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zoom RSS 映画評「凶悪」

<<   作成日時 : 2016/03/27 10:39   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 9 / コメント 2

☆☆☆(6点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・白石和彌
ネタバレあり

世に言う「上申書殺人事件」の映画化。2005年に明らかになった事件(事件自体は1999〜2000年に発生)である。

【明潮24】という月刊雑誌の記者・山田孝之が、最高裁での審議を待つ死刑囚ピエール瀧から、事実上の主犯でありながらのうのうと生きている不動産ブローカー、リリー・フランキーに復讐したいと、彼が指導した三つの事件を告白される。
 一つは金銭トラブルを抱えた老人の焼却炉での殺人、一つは土地所有者の老人の生き埋め、もう一つは保険金目当てのウォッカ殺人である。

このうち老人の身元が特定できるウォッカ殺人事件だけが最終的に立件され、ブローカーの逮捕に結びつくのであるが、それまでは認知症の母・吉村実子を糟糠の妻・池脇千鶴に任せきりの山田記者の悪戦苦闘ぶりを描く。編集長に「記事にはできない」と却下されたにも拘わらず取り憑かれたように調査を続け、その結果編集長を翻意させ、最初は軽くあしらおうとした警察を動かすわけである。

本作は実話を基にしたフィクション化と謳っているが、そういう映画に限って「実話である」と謳っている作品より余程実際に近かったりする。
 本作において明らかにフィクションと解るのは記者の家庭の描写。本作の原案となったノンフィクションを構成した雑誌【新潮45】の一記者の私生活がその中で紹介される理由がない。

それにしても日本は他人に気を遣う文化であることよ。アメリカ映画であれば、【新潮45】も犯人たちも全て実名で出すであろうに。それが出来ないことが、多分に、日本の実話ものがアメリカのそれに迫力において及ばないと感じることが多い所以である。
 バイオレンスがもたらす後味の悪さについても、十数年観てきた韓国のそれより、砂を噛むようなざらつき感が薄い。薄味の後味の悪さ・・・何のことかよく解りませんが(笑)。それでも実話故の得も言われぬ不愉快さは十二分にある。しかるに、インパクトがその潜在性ほど発揮できていない感じがするのである。“先生”と呼ばれる不動産ブローカーが山田記者に彼の死刑願望(≒殺人欲望)を指摘する幕切れに恰好をつけすぎている印象があるからかもしれない。

映画的には、山田記者が最後の事件が起きた家を覗いているうちにカメラが内部に入ることで時間が遡及して事件が再現され、これが暫し続いた後、やがてカメラを構える記者がブローカーを撮るところで現在に戻る、という部分が断トツに優れている。新人・白石和彌監督の感覚が光った部分だ。

山田記者が認知症の母を抱え、健気な細君が限界に近づく様子を加えた脚本の工夫も見逃せない。この家庭の場面が調査部分の緊張感を途切れさせるという批判もあるが、僕はまるで逆の意見である。それ自体は必ずしも間違いとは言えないものの、健気な人妻が「(お義母さんが)死んでほしいと思うこともある」と言うように次第に追い詰められ狂気に近づく描写を入れることで、特に最後の家族の殺害依頼がこの超高齢化社会においてはそれほど特殊でないことを示し、事件の普遍性即ち作品の社会性を打ち出すのである。高齢化社会が生み出す介護の問題にピントが合うのである。

ピエール瀧(扮する人物)も、リリー・フランキー(扮する人物)も、殺人狂には違いないが、狂気のタイプが違うような気がする。前者は悪どいことを繰り返すうちに道徳観が鈍磨したタイプ、後者は生まれついての性格異常者、なのではあるまいか。個人的には後者が断然怖い。そして、二人ともそんな悪党を演じて誠に好調。

身の毛もよだつ尼崎の事件。短い再現ドラマにはなったが、誰か本格的に映画化しないだろうか。フィクションの恐怖映画など目ではないですぞ。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
凶悪
まさしく「凶悪」で震える。 ...続きを見る
Akira's VOICE
2016/03/27 10:40
凶悪
人間はどこまで悪になれるのかとか考えていくときりがないですが、禍々しい悪というものはあるものです。 先生と呼ばれて、殺人の快楽と貧困ビジネスの利潤を両立させている木村、先生のために殺人・死体処理をしていた須藤とその舎弟たち。唯一、事件を追うあまり、自らの家庭の問題(認知症の母の介護)から目をそらす藤井の存在が、人間味があるというか。 実際にあった事のフィクションという事で、少々白々しく見えてしまうのも確かなのですが、藤井が木村の家の曇ったガラス窓をこすって中を覗くシーンから、回想のよ... ...続きを見る
いやいやえん
2016/03/27 10:41
凶悪
知るべき闇は、 真実の先にある。 製作年度 2013年 上映時間 128分  映倫 R15+ 原作 新潮45編集部編 監督 白石和彌 出演 山田孝之/ピエール瀧/リリー・フランキー/池脇千鶴/小林且弥/斉藤悠/白川和子/吉村実子 ...続きを見る
to Heart
2016/03/27 10:45
『凶悪』
□作品オフィシャルサイト 「凶悪」 □監督 白石和彌□脚本 高橋泉、白石和彌□キャスト 山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴、       白川和子、吉村実子■鑑賞日 9月21日(土)■劇場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★★☆(5★満点、☆は0.5... ...続きを見る
京の昼寝〜♪
2016/03/27 16:21
ある死刑囚の告発〜『凶悪』
 スクープ誌 『明潮24』 編集部宛てに、死刑判決を受けて最高裁に上告中の 須藤純次(ピエール瀧)という元ヤクザから手紙が届く。自分には殺人の余罪が あり、主犯である 「先生」 と呼ばれていた人物・木村(リリー・フランキー)の罪 を告発したい、という内容だった。記者の藤井(山田孝之)は須藤と面会し、真実 かどうかも定かでない事件にのめり込んでゆく・・・。 ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2016/03/27 17:12
凶悪 ★★★.5
死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2016/03/27 19:27
凶悪〜今そこにある認知症
公式サイト。新潮45編集部原作、白石和彌監督、山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴、白川和子、吉村実子、小林且弥、斉藤悠、米村亮太朗、松岡依都美、ジジ・ぶ ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2016/03/27 20:04
13-366「凶悪」(日本)
もう罪悪感は無い   ある日、スクープ雑誌『明潮24』に死刑囚の須藤純次から手紙が届く。それは、判決を受けた事件の他に、彼が関わった誰も知らない3つの殺人事件について告白するものだった。  須藤曰く、彼が“先生”と呼ぶ首謀者の男が娑婆でのうのうと生きていることが許せず、雑誌で取り上げて追い詰めてほしいというのだった。  最初は半信半疑だった記者の藤井修一。  しかし取材を進めていく中で、次第に須藤の告発は本物に違いないとの確信が深まっていく藤井だったが。(「allcinema」より... ...続きを見る
CINECHANが観た映画について
2016/03/27 23:05
「凶悪」
正に「凶悪」。最近の映画は、残酷なシーンも数多く、ちょっとやそっとの凶悪な話しには驚かなくなってきている筈なのに、この内容は…。そしてこれが実話を元にしているというのだから更に凶悪度が増す。地球上で一番残酷な生物は、多分、人間。 ...続きを見る
ここなつ映画レビュー
2016/03/30 18:24

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
まあ、日本では無理でしょう。
アメリカでは9・11の時の唯一成功しなかったユナイテッド航空のドキュメンタリー映画が作られましたけどね。
日本ではオウム事件があるのに誰も映画を作ってませんからね。
顰蹙をかっても作ろうという気概のある人間がいないと町山さんも言ってました。(*_*)
ねこのひげ
2016/03/27 11:44
ねこのひげさん、こんにちは。

>ユナイテッド航空
もう数年も経っていたのに「被害者のことを考えない人非人」などと作者や褒めていた批判していた狭量な方もいました。
桑田佳祐が「TSUNAMI」を歌いたいと言ったことに対し、同じことを言った人も知っています。
バカじゃなかろうかと思いますね。恐らく桑田の真意は「そういう時代が早く来ると良い」ということだったでしょうに。そうでなくても、自分の歌を歌いたいと思うのは人情でしょう。僕に言わせれば、そんなことを言う人の方が人非人ですよ。

>オウム事件
加害者を追ったドキュメンタリーはありましたけど、劇映画としては無理だろうなあ。
被害者どころから、加害者のことも考えすぎてしまう。

>町山さん
正しいです(笑)
オカピー
2016/03/27 20:37

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