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zoom RSS 映画評「あん」

<<   作成日時 : 2016/07/18 08:54   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・河瀬直美
ネタバレあり

河瀬直美の作品は内容の観念性により生活感情を共有するのが難しい為、カンヌで受けても商業映画的には文句を言いたくなる。しかし、初めてオリジナル脚本から離れてドリアン助川の小説を映画化した本作は原作のおかげで大衆性があり、ぐっと親しみやすい。

どら焼き屋の雇われ店長をしている永瀬正敏が、手が少し不自由な70代の老婦人・樹木希林からバイトに雇ってくれないかと頼まれる。一度断ったものの、他日持ってきた粒あんのおいしさに、即刻手伝ってもらうことに決める。小豆に話しかけ、その声を聞くように労わってじっくりこしらえるその粒あんは好評を博し、売り上げ倍増するが、店の経営者・浅田美代子が老婦人がハンセン病を患っていたことを聞きつけ首にしろと言ってき、やがてその噂が町中が広まって客が訪れなくなる。
 店長は何も言わないが、事情を察した老婦人は店を去っていく。永瀬は、店で老婦人とも親しくなっていた中学三年生の内田伽羅に誘われて、元患者たちが暮らしている施設に彼女を訪れる。店長に採用される前訳アリの人生を送ってきた彼は、物に話し掛けその声を聞くような彼女の人間性と人生とに救われる。

四半世紀前くらいからハンセン病がそう簡単に感染しない病気であることが知られ、本年最高裁までがかつての非を認めた(が、謝罪はしていない)。従って、ここ20年くらいのお話であれば、完治したハンセン病患者から感染しないのは解りきっているので、町民の反応は明らかな偏見だが、そこが人間の弱さである。
 この老婦人は天使のように素晴らしい人で、店長は守るべき人を守れなかった悔しさに涙を流すが、彼女たちにしてみればずっとそういう人生を送ってきたわけで、僕は人間の、浅田美代子演ずる女性のような俗物の情けなさに涙を禁じえなかった。しかし、老婦人は、店長を、そして恐らく母子家庭で高校進学も厳しい少女を精神的に救ったのである。風評の怖さに慄然とする以上に、どんな人生にも無駄はないのだと希望を覚える。

河P作品でこういう素直な感想を洩らすことになるとは夢にも思わなかった。純然たるセミ・ドキュメンタリーでもこういうヒューマンな素材に遭えば十分商業映画として通用すると改めて確認できたのも収穫。達者なプロたちにまじえて素人を出してくるのは相変わらずだが、そのスタイルに余り拘泥しない感じになっているのが良い。

僕は断然粒あんが好きです。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
あん〜“異物混入”の風評被害
公式サイト。日本=フランス=ドイツ。ドリアン助川原作、河瀬直美監督。樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子、水野美紀、太賀、兼松若人、浅田美代子。ハンセン病を患ってい ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2016/07/18 09:12
『あん』
□作品オフィシャルサイト 「あん」□監督・脚本 河瀬直美□原作 ドリアン助川□キャスト 樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子、水野美紀、浅田美代子■鑑賞日 6月20日(土)■劇場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★★☆(5★満点、☆は0.5)<感想> あることがキッカケで刑務所暮しを経験し、どら焼き屋の雇われ店長として日々を 過ごしていた千太郎(永瀬正敏)。 ある日、店で働くことを懇願する老女、 徳江(樹木希林)が現れ、彼女が作る粒あんの美味しさが評判を呼んで店は繁盛していく。 しかし... ...続きを見る
京の昼寝〜♪
2016/07/18 13:53
あん  ★★★★
『殯(もがり)の森』などの河瀬直美が樹木希林を主演に迎え、元ハンセン病患者の老女が尊厳を失わず生きようとする姿を丁寧に紡ぐ人間ドラマ。樹木が演じるおいしい粒あんを作る謎多き女性と、どら焼き店の店主や店を訪れる女子中学生の人間模様が描かれる。原作は、詩人や... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2016/07/18 15:40
「あん」☆行間の美
あえて言葉にしない。 なのにこんなに胸の奥にまで響くとは・・・・ 想いがいっぱい、その行間から次々と溢れてくる。 ...続きを見る
ノルウェー暮らし・イン・原宿
2016/07/18 16:06
月とカナリヤ〜『あん』
 小さなどら焼き屋 「どら春」 の雇われ店長・千太郎(永瀬正敏)のもとに、 徳江と名乗る老婦人(樹木希林)がやってくる。彼女は病気で指が不自由だ が、どら焼きの 「あん」 作りが得意で、ここで働きたいと千太郎に言うのだ った。 ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2016/07/19 11:30
あん (2015)
もう、樹木希林を筆頭に、キャスティングが抜群にハマってました。抑えた演技が、むしろ際立ち、見事なヒロイン像です。雇われ店長の永瀬正敏はもちろん、ちょっと意地の悪い世間を象徴して、イラッとさせる、オーナー役の浅田美代子から、徳江(樹木希林)の友人の市原悦子に至るまで、ものすごいフィット感。それに、「…ひょっとして…」と思ってたら、やはりワカナ役は樹木の孫娘である内田伽羅が扮してたんのですね。これまた、ハンパない存在感。特に、木々を渡る風の音、季節のうつろい、あずきの煮える音に至るまで、音が絶妙な効... ...続きを見る
のほほん便り
2016/08/19 14:40

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ねこのひげも粒あんのほうが好きです。
しかし、たった一人の人間の提言であんな事が起きるのは恐ろしいことです。


ねこのひげ
2016/07/18 17:16
ねこのひげさん、こんにちは。

>粒あん
マイルドで好きなんですよねえ。

>たった一人
彼は無視したのですけどね。
老婦人が静かに去っていくのが寂しかった。職場に戻ってこないという意味の最後の「さよなら」。
少女の母親が広めた可能性も映画は示していました。
オカピー
2016/07/18 20:23

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