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zoom RSS 映画評「君が生きた証」

<<   作成日時 : 2016/04/16 08:52   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2014年アメリカ映画 監督ウィリアム・H・メイシー
重要なネタバレあり

今年になって音楽が深く絡む洋画に秀作が続いている。本作もその一つに数えたい。映画ファンには、かの名脇役ウィリアム・H・メイシーの初監督作という話題性あるが、何と言っても出来栄えが断然優秀。

プレゼンに成功した広告マン、ビリー・クラダップが大学生の息子マイルス・ヘルザーに電話をした30分後に大学で銃乱射事件が発生したことを知る。親族が息子を失った彼を慰めても空しい。
 2年後ショックで会社を辞めてヨットで暮らしていたクラダップは、事件直後に別れた妻フェリシティ・ハフマンから「家を売るので」と息子の遺品を届けられる。その中に息子が残した音楽のデモCDがあり、音楽好きだった彼は懸命に聴く。いつかその楽曲をマスターしたいと思うようになる。メイシー経営の音楽バーで、その楽曲を披露すると、息子と同世代の青年アントン・イェルチンに気に入られ、いつしか一緒に演奏をするようになり、バンドとして人気を博す。が、クラダップは大げさなライブに出ようとしない。

この時点で我々は彼が断る理由を知っている。しかし、その我々もその20分ほど前まではイェルチンとほぼ同じ立場であった。我々は主人公が歌った“自作”の曲が息子のものであるとは知っていても、その息子が銃乱射事件の“加害者”であったということは知らない。
 この映画は、主人公の零落した理由を息子が事件に巻き込まれた“被害者”であるからと思わせるミスリードにより主人公に同情させた後、“加害者”の父親と知らされた時に彼についてどう思うかという命題を出す。最初から加害者の父親の物語と知らしていれば観客の興味を惹くことは難しいし、或いは、被害者の父親の再生話では余程うまく作らない限り陳腐と言われる運命を避けられなかったであろう。

本作のそのミスリードの加減が誠に絶妙で、主人公をマスコミが追いかける場面などをきちんと用意して伏線に抜かりがない。サスペンス映画ではないから驚きの度合いはさほど重要ではないが、この意外性があるからこそ父親の息子に対する思いが鮮烈に印象付けられるのである。

かくして、僕は、主人公が聴衆に人を6人殺した息子が作った歌であることを告げた上で歌い始め、歌の後半歌詞を変えて自分の心情を吐露するに至り、感極まってしまった次第。
 聴衆の反応は半ば彼の親としての思いを汲んだようであり、殺人者への嫌悪を凌駕したように見える。口を押えた女性は多分彼の心情に共感したと思われ、その後の男性の「何にも云えないよ」という表情も印象深い。映画において殆ど中心テーマとして扱われることのなかった加害者の親の複雑な心情を据えたことだけも映画としての価値があるだろう。

加害者とは言え親の子供に対する愛情に変わりのないこと、繊細だったであろう子供の犯行を止められなかった無念さにじーんとさせられる親世代が多いにちがいない。主人公が息子の犯行を直視し、被害者の碑の前で嗚咽する場面が好もしく、それが奏功して幕切れの歌に素直に感情が移入できるのだと思う。

銃規制に反対するアメリカの保守派は「銃があれば犯罪やテロが防げる」と言うが、爆弾テロには無力であり、弱い立場の人間が加害者に回った時にはナイフ等に比べて被害が大きくなる。間違いなく銃がない為に死んだ人より、あったが故に死んだ人の数が多い。日本を見よ。

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君が生きた証 ★★
『ファーゴ』などで独特の存在感を放つ名優ウィリアム・H・メイシーの初監督作。銃乱射事件で死んだ息子の遺(のこ)した楽曲を自らが歌っていこうとする父親と、その曲に心打たれたミュージシャン志望の青年が、音楽を通じて再生していくさまを描く。主演のビリー・クラ... ...続きを見る
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プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
2017/01/16 09:34

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
これは、泣き虫のプロフェッサーでなくとも
そう、あまり泣かない私も、はい、落涙でした。
うまい構成でしたよね、あのミスリード。
配役も手堅く、もう一度観たくなります。
いい映画でした、ほんと。
vivajiji
2016/04/16 19:11
vivajijiさん、こんにちは。

>ミスリード
ややこしいことをするのではなく、人の思い込みを付いたところが秀逸でしたね。
息子が加害者であると最初から知っていたら、固定観念によりその気持ちに思いを馳せようという気になれなかったかもしれません。
うまい上にきちんとした作りでした。

デビュー作でここまで作るとは!
向こうの俳優さん、興味本位で始めるのではなく、やりたいことがきちんとあって作ので、良いものを作ることが多いのでしょうね。
オカピー
2016/04/16 21:14
これは参りました。脱帽でありましたね。
確かに加害者の家族にとっても悲劇でありますからね。
バトミントンのお母さんは寝込んでしまったそうであります。
ねこのひげ
2016/04/17 12:10
ねこのひげさん、こんにちは。

>加害者の家族
本作の場合は殺すというより自殺に巻き込んだ格好のようですから、本人についても気の毒な面もあるのですけど、悪党であっても親としては残念であり悔しくもあり、被害者に申し訳なくもあり、複雑でしょうねえ。

>バドミントン
若気の至りですね。勿体ない。
当方、そういう変な欲望はないので、その点は楽。
詐欺師に騙されたのは当方らしくないですが、それも将来への不安から。
オカピー
2016/04/17 22:06
こんばんは。

この作品、オカピーさんの批評を読んで、不覚にもあらすじを知ってしまったのですが笑、すぐレンタルして観ました。
同じような音楽を題材にした、俳優の初監督作の秀作といえば、トム・ハンクスの『すべてをあなたに』を思い出しましたが、それに負けず劣らず良かったです!最近では一番心に残る作品になりました。

また、音楽でつながっていた主人公親子に、似た感じの自分の父親と弟を重ねて見てしまうので、今度実家に帰ったら、2人にすすめようかと思います笑
ドラゴン
2016/04/18 21:47
ドラゴンさん、こんにちは。

>不覚にも
どうもすみません。
僕は、物語を説明せずに要領よく批評は書けないので、双葉師匠同様に、ミステリーの種明かしとどんでん返しが命の作品の落ち以外は、結末まで書くことが多いので、ご迷惑をお掛け致しますが、今後とも宜しくお願い致しますm(__)m

ミスリードの驚きがなくても、印象を残す作品として受け取られたということは、基本がしっかりしているということなんでしょうねえ。
不幸中の幸いということで(笑)

>父親と弟
本作の主人公は僕より一回りくらい下といった印象ですが、お父様も僕より年下でしょうかねえ。
僕より年上のプロ野球の監督も殆ど(全て?)いなくなりまして、年を感じる今日この頃ですよ^^;
良いおみやげになるかもですね。
オカピー
2016/04/19 21:17

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