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zoom RSS 映画評「妻への家路」

<<   作成日時 : 2016/07/13 09:34   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年中国映画 監督チャン・イーモウ
ネタバレあり

一時期華美な作品に傾倒していたチャン・イーモウが、素朴なタッチの原点に戻り、「サンザシの樹の下で」に続いて文化大革命をモチーフに描いている。オールド・ファン向けに一言で言えば、中国版「かくも長き不在」(1960年)である。

右派分子として逮捕され西域で働かされていた元大学教授チェン・ダオミンは、妻コン・リーに会いたいばかりに脱走して近くにまで来るが、直前に再逮捕されてしまう。
 脱走から3年後の1977年、文化大革命が終わって自由になり帰郷するが、妻は心因性の記憶障害(昨日の記憶もない時が多いので、アルツハイマーでもあるようだ)に陥っていて彼の顔だけを識別せず、彼女を苦しめた党員と間違えてまともに会ってくれさえしない。精神科医に勧めにより、昔の写真を見せたり、思い出のある音楽を聞かせたり、手紙を読ませたりするが、大きな効果が見られない。
 家にはまともな写真がなく探し出すのに苦労し、それで判ったのは、娘チャン・ホエウェンが写真から父親の部分だけを切り取り、脱走の時の密会も彼女が密告したこと。その為に母親は娘を許さず、別居しているのである。しかし、父親はそれ自体娘に罪ありと雖も、全ての原因を作ったのは自分であると娘を責めない。
 結局母親の記憶が戻ることなく、彼の手紙に帰郷の日と書かれていた「5日」に毎月エンドレスに駅に向かうのである。

アンリ・コルピの秀作「かくも長き不在」は、第二次大戦で出征した夫を待ち侘びる妻が、街に現れた中年の浮浪者を変わり果てた夫と思い込むものの、その男は頭が変になっていて自分の正体が解らず、彼女が記憶を取り戻させようと尽力するが、彼は再びどこかへ消えていく。彼女はそれでも彼が再び現れると信じ続ける、という内容であった。
 記憶がないのが待っている妻と夫と思われる男という違いはあるが、かなり近いお話の設定と思う。不在期間も20年前後と似ている。不在の理由は、片や思想矯正の為の懲役、片や戦争であり、画面の奥で揺曳するのは権力への恨みであり、無力な庶民の悲しさである。

本作は中国製であるから、露骨に権力批判はできない。毛沢東を批判しない限りにおいて文化大革命の悪口を言ってもお咎めなしだが、それでも本作の元大学教授は「自分が悪い」としか言わない。家族の中で相対的に悪いのは彼であろうが、実際に悪いのは体制である。それでも本作は主人公に悪口を言わせない。その結果、人間そのものをあぶり出し上品な作品になったという印象があるので、映画的にはマイナスにあらず。

夫婦でありながら永遠に隣人として過ごさなければならない夫婦が、来るはずもない夫を駅で待つ幕切れが誠に切ない。中国映画史に残る名シーンと言うべし。

邦題は日本語として変ではありますまいか。

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妻への家路〜幸福の出迎えボード
公式サイト。中国映画。原題:帰来。英題:Coming Home。ヤン・ゲリン原作、チャン・イーモウ監督。チェン・ダオミン、コン・リー、チャン・ホエウェン、チェン・シャオイー、イェン ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2016/07/13 11:23
妻への家路 ★★★★
『紅いコーリャン』『秋菊(しゅうぎく)の物語』などのチャン・イーモウ監督とコン・リーが再びタッグを組み、文化大革命後の中国を舞台に夫婦の切ない愛を描くドラマ。20年ぶりに解放された夫が、夫を待ちすぎて記憶障害となった妻に自分を思い出してもらおうと奮闘する様子を映す。ひたすら夫を待つ妻をコン・リーが、妻に寄り添う夫を『HERO』『インファナル・アフェアIII 終極無間』などのチェン・ダオミンが演じる。いちずな夫婦の姿が感動的。 あらすじ:1977年の中国。文化大革命が終結し、20年ぶりに自由の身と... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2016/07/13 15:16
『妻への家路』
□作品オフィシャルサイト  「妻への家路」□監督 チャン・イーモウ□脚本 ヅォウ・ジンジー□原作 ヤン・ゲリン□キャスト コン・リー、チェン・ダオミン、チャン・ホエウェン ■鑑賞日 3月21日(土)■劇場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★★★(5★満点、☆は0.5) ... ...続きを見る
京の昼寝〜♪
2016/07/13 23:26
待ち人〜『妻への家路』
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
確かに文法的にはおかしい邦題でありますが、面白さはありますね。
ねこのひげ
2016/07/18 16:59
ねこのひげさん、こんにちは。

配給会社の社員諸氏が頭をひねったんだろうな、と微笑ましくなる気がします。
オカピー
2016/07/18 20:03

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