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zoom RSS 映画評「悼む人」

<<   作成日時 : 2016/04/02 09:13   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・堤幸彦
ネタバレあり

天童荒太の同名の直木賞受賞作を、映画作家として時々神妙な顔を見せる堤幸彦が映画化したドラマ。

日本各地に行脚して事故死や殺人などで突然死を迎えた人を悼む行為を続けている若者・静人(高良健吾)。
 その彼の悼む対象の一人である甲水朔也(井浦新)に請われて殺した妻・倖代(石田ゆり子)が彼と出会い、「彼に殺してもらえ」と亡夫の霊から言われ続ける間彼の行脚に付き合う。
 通俗的な興味を駆り立てる週刊誌の記者・蒔野(椎名桔平)は、若者の行動を馬鹿にしているが、淫行に及ぼうとした不良女子中学生に説教した後何十年かぶりで臨終の父親に会いに行く。結局死に目に会えず、その後中学生の仲間から生き埋めの憂き目に遭って辛うじて生還する。
 倖代と行動を共にするうちに生きている人間への興味も取り戻した静人は、母(大竹しのぶ)の重態を知って家路につく。

多分今世紀に入ってからと思うが、ある洋画で「死者は忘れられた時にもう一度死ぬ」という印象深い台詞を聞き、その後それと同じ台詞を幾つかの洋画・邦画で聞いた。本作は死者を忘れないことがテーマである。

主人公・静人が悼むのは「死者を忘れない」と同じ意味で、彼の大好きだった祖父を忘れない為に始めたという経緯がある。
 その彼がベースにしている愛の観念に抗う存在が死んだ甲水朔也で、彼を殺した彼女の「愛」さえも「自身への執着に過ぎない」と言う。しかし、静人の思いは執着を振り切るために死のうとする倖代を翻意させ、亡霊となった男の考えを凌駕する。
 母親を捨てた父親を恨む蒔野にしても、静人の考えに影響を受け、女子中学生に「人に忘れられるような死に方をするな」と説教し、「親が自分を捨てたのではなく自分が親を捨てたのだ」という心境に至る。この映画において“捨てる”は“忘れる”の同義語である。

静人の行動は、本作に出てくるサイトで扱われるように様々な、多くは否定的な考えを喚起するだろうが、僕は原作者を含めた作者たちが「死者を忘れない」というテーマで丹念にお話を構成したことそれ自体に大いに惹かされ、大変興味深く観た。上述したように「死者を忘れない」というテーマの作品は近年少なくないけれども、それを具現化する行為としての「悼むこと」をここまで前面に出して具体的に描く作品にはそうそう見られないからである。

9・11がアメリカ人に「死者を忘れない」というキーワードを与えた(のであろう)ように、3・11が2011年より前に書かれた原作のアイデアと結びついてこの映画を作らせたのであろう。
 映画の姿勢に僕は好感を覚えたのであるが、個人的に亡き両親に対する日頃の思いと重なる部分が相当あって胸を打つものがあり、少し作品評価に加味させてもらった。

作劇的には二つ気に入らない点がある。
 一つは、子供の誕生と入れ替わるように母親が死ぬこと。余りに型に落ちすぎている。
 もう一つ、もっと大きな難点は、倖代のおかげで生への関心に目覚めた若者が彼女とセックスすること。確かに性は生の根源であるが、必然ではない。それまでの植物的な関係性からすると余りに飛躍し、通俗的すぎて感じが良くない。ひしと抱きしめて終わり、翌朝別れていく。そのほうが却って劇的ではあるまいか。別々の旅をすることになった二人が今度会った時にはさて・・・という余白を残しておいた方が劇として落ち着くはずである。

20世紀は生の厳粛(即ち権利・自由)が叫ばれた世紀であり、21世紀は死の厳粛が問われる世紀になるだろう。

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悼む人〜無関係な死
公式サイト。天童荒太原作、堤幸彦監督。高良健吾、石田ゆり子、井浦新、貫地谷しほり、山本裕典、眞島秀和、大後寿々花、佐戸井けん太、甲本雅裕、堂珍嘉邦、大島蓉子、麻生祐未 ... ...続きを見る
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悼む人
この世に人間がいるかぎり追悼に終わりは無い。   ...続きを見る
Akira's VOICE
2016/04/02 10:02
悼む人 ★★
人気作家・天童荒太の直木賞受賞作を基に、何の関わりもない死者を悼むため全国放浪の旅をする男性と、彼をめぐる人々が織り成す人間模様を描いたドラマ。2012年に上演された舞台版に携った堤幸彦がメガホンを取り、脚本も舞台版に引き続き大森寿美男が担当。主演は『横道... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2016/04/02 15:33

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
21世紀は死の厳粛が問われる世紀・・・・まさにそうでありましょう。

4月9日にシャーロット・ランプリンブの『さざなみ』が日本公開されます。
これも死にまつわる映画であります。
20世紀最大の美女というか美少女と言われたシャーロット・ランプリングも70歳でありますよ。
ねこのひげ
2016/04/03 06:40
ねこのひげさん、こんにちは。

>シャーロット・ランプリング
題名に反してかなり強烈な場面のある「さらば美しき人」で名前を覚えました。
早いもので、あれから45年ですよ。
オカピー
2016/04/03 20:37

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