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zoom RSS 映画評「娚の一生」

<<   作成日時 : 2016/01/21 09:01   >>

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☆☆☆(6点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・廣木隆一
ネタバレあり

西炯子(にし・けいこ)という漫画家のコミックを廣木隆一が映画化した恋愛映画である。廣木監督は、本質的には「ヴァイブレータ」のようなセミ・ドキュメンタリーの映画作家なのだろうが、なかなかそうした作品を作らせて貰えず大衆的映画が目立つ。しかし、ごく一部にそのタイプの片鱗を見せる箇所はあり、それが作品のバランスを崩していて居心地の悪さを感じることも多い一方で、一か所ぐらいは「この映画を観て良かった」と思わせる秀逸ショットがある。「だいじょうぶ3組」での自転車群を捉えた移動ショットの鮮やかさには及ばないものの、本作でも主人公男女が載る自転車を捉えた移動ショットは美しい。

都会での不倫に疲弊した榮倉奈々は会社を辞めて鹿児島に戻り、祖母の家でその専門だった染物をして日々を過ごしている。そんな或る日、祖母が急死、その葬儀の翌朝、彼女の大学講師時代に学生だったという哲学教授・豊川悦司に挨拶される。彼は離れに勝手に住み始め、ずうずうしくも三食の飯などを要求する。大人しい性格らしい彼女は反発しながらも、風呂焚きなどを対価として、それを認め、かくしてぎこちない半同居生活が始まる。

【Yahoo!映画】は、映画ファンではない一般の鑑賞者の投稿が多いこともあって意見が極端に分れる映画サイトであるが、本作に限らず否定的な意見に多いのが「登場人物(勿論主役)に共感できない(から)」。ジャンル映画において共感は重要だが、ドラマ映画でそれを評価の理由とするのは失格である。
 ドラマにおいては多かれ少なかれ登場人物を実験台に載せるわけで、善人・悪人・卑怯な人・清廉潔白な人・強い人・弱い人等々を問わずに、人間が探求される。一般の倫理や道徳観を少しも外れない人物がドラマの主人公になって面白い筈がない。そういう人は毎日小津安二郎の映画でも観ていれば良い。しかし、小津映画の登場人物とて共感できる保証などない。人間は個々で価値観が違うのだから、そもそも自分以外の人間に簡単に共感などできないのが実際であろう。

本作でも、豊川演ずる大学教授が傍若無人に振る舞うのが気に入らない御仁(ヒロインが困る立場なので女性が多いかもしれない)が多いが、その突拍子もない設定があるから感興が湧くのである。故に、本作で実験台に載るのはヒロインの方で、こうした状況にどう対応するかが興味の焦点となる。ましてヒロインは不倫に傷心を抱く身である。彼女の表情や態度や言葉にその心理が伺えるように作られていてなかなか面白い。

しかし、もっと面白いのは、彼女に作用する教授の心理学的分析。幼くして父母がなく里親に引き取られた彼が養母が再婚すると知って家出をしている。エディプス・コンプレックスに陥っていたのだ。彼が大学生になって母親の年齢ほどの女性大学講師に思慕するのはその顕れであり、その彼女に似ている孫の奈々ちゃんに惚れるのは半ば必然・・・ということになる。母親(岩佐真悠子)に置いてきぼりにされた5歳児(若林瑠海)に対する辛辣な言動は、彼が孤児としての体験が言わせるものであるから、奈々ちゃんが「解るはずもない」と言うのは少し違う。

最初は彼をずうずうしいと思っていた彼女は紆余曲折を経て彼に傾いていくわけであるが、これを唐突とする意見も多い。つまり、紆余曲折が少ないということであるが、それについては何とも言えない。しかし、最初から全く受け入れがたい男であれば、彼女は最初から追い出していたであろう。少なくとも、その強引さに、恐らく煮え切らない態度に終始した(であろう)不倫相手(向井理)より本能的に頼れるものを感じたのではないか。彼女自身が、父親を強く求めるエレクトラ・コンプレックスを持っていた可能性もある。これはまあ、僕の勝手な推測に過ぎない。

すっかり「甥の一生」と思い込んでいたが、“甥”ではなく“娚”である。これを“おとこ”と読ませるのは変化球で、一般的には“めおと”。つまり、本作は最初から夫婦の物語を想定したと考えることも出来る。その辺は原作者にお聞きしたい。

近年の作品の中では廣木監督本来のタイプに近い作品という印象はあり、何度か観た方が面白くなる可能性を感じる。

木の雨戸を開け閉めするシーンが出て来る。最近は木の雨戸を見ることがなくなったので、郷愁を誘われる。

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娚の一生〜無関係な関係
残された時間で染める愛 公式サイト。西炯子原作、廣木隆一監督。榮倉奈々、豊川悦司、安藤サクラ、前野朋哉、落合モトキ、根岸季衣、濱田マリ、徳井優、木野花、美波、岩佐真悠 ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2016/01/21 10:23
娚の一生 ★★★★
「月刊フラワーズ」掲載の西炯子のベストセラーコミックを実写映画化した大人のラブストーリー。過去を引きずり幸せをつかめずにいるキャリアウーマンと、恋愛を拒んできた50代の大学教授が出会い、奇妙な共同生活を通じて心を通わせていく。才色兼備なのに不器用なヒロイ... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2016/01/21 12:30
『娚の一生』
□作品オフィシャルサイト 「娚の一生」□監督 廣木隆一□脚本 斉藤ひろし□原作 西 炯子□キャスト 榮倉奈々、豊川悦司、向井 理、安藤サクラ、前野朋哉、        落合モトキ、根岸季衣、濱田マリ、徳井 優、木野 花■鑑賞日 2月15日(日)■劇場 TOHO... ...続きを見る
京の昼寝〜♪
2016/01/21 19:11
娚の一生
余韻がとてもコミック・ティストだなぁ、と思ってたら、やはり原作は、西炯子のベストセラーコミック、だったのですね。 ...続きを見る
のほほん便り
2016/05/18 14:07

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
役者は悪役や人に嫌われる役をやりたがるようで一般人に嫌われるのは本望でしょうね。
最近は木の壁も無くなってきて石膏ボードの壁の家が増えてきました。
おっさんとすれば違和感ありますが、火事や地震対策のためのようですね。
ねこのひげ
2016/01/24 13:05
ねこのひげさん、こんにちは。

何でもかんでも共感で評価されては、監督さんは困るでしょうけどね(笑)
 サスペンスとか西部劇などでは、主人公を応援できないとお話にならないので、共感度は大事と思いますが、ドラマでは登場人物への共感と作品の評価は別にしないと。

>石膏ボード
我が家も古い家ですが、木造ではないです。だから、火災保険は安いのです。
オカピー
2016/01/24 21:26

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