プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」

<<   作成日時 : 2016/02/28 09:49   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 12 / コメント 2

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年イギリス=アメリカ合作映画 監督モルテン・ティルドゥム
ネタバレあり

2001年製作の「エニグマ」でナチス・ドイツの解読不能と言われた暗号機エニグマの存在を知ったが、本作が実話であるとすると、一度英国側が暗号を解読した後からお話が始まるかの作品は大部分が創作であったらしい。

1951年数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)の家が泥棒に襲われる。本人は何も盗まれていないと言うが、刑事ノック(ロリー・キニア)は何か隠していると怪しむ。
 時は1939年に遡り、MI6のミンギス(マーク・ストロング)が英国各地から暗号解読の天才を募集し、その中心人物となるのがチューリングである。コミュニケーション能力に乏しく孤立する彼は単独で、毎日ドイツ軍が変える事実上無限の暗号パターンを18時間のうちに解読するマシンの開発を始める。
 別途応募で仲間に加わるクロスワード解読の天才美人ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトリー)が、彼とその他のメンバーの溝を埋めていく。彼は彼女を仲間として愛し求婚するが、実は同性愛者である(ため苦悩する)。
 かくして次第に結束を強めた彼らはやがて成果を出して解読に成功するものの、論理的なチューリングは「すぐにそれを作戦に反映し攻撃を回避することは控えなければならない」と周囲に告げる。我が邦の「ガッチャマン」とは逆に多数を救う為に少数を犠牲にするしかないのである。

というお話が、51年当時は犯罪であった同性愛(風俗壊乱)の罪で逮捕された彼がノック刑事に語る回想形式で展開する。これに学生だったチューリングが同級生を愛する1929年の時系列が絡む。この時主人公に暗号の面白味を授けたのがその同級生である。
 並行描写されるその時系列の中でその相手の名前をコンピューターに名付けていたことが判る箇所がちょっとした驚きを伴い(勘の良い人なら事前に勘付いたかもしれないが)ドラマ的に一番の感銘を呼ぶ。1929年の時系列でその名前が同級生の死を受け初めて我々に示されるのが脚本として大変巧妙で効果的。事前に解らせていたらここまで感銘を生み出すことは出来なかっただろう。その解読器(後にコンピューターと呼ばれることになる)を守る為にホルモン剤を飲むことで服役を回避するが、結局苦悩の末に彼は1954年に自殺してしまう。

彼の悲劇はそれに留まらず、長く彼の活躍が秘匿されたということもある。その長きに渡る理由は作戦そのものの極秘性だけでなく、恐らく同性愛者として処分を受けたことも手伝ったのかもしれない。2009年ブラウン首相が政府としてその扱いについて謝罪、2013年エリザベス女王からも死後恩赦されたとの由。

本作の説明によれば、英国は(1885年から)1967年まで同性愛は犯罪であったらしい。ヒッチコックの「殺人!」(1930年)における登場人物がhalf-caste(混血)故に追い詰められる設定が理解できないと質問された為、僕は「half-casteはこの映画においては本来の混血ではなく、隠語として同性愛者を意味し、当時は犯罪であり差別もされたから」とある人に解説したのを思い出す。欧米で同性愛がかなり自由になるのは1960年代後半からである。
 今でも同性愛には誤解が多く、日本にはそうした伝統のないようなことをのたまう保守層が少なくないが、日本の古典や伝記などを読めば自分の無知に気付くだろう。恐らくは労働人口を必要とする産業革命による経済的要求が最初に西洋人の、そしてその思想を取り入れた日本人の性意識を変えたのである。
 経済と言えば、近代の戦争の大半はそれが理由であったが、戦争は色々なものを発明する。本作におけるコンピューター、或いはGPSやネットも冷戦により生まれたと言われている。

映画としては三つの時系列の扱いが巧みで、潜在力に等しく或いはそれ以上に興味をそそる作品に仕立てられていると思うが、世評(特にアメリカにおいて)は些か高すぎるような気がしないでもない。

ノルウェーではレジスタンスがナチス・ドイツの原爆製造阻止に活躍。来週それを扱った「テレマークの要塞」(1965年)をアップします(珍しくも、予告です)。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(12件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
日常会話が暗号に聞こえる人が暗号を解読する 公式サイト。原題:The Imitation Game。アンドリュー・ホッジス原作、モルテン・ティルドゥム監督。ベネディクト・カンバーバッチ、キー ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2016/02/28 10:29
暗号解読/不遇の偉人〜『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』
 THE IMITATION GAME ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2016/02/28 10:51
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 ★★★.5
第二次大戦時にドイツ軍が誇る史上最高の暗号機“エニグマ”の解読に挑み、連合軍の勝利とコンピュータの発明に貢献した実在の天才数学者アラン・チューリングの時代に翻弄された過酷な人生を映画化した感動の伝記ドラマ。天才でありながら社会性に乏しく、周囲から孤立して... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2016/02/28 11:31
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
【概略】 ドイツ軍の暗号“エニグマ&quot;の解読任務に就いたチューリング。仲間と共に見事解読を果たすが…。 サスペンス ...続きを見る
いやいやえん
2016/02/28 11:48
「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」☆リアルゲーム
飄々とした表情の演技の多いカンバーバッチ。 この飄々とした中に、これだけの違いを出せる俳優が他にいるかしら? ...続きを見る
ノルウェー暮らし・イン・原宿
2016/02/28 16:15
「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」
コンピューターの元祖(?)ですかー。 ...続きを見る
或る日の出来事
2016/02/28 20:59
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
挑むのは、世界最強の暗号――。 ...続きを見る
to Heart
2016/02/28 21:33
15-015「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」(イギリス・アメリカ)
時として、想像もしていなかった人物が、想像もしていなかった偉業を成す  1939年。ドイツ軍と戦う連合軍にとって、敵の暗号機“エニグマ”の解読は勝利のために欠かせない最重要課題だった。しかしエニグマは、天文学的な組み合わせパターンを有しており、解読は事実上不可能といわれる史上最強の暗号機だった。  そんな中、イギリスではMI6のもとにチェスのチャンピオンをはじめ様々な分野の精鋭が集められ、解読チームが組織される。その中に天才数学者アラン・チューリングの姿もあった。  しかし彼は、共同... ...続きを見る
CINECHANが観た映画について
2016/02/29 01:30
「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」
ここまで面白いとは!すごい、本当にすごい作品。「暗号解読」という、非常時には不謹慎と知りつつワクワクしてしまう題材は元より、一人の天才が、運命に翻弄されながらもその仕事に果敢に取り組む様に引き込まれる。必見。第二次世界大戦。ヒトラー率いるドイツ軍が破竹の勢いでヨーロッパ全土に侵攻していた頃、ドイツが世界に誇る暗号機「エニグマ」を解読せんと、英国MI6の元に任務に相応しい精鋭達6名が集められた。その中の一人、アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)は、一般的に考えられる解読作業をせずに... ...続きを見る
ここなつ映画レビュー
2016/02/29 19:40
映画:イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密 連合軍を勝利に導く 静かな闘い。
この春、アカデミーで作品賞含め 8部門ノミネート。 結果、脚色賞をゲット。 確かにそれだけのことはある! 脚色賞にふさわしく、第二次世界大戦初期、中期、末期、その後を巧みに織り込み描きあげる。 粗筋は、こんな感じ&hellip; 第二次世界大戦時、ドイツ軍が誇... ...続きを見る
日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF ...
2016/03/05 09:22
『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』
(原題:The Imitation Game) ...続きを見る
ラムの大通り
2016/03/14 23:07
SHERLOCKゲーム
「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」 「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」 ...続きを見る
Akira's VOICE
2016/06/16 10:46

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
日本の場合、同性愛というより両刀使いであったようですけどね。
嫁さんがいながら男の愛人がいた戦国武将は多数いますね。
明治になって清教徒的思想がはいてきて、同性愛者に対する差別が酷くなったようですからね。
ねこのひげ
2016/02/28 15:34
ねこのひげさん、こんにちは。

>両刀使い
正確に言うと、そうですね。
欧州でも、古代〜近世の芸術家(ダ・ヴィンチ、ミケランジェロなど)や僧侶は両刀使いだった気配が濃厚です。

>清教徒
そうした歴史のないアメリカでは、欧州より、一頭先に到着した清教徒の思想が定着しやすかったのでしょうね。
オカピー
2016/02/28 19:20

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる