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zoom RSS 映画評「きみはいい子」

<<   作成日時 : 2016/08/21 10:21   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年日本映画 監督・呉美保
ネタバレあり

中脇初枝の同名連作短編集を「そこのみにて光輝く」で一躍注目監督になった呉美保が映画化した群像劇。短編集が原作だからお話は三つに分かれ、緩やかに互いに関係している。原作に則っているとしても近年目立つ手法だ。

小学校教諭二年目の若者・高良健吾は、モンスター・ペアレンツに迎合した学級主任の意見を順守するうちに学級崩壊が起きて悩みを深くする。そうした学級崩壊に加担しない孤独な少年が親の勝手な理由によりある時間まで家に帰れないのを知り、家に送り届け、児童虐待があることを知るが、学校側は教師に少年の体を確認することさえ許さない。

戦前派の親に育てられた僕らの世代にとって、先生はまだ辛うじて尊敬される存在であったから、多分今に比べればだいぶ楽だったはずである。今は生徒に触れることも簡単にできない。怪我をしない程度の肉体的接触はあってしかるべきで、親は先生に躾まで下駄を預けているくせに躾らしきことをすると文句を言ってくる。くたばれモンスター・ペアレンツ! 但し、傍目にそうした親に見えても、実は教師が一方的に悪い例があることは経験から知っている。
 「トリュフォーの思春期」を思い出させる児童虐待の問題も、越権行為ということなのだろうか、体の傷を確認することさえ避けようとする。男女児童共に「さん」付けするなんて形式的な平等観は本来違うものを平等に扱って歪みを生じる共産主義の失敗を思い出させ、全く良くない。区別は適当に扱えば決して差別になっていかないはずである。学校側は、他人を思っているようで、保身に走っているようにしか見えない。これが日本の現実であろう。

夫が単身赴任中で母子家庭状態の母親・尾野真千子は、人前では優しい母親を演じているが、家に戻ればまだ頑是ない3歳の娘(三宅希空)に何かと手を挙げてしまう。ママ友の池脇千鶴は、彼女のそんな正体とその原因を知っていて、自分の家にやってきた時虐待されていた子供時代の話をして同病相憐れむように慰める。彼女が尾野嬢のような母親にならなかったのは子供時代に彼女を優しく庇ってくれる老婦人がいたからである。

老婦人と言えば、高良君が教師をしている学校のそばに住んでいる喜多道枝は誰に対してもニコニコしている優しい老婦人で、「こんにちは、さようなら」と毎日言ってくれる自閉症の少年(加部亜門)に優しく接している。ある時自宅の鍵をなくして途方に暮れる少年を家に招き入れ、母親を呼ぶと、しきりに息子のことについて謝る彼女即ち富田靖子は、スーパーで万引きを咎めた店員であることが判明する。母親は老婦人の包み込むような自然体の態度に慰められる。

人間には根源的な罪深さがあるのかもしれないが、尾野真千子の母親に見るように自ら虐められた人は子供を虐待する傾向があるらしい。痛ましきかな!

主題を大人と子供の関係に置くこの三つのエピソードを繋ぐのは【抱きしめること】。本作において抱擁はコミュニケーションの最大の手段である。物理的に抱きしめられなくても、他人に謝る習慣のついている富田靖子の母親は、精神的に老婦人に抱きしめられ、慰藉される。そんな小さなことが他人との関係に苦しむ人を救うこともある。作者は、中盤まで厭世的になりかねないお話を積み重ねた挙句、そう主張して我々の心の中で固まった苦い思いを溶かす。慰められるのは登場人物以上に我々である。人によってはゴミになり、人によっては心を和ませる【桜の花】は、子どもたちであろうか? 

終盤におけるトーンの突然の変化は、厳しさを求めれば甘いということになるかもしれないが、この手の普遍的な市井的物語は少し希望を感じさせないと嫌な後味を残してしまう。三つのお話の独立性が高いので滑らかな展開というわけには行かないものの、各エピソードが親和性によりうまく主題的に結び合ってきちんとした作品という印象を残す。

少し実験的なのは、高良教諭が子供たちに宿題の結果を聞く場面。ここは恐らく子供たちに本当に宿題を出して、演出なしに答えを聞く事実上のドキュメンタリーとなっている。かつて観ていたNHKの「課外授業 ようこそ先輩」を思い出した。

清濁併せ呑んで生きる心境・・・にはなかなかなれないけれど。

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きみはいい子 ★★★.5
幼児虐待や学級崩壊といった問題を通して愛について描いた中脇初枝の小説を基に、『そこのみにて光輝く』などの呉美保監督が映画化したヒューマンドラマ。学級崩壊をさせてしまう新米教師、親からの虐待を受け自身も子供を虐待する母親、家族を失い一人で暮らす老人といった老若男女が、現実と葛藤しながらも生きていく姿を映す。出演は、『軽蔑』などの高良健吾や『そして父になる』などの尾野真千子をはじめ、池脇千鶴、高橋和也ら。奥深いストーリーと共に、実力ある俳優たちの演技合戦が楽しめる。 あらすじ:新米教師の岡野(高良健... ...続きを見る
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
kouiu
こういう作品を観ると『役者というのも大変であるな〜』と思わざるをえませんが、観る側も辛いですな。

映画ではありませんが、Eテレでやっている『モーガン・フリーマン 時空を超えて』という番組をごらんになったことがありますか?
なかなか面白い番組であります。



ねこのひげ
2016/08/21 11:56
ねこのひげさん、こんにちは。

役者は本当に大変ですし、一作ごとに全く違う役をやるカメレオン俳優にはひたすら感心しますね。

>『モーガン・フリーマン 時空を超えて』
先月くらいに題名を知って「面白そうだな」と思いつつまだ観ていない怠け者でございます。終わらないうちに観てみますね。

オカピー
2016/08/21 18:01

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