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zoom RSS 映画評「舞踏会の手帖」

<<   作成日時 : 2016/05/06 09:43   >>

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☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1937年フランス映画 監督ジュリアン・デュヴィヴィエ
ネタバレあり

中学生(或いは高校生)の時にNHK「世界名画劇場」で初めて観た時もそれなりに感銘したものの、20代になって再鑑賞した時には圧倒された。個人の映画鑑賞史を振り返れば、20代が一番映画的興奮を味わった期間だ。十代の時に比べて理解力が増し、かつ十代の感性もまだ維持していたからである。現在と違っていつでも昔の作品が見られる時代でなかったということもあるだろう。

戦前ジュリアン・デュヴィヴィエは高級な大衆映画を作ったから日本の映画批評家にも映画ファンにも受け、その伝統が戦後に引き継がれた。が、母国フランスではフランソワ・トリュフォーが中心とする戦後の若手批評家がデュヴィヴィエを筆頭に、ジャン・ルノワールを除く詩的リアリズムの作家を大いに批判した影響で評価が低下し、その影響下でアメリカでもルノワールに比べると低い。僕はルノワールも好きだが、大衆的で解りやすいデュヴィヴィエのほうがもっと好きなだけに残念。
 映画監督トリュフォーはご贔屓であり、ヒッチコック分析にも感心させられるところが多いものの、デュヴィヴィエ批判は過ちだったと思っている。トリュフォーは後年それに気づいたらしく(自身の意見を修正したと、聞く)、晩年自ら詩的リアリズムの時代を彷彿とさせるような映画を作るようになった。

現在のロマ湖畔、夫を失ったばかりの30代未亡人クリスティーヌ(マリー・ベル)が遺品を整理しているうちに20年前16歳でフランスの故郷で社交界にデビューした時に踊った相手の名前を記した手帳が出て来た為、ノスタルジーに誘われ、故国にその男性たちを訪ねることにする。
 最初のジョルジュは舞踏会の後に自殺し、精神が錯乱している母親(フランソワーズ・ロゼー)がその帰りを待っている。かつて一緒にヴェルレーヌの詩を楽しんだ純真青年ピエール(ルイ・ジューヴェ)は今や犯罪者の顔を持つキャバレーの経営者で再会中にお縄にかかり、有能な前衛作曲家であったアラン(アリ・ボール)は神父となって子供たちに音楽の指導をしている。詩人であったエリック(ピエール・リシャール・ウィルム)はアルプスの山に隠棲、恋路を邪魔するものはないものの結局彼女は別れる。続くフランソワ(レイミュ)は町長で、太った女中との結婚騒動を繰り広げ、旧交を温める時間もない。医学生だったティエリー(ピエール・ブランシャール)はおんぼろアパートでもぐりの堕胎医に零落し、神経の病気を患っている。ファビアン(フェルナンデル)は子だくさんの美容師として小市民生活を満喫しており、二人で舞踏場へ出かける。
 かく失意のうちに旅を終えた彼女は湖の反対側にハンサムだったジェラールが住んでいると聞き出かけるが、少し前に死んだと聞かされる。しかし、その息子ジャック(ロベール・リナン)は若き日の父親に瓜二つで、彼女は養子に迎えて舞踏会へ送り出す。

以前から言っているように、フランス映画がロマンティックなどというのは大いなる誤解であり、本作も序盤と最後はその気配があるものの、その他の7つのエピソードはいずれもリアリスティックであり、デュヴィヴィエも遠慮なくシニカルに扱う。これがフランス映画が1世紀保ち続けた映画観ではないかと思う。
 かくして、ヒロインや観客に残されるのは諸行無常の厳然たる現実である。昔から無常感に弱いDNAを持つ日本人に受けた、或いは受けるのはむべなるかな。

様々なタイプのワイプを駆使し、堕胎医に落ちぶれたティエリーの挿話では終始ダッチ・アングルで語られ(彼が落ちぶれたことだけでなく神経病の表現でもあろう)、舞踏会の回想シーンではスローモーションを使ってノスタルジーの気分を打ち出す。オールド・ファンには映画的ムード満点で言うことなしであるが、若い人にはどうでしょうか。

出演者も当時の重鎮揃いで、戦前のフランス映画を語る時に避けることができない名優フランソワーズ・ロゼー、ルイ・ジューヴェ以下の演技が充実。
 彼らの名前を記したクレジットも【舞踏会の手帖】を模していて、昔の映画は洒落ていたなあと再認識させられる。昨今の映画はオープニングのクレジットがないものも多く、つまらない。

本ブログ、へたな新作より古い作品の記事にアクセスが多い傾向にあります。「望郷」はかなり来訪者がありましたが、本作はいかに。当ブログだけでなく、映画ブログの人気が薄くなっているので、同じ数は無理でしょう。

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『さすらいの狼』〜「フレンチ・フィルム・ノワール」の「アラン・ドロン」の原型〜
 「フレンチ・フィルム・ノワール」の大スターとして名を馳せたアラン・ドロンは、ジャン・ピエール・メルヴィル監督で撮った『サムライ』が、その原点であり代表作品ですが、この作品に至るまでの間に、何本のいわゆる「フィルム・ノワール」の系統に属する作品に出演していたでしょうか? ...続きを見る
時代の情景
2016/12/11 19:29

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
フランス人そのものもシニカルでありリアリストな人が多いと思いますね。
日本人の方がロマンチストかもしれません。
ねこのひげ
2016/05/07 18:57
ねこのひげさん、こんにちは。

一部の大衆的なフランス映画やフランス文学がそういう印象を与えてきたのでしょうが、僕はフランスのものからほとんどロマンティシズムを感じたことがないですね。

>日本人
そうでしょう^^
アルセーヌ・ルパンが日本で本国以上に人気が出たのは、たぶん児童文学向けの翻訳者がロマンティックな味付けをしたからでないでしょうか?
オカピー
2016/05/07 21:16
オカピーさん、最近はしょっちゅうお伺いして書き散らかしてすみません。
「海の沈黙」の記事のアップや「リスボン特急」の観賞など、今後よろしくお願いします。

また、新記事をアップしたのでTBします。
今までアップしていなかった作品でビデオもDVDも出回っていないものです。でも、なかなか良い作品ですよ。オカピー評で6.8点くらいの作品でしょう(笑)。
ジャン・ギャバンや樹里アンデュヴィヴィエのドロンへの影響を別の側面、戦前のギャバンのキャラクターから考え、「帰らざる夜明け」や「ル・ジタン」なんかも、結局、原点はメルヴィルの影響はもとより、この「さすらいの狼」が原点なのではないかなど、ごちゃごちゃ書いてます。お暇な時にでもご高覧ください。
「舞踏会の手帖」は、ルイ・ジューべの出ていた逸話が好きです。この逸話なんかもフランスの犯罪映画の典型を型どっていたと思いますし、ルイ・ジューべは、ジェラール・フィリップなんかとともに、ドロンなんかと接点を持ってほしかった人物ですよ。
では、また。
トム(Tom5k)
URL
2016/12/11 20:36
トムさん、こんにちは。

コメントはウェルカムです。ばんばんお願い致します。

>ビデオもDVDも出回っていないもの
???
して、どうやって鑑賞されたのでしょうか?
不思議だなあ(笑)

>6.8点
そんなところかも^^
調べたらIMDbでの平均評価が7.2ですから、悪くない。
特に、昨今の映画が非常にだらしないので、相対的に昔の作品は高くなりがち。

>ルイ・ジューベ
古いフランスの戯曲が載った本を読みますと、僕らが考えている以上に演劇界における重要度が伝わってきます。
割合早く亡くなっていますから、ドロンは勿論、ジェラール・フィリップなどとの接点のないまま終わってしまいましたね。フィリップとは、演劇ではもしかしたらあったかもしれませんが。

多忙につき、そちらへコメントが残せない状態が続いております。悪しからず。
オカピー
2016/12/12 18:51
オカピーさん、こんばんは。
誤)樹里アンデュヴィヴィエ
正)ジュリアン・デュヴィヴィエ
でした。すみません。
さて、「さすらいの狼」ですが、
>ビデオもDVDも出回っていないもの・・・
実はYouTubeにアップされています。少し短縮された版のようですし、日本語字幕なしですが十分に鑑賞感は得られます(笑)。むしろ映像に集中できていろいろな発見がありました。

今週は、久しぶりにフェリーニを借りてきました。
残業のないときにゆっくり観ようと思っています。
では、また。
トム(Tom5k)
URL
2016/12/14 01:35
トムさん、こんにちは。

>YouTube
な〜るほど。
用心棒さんにこの手があることを教えてもらい実行したばかりというのに、具門でありました^^;
僕も発見出来たら観てみようかな。

>フェリーニ
映画ファンが減っているので昨今は余り騒がれませんが、やはりフェリーニは刺激(的)ですよね。
オカピー
2016/12/14 18:03

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