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zoom RSS 映画評「サイの季節」

<<   作成日時 : 2016/08/25 10:20   >>

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☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年トルコ=イラク合作映画 監督バフマン・ゴバディ
ネタバレあり

亡命中のイラン人監督バフマン・ゴバディの異色作。実在するイランの詩人の過酷な人生を素材にした内容と言う。

詩集を発表したばかりの若手のクルド人詩人サヘル(カネル・シンドルク)は美しい軍人の娘ミナ(モニカ・ベルッチ)を妻に持つ。一家の運転手アクバル(イズマル・アルドアン)は彼女に横恋慕してちょっかいを出そうとして懲らしめられる。
 2年後の1979年にイラン革命が起きると、アクバルはミナをものにしようとサヘルを反政権的であると密告、サヘルは30年の、ミナも10年の禁固刑に処される。その後アクバルは立場を利用してミナを強姦、やがて彼女は男女の双生児を生み、出所後夫が死んだと嘘の報告を受ける。
 2009年服役を終えて出所したサヘル(ベヘルーズ・ヴォズギー)は、ミナの逃亡先イスタンブールへ彼女を捜索に出かける。発見したものの辛い過去を思い出すため直接まみえることのできないまま町を彷徨するうち若い娼婦二人組と関わり合うことになる。その一人は彼自身の詩の入れ墨を体に持っていることから入れ墨師をしているミナの娘と判明、彼は正体を打ち明けぬままミナに入れ墨をしてもらう。程なく母娘はヨーロッパへ渡る船の上の人となる。

イランの苛酷な現実をベースにしているのは共通するものの、セミ・ドキュメンタリー的であった前作「ペルシャ猫を誰も知らない」とは対照的に、幻想的な場面が多い。主人公の詩人が辛い現実を避け詩想の世界に遊ぶからである。例えば、詩のモチーフにもなっている上空から落ちてくる亀、車に顔を突っ込むウマ、泳ぐサイが唐突に出てくる。そういった場面が現実場面の間に奔放に挿入されるので内容的にかなり解りにくい部分が散見し、左脳人間の僕にとって些か辛いものがないではない。サヘルがアクバルを助手席に乗せた車ごと海に飛び込む場面も本当に現実なのかどうか。この辺りは一人合点にすぎるだろう。

しかし、銀残しと思われる独自の色彩のフォトジェニックな画面は、喪失感に苦しみ孤独に苛まれる彼の心理が沈潜し、すこぶる美しい。荒地を人が画面奥のほうへ進む最後の見事なショットは、「国境に生きる者だけが新たな祖国を作る」という、体に彫られた彼の詩のフレーズに対応し、国を持たないクルド人の見果てぬ夢を表現、沈鬱な内容のうちに微かな希望を感じさせる。

いつかクルディスタンはできるのだろうか。チベットやウイグルが中国から独立するのと同じくらい難しいことか。

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サイの季節
【概略】 ある男の企みによって不当に逮捕された詩人・サヘル。30年後、釈放された彼は、最愛の妻・ミナの行方を捜し始めるが…。 ドラマ ...続きを見る
いやいやえん
2016/08/25 14:53
サイの季節 ★★★
『ペルシャ猫を誰も知らない』の撮影後、国外で亡命生活を送るイラン人の監督バフマン・ゴバディによる衝撃の社会派ドラマ。実在するクルド系イラン人の詩人サデッグ・キャマンガールをモデルに、イスラム革命によって引き裂かれた夫婦の苦難の道のりを描く。『灼熱の肌』... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2016/08/25 15:39

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
先日、クイズ番組のレポーターを長い間やっている人が取材した時の状態と現在を紹介しておりましたが・・・シリアのアレッポなんて当時は活気にあふれていたのにいまは瓦礫の山でありました。
イランでも取材の後5日後に内戦が始まったそうであります。
ねこのひげ
2016/08/28 10:29
ねこのひげさん、こんにちは。

「ミケランジェロ・プロジェクト」でも書きましたが、イスラム原理主義者は野蛮人ですし、イスラムの権力者は強欲ですね。
困ったものだ。
オカピー
2016/08/28 22:51

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