プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「悪童日記」

<<   作成日時 : 2015/10/05 10:17   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 5 / コメント 2

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年ハンガリー=独=オーストリア=フランス合作映画 監督ヤーノシュ・サース
ネタバレあり

ハンガリーからスイスへ亡命した女流作家アゴタ・クリストフが1988年にフランス語で発表した同名小説をハンガリーの監督ヤーノシュ・サースが映画化した純文学映画。

第2次大戦末期、何処と特定されていないものの、明らかに、ナチスに協力していたハンガリー王国が舞台。
 「双子は目立つ」と父親(ウルリッヒ・マテス)に言われた双子の息子(ラースロー・ギマント、アンドラーシュ・ギマント)が日記帳を持たされただけで母(ジョンジェベール・ボグナール)方の祖母(ピロシュカ・モルナール)の家に預けられ、連れてきた母親はいなくなる。「魔女」と噂される太った祖母は子供二人を母屋に入れず只管冷たくこき使う。
 双子は、近所と言っても隣に家が一軒あるだけの寒村で、生きる為に「暴力」「空腹」「残虐」に抗し切るだけの訓練を自らに課し、観たことを日記に綴るうちに確かに強い人間になり、自ら作り上げた基準で善悪を判断し対処する。

内容はまるで違うものの子供と太った老婆の描写からフランス映画の秀作「これからの人生」(1977年)を思い出しながら観ていたが、厳しい画面(撮影監督クリスティアン・ベルナー)の点出する数々の野趣溢れる場面と、生命に対する即実的な扱いが大いに気に入り、高く評価する気になった。

作者は、少年たちが「残虐」に耐える為に殺した虫たちの標本を見せるのと同等の扱いで、人々が呆気なく死んでいくのを捉える。異父妹を連れて迎えに来た母親は少年たちが抗っているうちに空襲で死に、亡命しようと鉄条網を超えた父親も地雷で死ぬ。正に一瞬に人間がいなくなる感覚で死がドライ千万に捉えられている。隣の泥棒娘もソ連兵と楽しんだ後何故か死体で登場、双子は「死にたい」と言ったその母親の居る家に火を放ち、脳梗塞を連発している祖母の「安楽死」の要求にも応える。
 数多く出て来る死にも色々な様相があり、少年たちが恐怖感を伴わずに死を見つめる様子に凄みを感じる。それでいて映画全体に無機質な印象を僕が覚えなかったのは、日記などに見られる野趣のおかげである。

「(聖書は)『汝、殺す勿れ』というけれど、皆、殺している」という少年の言葉は終戦時10歳だった原作者が戦争を通して覚えた無力なキリスト教的教条への反感であろう。双子の一人が父親の死(体)を踏み台に鉄条網の向こうに消えることから、作家としての彼女は、恐らく、ハンガリー人としての自分、そして、スイスに亡命した自分という二つの自分を持っていると自覚し、それが双子という設定を用意した理由ではないかと想像されて興味深い。

戦争の彼方に・・・

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(5件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
一心同体〜『悪童日記』
 A nagy fuzet ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2015/10/05 12:11
悪童日記 ★★★★
ハンガリー出身のアゴタ・クリストフの小説を映画化し、第2次世界大戦下の過酷な時代を生き抜いた双子の日記を通して世界を見つめた衝撃作。両親と離れて見知らぬ村に預けられた少年たちが、日々激化する戦いの中で自分たちのルールに従い厳しい状況に追い込んでいく姿を... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2015/10/05 20:36
悪童日記
原題 Le Grand Cahier 製作国 ドイツ/ハンガリー 上映時間 111分 映倫 PG12 原作 アゴタ・クリストフ 『悪童日記』(早川書房刊) 監督 ヤーノシュ・サース 出演 アンドラーシュ・ジェーマント/ラースロー・ジェーマント/ピロシュカ・モルナール/ウルリク・トムセン/... ...続きを見る
to Heart
2015/10/05 20:45
悪童日記
【概略】 第2次世界大戦下のハンガリー。双子の兄弟は両親と離れ、祖母が住む田舎へ疎開させられる。過酷な日々を送るうち、大人の非情な世界を知ったふたりは自らの信念に基づき生き抜こうと決意し、成長していく。 ドラマ ...続きを見る
いやいやえん
2017/01/23 14:59
悪童日記
1944年、第二次世界大戦下のヨーロッパ。 双子の兄弟は、両親と暮らしていた大きな町から、祖母の住む小さな町へ疎開した。 祖母は笑顔も見せず、兄弟をこき使い、しょっちゅう殴る。 彼らは、出征した父親から渡された大きなノートに、自分たちの毎日の暮らしを、良いことも悪いことも正直に記録する。 そして過酷な毎日に耐えられるよう、肉体と精神を鍛える「訓練」を行うのだった…。 戦争ヒューマンドラマ。 ...続きを見る
象のロケット
2017/01/27 21:48

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こういうのを悪童というのかな?と疑問ではありますがね・・・
戦争ではなくても現代でも生きがたいですからね。
少子化していくわけでありますね。
ねこのひげ
2015/10/11 17:39
ねこのひげさん、こんにちは。

>悪童
敢えて言えば、彼らは天邪鬼ですかね。

>少子化
貧乏でなくても、「この汚濁の世に子供を放り出したくない」という映画の登場人物のような人もいるでしょうね。
政府は、出生率を1.8にするなどと息巻いていますが、日本人がオリンピックの100mで優勝するくらい難しいでしょう。
オカピー
2015/10/11 20:42

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「悪童日記」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる