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zoom RSS 映画評「グッド・ライ〜いちばん優しい嘘〜」

<<   作成日時 : 2016/04/15 10:00   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年ケニヤ=インド=アメリカ合作映画 監督フィリップ・ファラルドー
ネタバレあり

今世紀に入り、長距離を歩いて逃げる映画が多く作られている。逃げる捕虜の物語もあれば、難民やそれに近い人々の物語もある。本作は後者であるが、その逃走の経緯を見せる作品ではない。

1980年代半ば、スーダン南部のキリスト教系住民が政府軍に襲われて大量に死亡、残された子供たちはロスト・ボーイズと呼ばれて彷徨い、少年兵に加えられたり、或いはケニアの難民キャンプに収監されたりする。
 本作の主人公マメール(アーノルド・オーチェン)は後者で、兄テオの犠牲により、政府軍の監視から逃れることができ、弟ジェレマイア(ゲール・ドゥエイニー)、ポール(エマニュエル・ジャル)、姉アビタル(クオト・ヴィーエル)と共に13年間そこで過ごす。
 2000年アメリカの政策で、難民が少しずつ移民として迎えられることになり、彼らもその中に入るが、現地に着いてから保安上の理由で姉と別に暮らすことになってしまう。
 職業安定所に勤めるキャリー(リース・ウィザースプーン)は、電話の存在すら知らない兄弟3人の仕事を紹介する難しい役目を負うが、最初は気が向かなかったのに、彼らの素朴な人柄に触れるに連れて懸命にサポートしたい気持ちになり、やがて自宅を難民受け入れ住宅に変え彼らの姉を迎え入れるというプレゼントをする。
 その後投降して離れ離れになった兄テオらしい人物がキャンプにいることを知り、マメールは現地に赴く。その結果確かに兄と判明するが、2001年のテロ事件を受けテロ支援国家と認定されるスーダンの住民にビザを発行する国はなく、仕方なく彼は嘘をついて一人兄をアメリカ行きの飛行機に乗せる。

スーダンの難民がこうした経緯でアメリカ国民となっていることは事実であり、同じような逸話は数多あるのであろうが、映画で描かれたお話そのものは実話ではない模様。しかし、そうはどうでも良い。
 実話なら感動的な映画になり、フィクションならそうでもないと思う心理は馬鹿げている。ここ20年ほど実話映画がもてはやされている理由にそれがあるのだろうが、実際にはそのお話の持つ力が【事実は小説よりも奇なり】で大きいということである。
 尤もどんな実話ものでも実際とは違う部分はあり、逆に、フィクションと言えどもそれまで人間が経験してきた事実の積み重ねに裏打ちされているわけだから、実際には両者の間にそれほど差はない。他方、観客を魅了する嘘をうまく付くのが映画の使命である。これが本作の言うグッド・ライ(良き嘘)である。

というのは大嘘であるが、「グッド・ライ」なる言葉はマーク・トウェーンの「ハックルベリー・フィンの冒険」の一挿話から抜粋されたもので、元来仏教用語であった【嘘も方便】と同じ意味合いを持つ。
 主人公が嘘をついて兄を飛行機に乗せる手段が嘘ならば、兄の使うビザも厳密に言えば嘘どころか犯罪であるが、こういうことを「犯罪だ」と言って鬼の首を取ったように騒ぐ連中こそ偽善者と言うべし。最近この類の人種が増えている。

作劇上は、マメールの嘘が本作のハイライト、肝と言うべきであろうが、僕の心を一番打つのは、彼らの素朴な、人間の原点を見るような、人間像である。彼らに動かされたヒロインの心情も解るというものだ。アフリカの子供たちの悲惨を取り上げるとやりきれなく作品が多い中、人間のプラス面に言及していることに大いに好感が持てる。

監督はなかなか気に入った「ぼくたちムッシュ・ラザール」を作ったフランス系カナダ人フィリップ・ファラルドー。

テロリズムは元々恐怖政治のことを指した、ということをご存知の方は案外少ない。これは本当の話。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
映画・グッド・ライ〜いちばんやさしい嘘〜
原題 THE GOOD LIE2014年 アメリカ ...続きを見る
読書と映画とガーデニング
2016/04/18 08:21

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
言葉というのは時代と共に変化していきますからね。
フランス革命・・・・・あんな恐怖政治になろうとは・・・
ねこのひげ
2016/04/17 12:08
ねこのひげさん、こんにちは。

誤用から全く逆の意味になる場合も多いですね。
役不足とか、流れに掉さすとか。

>フランス革命
「西洋の没落」の中でシュペングラーは、半ば必然であったようなことも言っていますが、世界史の教科書を読んでいても「平家物語」の諸行無常・盛者必衰を思い出すくらい過激。保元の乱で権勢を極めた信西が次の平治の乱では斬首されてしまうのですから、ロベスピエールにそっくり^^;
オカピー
2016/04/17 21:58

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