ある夜デモに出た黒人の若者が白人の警官に理由なしに射殺される事件が起き、これに腹を立てたキング牧師(デーヴィッド・オイェロウォ)が事件の起きたセルマからアラバマ州都モントゴメリーを目指す無抵抗主義のデモ行進を実行に移すが、官憲の暴力に遭う(血の日曜日事件)。他方で、人種差別が嫌いだったジョンソン大統領(トム・ウィルキンスン)と直談判して、無条件に投票ができる投票権法成立を促す。そして、事件のニュースを見たリベラルな白人が行進に加わったことで風向きが変わり出す。

オバマ大統領が生まれた21世紀から見れば隔世の感があるが、僅か50年前のお話である。このことを考えれば、黒人たちがオバマ大統領の誕生にどんなに歓喜したことか想像に難くない。

これまでアメリカの人種差別撤廃への過程を描いた作品が色々と作られたものの、当のキング牧師の伝記映画は映画史上初めてではないかと思う。マルコムXなどと違い、余りにど真ん中すぎて作りにくかったのだろう。

キング牧師を筆頭とする人々の貢献により法律上の人種差別は撤廃されたとは言え、未だに一部白人の黒人への差別意識はなくならず、官憲による不当と思われる黒人射殺の事件は毎年起きている。かかる現実が人種差別映画がホロコースト絡みの映画同様に絶えずに作られる理由である。
 人間の弱さ、愚かさには毎度がっかりさせられる一方、歴史を振り返れば着実に人間は進歩もしている。これに我々は希望を見出すしかないのだ。

映画のほうですね、はいはい。
 エヴァ・デュヴァネイという女性監督は、地味というよりはったりなく、素直にお話を進めている。これは寧ろ褒めるべき態度であるとは言うものの、優等生的すぎて面白味に欠けることは否めない。お話そのものの迫力に僕らは感動するといった感じである。

日本では(事実上存在しない)特権を理由に隣国に国籍を持つ人々を差別する人々がいるが、特権云々はおためごかし、差別をする理由に利用しているだけ。当初彼らをみっともないと思い、東京オリンピック招致に反対したが、今は外国人を招くオリンピックこそ他民族へのヘイトスピーチを排除する機運になるだろうと思っている。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
グローリー 明日への行進
公式サイト。原題:Selma。ブラッド・ピットら製作、エヴァ・デュヴァネイ監督。デヴィッド・オイェロウォ、トム・ウィルキンソン、ティム・ロス、カーメン・イジョゴ、オプラ・ウ ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2016/09/02 10:42
「グローリー ー明日への行進ー」
清く正しい。言い換えれば作品としては何の変哲も無い。もちろん、非暴力を貫いたキング牧師は素晴らしいし、偉大な人物である。そしてその偉大さをあたかもちょっとしたリーダーシップを備えた一市民のように描いている所がとてもいい。アメリカ史の恥部とも言える部分を気負う事なく描いた点は、評価に値すると思う。キング牧師役のデビッド・オイェロウォもそれに応えて熱演。差別者と被差別者の構造が、個人ベースでなく集団の力を借りて劇的に変化していく。モンゴメリーまでの行進シーンはその戦略も含めて圧巻。行動することによっ... ...続きを見る
ここなつ映画レビュー
2016/09/02 12:21
アラバマ州セルマ〜『グローリー/明日への行進』
 SELMA ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2016/09/02 15:26

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
『私には夢がある・・・』というキング牧師の本を学生時代に買いましたがね。
差別の凄まじいにはあきれるばかりでしたが。
21世になってにほんでも起ころうとは・・・・
ねこのひげ
2016/09/04 19:04
ねこのひげさん、こんにちは。

その昔、朝鮮学校の女生徒のチマチョゴリが切られたという事件もありましたが。
ヘイトスピーチをする連中は、自作自演と言っているようで・・・
嫌いなら嫌いと言えばまだ良いのに、嘘か大げさに言う根性が気に入らない。
オカピー
2016/09/04 20:39
 >エヴァ・デュヴァネイという女性監督は、地味というよりはったりなく、素直にお話を進めている。これは寧ろ褒めるべき態度であるとは言うものの、優等生的すぎて面白味に欠けることは否めない。

僕もそう思いましたが、なにしろ誕生日1月15日が米国民の祝日になってるほどの聖人なので、タブーが多く、製作スピルバーグ、監督、脚本オリバーストーンの二枚看板で鳴り物入りで作られるはずだった映画も、頓挫しています・・。
この映画でも、キングの女性関係はほのめかす程度の扱いになっていますね。

その上、キングの演説原稿は、一字一句、遺族が著作権を取っているので、彼らのOKをとらないと演説が映画に使えない・・。
これが2本目だという黒人女性監督のエヴァ・デュバーネイは、 類語辞典を引きながら、キング牧師の演説を全部類語に変えていったそうです。

 キングの赤裸々な私生活が、ロバート・ケネディ司法長官の許可を得た当時のFBI長官フーバーによって盗聴されていたことは近年、明らかになっていますが、それで、彼の成し遂げた事が貶められるはずもありません・・。(フーバーは、政治的というよりも個人的にキングを憎んでいた節がありますね。映画「エドガー」でも、ディカプリオがキングを罵るシーンがあります)
私には夢がある・・の彼の演説は、何度聞いても、読み返しても感動に値します・・。

キングの「私は女性にだらしなく、優柔不断で臆病な性格の、だが、人種差別に反対するただの男だよ・・」という声が聞こえてくるようです。

映画の中で、セルマの橋を民衆が行進する場面ですが、『猿の惑星:創世記』の中で猿たちが反乱を起こした時に騎馬警官が突っ込んでいくシーンで使われているのは、猿の・・が、もともと人種差別的な背景から作られた作品という意味でも面白いですね。。
浅野佑都
2016/10/10 11:08
浅野佑都さん、こんにちは。

英雄色を好むとか言いますが、僕は好色さが人格や実績のマイナスになると考えるほど狭量ではなく、細君などとの関係を別にすれば、大いにやれば良いと思いますよ(笑)

寧ろ最近の日本人は異常に潔癖症で、不倫騒動で芸能人などが謝ったり干されたりすることが多いですが、どちらかと言えばキリスト教原理主義の影響のような感じ。現在の日本人は異様に他人を叩きたがる・・・嫌な時代ですね。だから、空気を読むなんて変な風潮が出てきたのでしょう。元来おおらかであり、肝要であり、曖昧だったのが、批判はあれども日本人の良い点だったと思いますが、大分崩れてきました。

>類語辞典
それはまた大変でしたねえ。
ジミ・ヘンドリックスの伝記映画で、権利をすべて持っている家族ともめて、結局ジミ・ヘン本人の演奏が使えなかったのに似ている気がしますね。
著作権も扱いを間違えると、文化の発展に寄与しないことになるので、本当に困ります。

>『猿の惑星』・・・もともと人種差別的
確かに。
旧シリーズの差別の扱いは、余りに露骨にアメリカ風刺すぎて僕には嫌味に思えました。町山智浩氏は「あのシリーズはアメリカにおける人種差別の現実を表現した作品だった」と掘り起こすように言っていましたけど、改めてそう分析するまでもなかったシリーズでしょう。
オカピー
2016/10/10 22:05

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