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zoom RSS 映画評「この国の空」

<<   作成日時 : 2016/08/26 13:46   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・荒井晴彦
ネタバレあり

芥川賞作家・高井有一の同名小説をベテラン脚本家・荒井晴彦が脚色、自ら映像に移したドラマで、瀬戸内寂聴を映画化した「夏の終り」と共鳴し合う内容と言えるかもしれない。

太平洋戦争末期、東京の町内会の仕事をしている19歳の少女・二階堂ふみが母親・工藤夕貴と二人暮らしをしているところへ、空襲で焼き出された伯母・富田靖子が居候になり、母親との間にさざ波が立つ。ふみちゃんは隣家で妻子を疎開させている38歳の銀行支店長・長谷川博己の身の回りの世話をするうち、次第に彼を男として意識し始める。母親が彼女が女らしくなったと言い、「嫌らしい」と応ずるものの、気持ちには逆らえずやがて結ばれると、時をほぼ一にして、くすぶっていた戦局が遂に日本の敗戦をもって終わる。

戦争末期につき適齢男性が少なく、閉塞感の中、若い女性が妻子ある男性と昵懇になっていくというお話がいかにも日本純文学的な湿っぽいムードのうちに展開されるが、本作のハイライトは、本編が終わった後にある。つまり、妻子ある男性との恋に本気に邁進しようとするヒロインにとって、終戦は細君の帰還を意味する、即ち彼女の細君との個人的な戦争が終戦とともに始まる、という皮肉がそれである。戦時中に始まる不倫でなければこれほど鮮やかまでに皮肉な状況は設計できないわけで、「戦時中である必要が全くない」という意見は全くの的外れ。

演出的に、監督までした荒井氏は小津安二郎的な台詞を多く用意し、かつ、女性陣に感情を排したような小津的台詞回しをさせているのが注目される。それでいて内容面では、彼が若い頃書いたロマン・ポルノを思い出させる淫靡なムードがお話が進行するに連れてじわじわ強まってくるのだから益々興味深い。

配役陣では、青春スターだった工藤夕貴と富田靖子が中年女性が似合う年齢になったのかと感慨を呼ぶものあり。余り言及する人がいないが、長谷川博己も面白い。夏目漱石の小説群の主人公を演じられそうな気がする。

工藤夕貴は歌手だったこともあるのに劇中の歌が下手だ、という指摘も変。映画の中では彼女は工藤夕貴でなく、扮している人物である。カラオケなんてなかった時代の一般人はみな下手だよ。この類の指摘は多いが、物事への理解がちと変。勘が悪いと言っても良い。

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この国の空〜一番きれいなときに脱いだ二階堂ふみ
公式サイト。 高井有一原作、荒井晴彦監督。二階堂ふみ、長谷川博己、工藤夕貴、富田靖子、石橋蓮司。19歳で終戦を迎える主人公里子(二階堂ふみ)は引用される詩「わたしが一番 ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2016/08/26 19:21

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
テレビのドラマでも悪役を演じている俳優と俳優本人を混同して責めるおばさんがおりますが・・・そのおばさんたちと同レベルなんでしょうな。
しかし、歌手として歌を歌っているからといってうまいとは限りませんがね。
ねこのひげ
2016/08/28 10:23
ねこのひげさん、こんにちは。

混同は困りますが、そもそも「歌が上手い」という定義が難しいですよね。
声楽家からすれば、歌謡曲の歌手なんて上手いことにならないだろうし、アンディ・ウィリアムズはロック・ファンからすれば心の叫びがないからダメであろうし、逆にロック歌手のシャウトはお上品な人たちには聞くに堪えないであろうし。
オカピー
2016/08/28 22:55

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