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zoom RSS 映画評「チャイルド44 森に消えた子供たち」

<<   作成日時 : 2016/07/28 10:00   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年アメリカ=イギリス=ロシア=チェコ合作映画 監督ダニエル・エスピノーザ
ネタバレあり

トム・ロブ・スミスのベストセラー・ミステリーをダニエル・エスピノーサが映画化したサスペンス。

スターリン政権末期のソ連。国家保安局MGBの捜査官トム・ハーディは、同僚の子供が死んだ事件を殺人と思うものの、スターリンの「(共産主義体制という)楽園に殺人はない」というドグマに基づく上官からの命令により事故死として処理する。が、監視密告社会においてスパイ容疑で捕まった男の自白で彼の妻ノオミ・ラパスがスパイ容疑者として浮上すると、強権的に見えても実は心優しきハーディは彼女を守り、その為に田舎の警察に左遷させられる。そこで知り合うのが署長の将軍ゲイリー・オールドマンで、保身的に見えるが最低限の正義感は持っている。
 現地で少年が殺される事件が起きると、ハーディは死体の状況が同僚の事件とそっくりであると知り、署長の協力の下数年間で不審死をした少年の事件を調べ上げる。線路沿いに起きる事件の連続性と規則性からある工場を拠点とする人物に容疑者が絞られていく。

ミステリーと知らずに観たものだから、序盤暫くスターリン時代の旧悪を浮き彫りにする社会派ドラマなのだろうと観ていたが、ハーディが田舎における二番目の事件で疑問を覚える辺りからミステリーそしてサスペンスらしくなってくる。何と言っても、監視社会で左遷させられた男が事件を探るという“追われながらの犯人探し”のヴァリエーションとしての面白味が際立つ。

エスピノーサのタッチは意外に淡白で強力なサスペンスというところまでは行っていないとは言え、政治サスペンスの要素もあって相当楽しめる。事件の少なさが連続殺人ミステリーとしては弱点になるものの、ムード情勢が秀逸で採点が良くなった。但し、アクションの描写は、前作「デンジャラス・ラン」同様揺れまくって全く駄目。主観ショットでない揺れる画面は映画言語的に変なので、僕は映画界を席巻するこの手法を認めていない。予算・その他の理由で小型カメラしか使えない外部の事情がある場合は別である。

使われている言語は英語であるが、ロシア人の喋る英語のような感じで喋らせているのが面白い。ソ連におけるお話であることを明示しているから通常の英語でも十分“なんちゃってロシア語”として聞けるものの、ロシア語風の英語にすることで“なんちゃってロシア語”が強調される。言葉はムードをかなり決定する要素であるので、悪くないアイデアと思う。

対訳をしたのは太田直子氏。今年の初めに若くして亡くなったので、遺作に近い仕事ということになる。学校が違うし会ったこともないが、同じ年代に同じ専門(ロシ語、ロシア語をやっていた者にとってはロシ語が正しい)を勉強していた人だけに寂しい気がする。

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チャイルド44 森に消えた子供たち
There is no murder in paradise 公式サイト。トム・ロブ・スミス原作、リドリー・スコット製作、ダニエル・エスピノーサ監督。トム・ハーディ、ゲイリー・オールドマン、ノオミ・ラパス、ジ ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2016/07/28 11:19
チャイルド44 森に消えた子供たち★★★.5
トム・ロブ・スミスのベストセラー小説を基にしたサスペンスミステリー。1950年代のソ連を舞台に、子供ばかりをターゲットにした連続猟奇殺人事件の真相を暴こうとする秘密警察捜査官の姿を追う。メガホンを取るのは、『デンジャラス・ラン』などのダニエル・エスピノーサ。... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2016/07/28 17:19
「チャイルド44〜森に消えた子供たち」
さて…。レビューを書こうと思ってはみたが、どう書いていいものやら…。何故なら、この作品は上質なサスペンス小説トム・ロブ・スミス作「チャイルド44」が原作であり、サスペンス・ミステリーとしては骨太に仕上がっているものの、近・現代史のソ連の歴史的背景を抜きにしては語れないからだ。幼い頃、私のソ連に対する印象は、とにかく怖い、というものであった。人種的にデカい。地理的に寒い(私は寒いのが何より苦手である)。というのに加えて、物言えば唇寒し、というか、とにかく何でもかんでも粛清で、ちょっとなんかすればシ... ...続きを見る
ここなつ映画レビュー
2016/07/29 11:47
怪物か英雄か〜『チャイルド44 森に消えた子供たち』
 CHILD 44 ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2016/07/30 05:50

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
オカピー様、おはようございます。いつもTBありがとうございます。
太田直子さんが亡くなってかなりショックでした。まだお若かったのに。。。
彼女の著作『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』とても面白く読みました。
もう10年近く前の本ですけれども。
改めてご冥福をお祈りします。

この映画はノオミ・ラパスがミスキャストだと思いました。
真紅
URL
2016/07/30 06:02
真紅さん、お久しぶりです。
なかなかコメントを残せませんが、悪しからず。

そうなんです。若いのですよ。
世代が同じで、同じロシヤ語専攻、字幕翻訳家も目指さなくもなかった僕ではあるしし、彼女がお手伝いをしていたというアテネ・フランセにもよく行きましたし、何だかひとごとではないのです。

僕は訃報に気付かず、大分後になって、『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』の新聞広告で“遺稿”という言葉を見て、知った次第。お恥ずかしい。

しかし、真紅さんが太田さんの死亡をご存じであったこと自体は非常に頼もしく思いました。

>ノオミ・ラパス
北欧の人なので、多少ロシア人っぽい感じがあり、あくまで見た目ですが、僕はそれほど違和感なかったです。演技のタイプとしては断言しかねますが。
オカピー
2016/07/30 17:46
翻訳できる人には頭が下がります。
小説の翻訳には小説家的才能がいるでしょうしね。映画の字幕はいかにわかりやすく短くまとめるのが大変そうですからね。
ましてや、ロシヤ語・・・・憧れの美女に会いたくて挫折した身としては敬服しますですよ。
ねこのひげ
2016/07/31 06:41
ねこのひげさん、こんにちは。

小説の場合は、プロットを考える必要がないだけで、かなりの日本語力が要りますね。僕も少しかじっていますが。

映画の字幕は、時数の制限があり、それでも大昔は3行のものもありましたが、今はないですね。セリフ劇はかなりきつい。
正確性は高くても、吹き替えは敬遠します。どうしても正確性を求めたい人は、英語を勉強するか、最初オリジナルで見て、次に吹き替えを見、もう一度オリジナルを見るという手段を取ってほしいと思いますね。
例えば、今の若い人の中には、ジョニー・デップの本当の声を知らない人もいるのではないですか。これは失礼な話です。

>憧れの美女
リュドミラ・サヴェーリェヴァ(ロシヤ語を習ったものの表記)でしたっけ?
ロシヤ語は基本が難しいので、大概序盤で挫折します。僕の同期は一人が1年で止め、1人が他の科へ移籍(再受験)した外は全員卒業できましたが、2年以上留年した人多数です。
オカピー
2016/07/31 21:12

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