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zoom RSS 映画評「ディア・ハンター」

<<   作成日時 : 2015/10/02 09:11   >>

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☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1978年アメリカ映画 監督マイケル・チミノ
ネタバレあり

2010年頃までおよそ40年間購読した映画雑誌「スクリーン」の読者欄を一番賑わした作品ではないだろうか。「ゴッドファーザー」(1972年)も騒がれたが、それ以上だったと思う(但し、近年は知らず)。

センセーションの一つは、クリストファー・ウォーケン。傷つきやすそうで透明な容姿が女性陣の心を掴んだ。その後傑作・名作と言われる作品にはさほど恵まれていないが出演数は多く、本作がなければこれほど重用される役者にはなっていなかっただろう。
 もう一つは、ロシアン・ルーレットの超ド級の緊迫感。一発だけ銃弾をこめて自分の頭に向けて引き金を引くロシアン・ルーレットが本作で一躍お馴染になった。

「サンダーボルト」(1973年)が日本で紹介されていたマイケル・チミノは本作で大注目の監督になったが、次の「天国の門」(1981年)で製作した名門ユナイテッド・アーティスツを倒産の危機に追い込んで干された。僕はテアトル東京最後の日に「天国の門」と本作を観た。日本一でかいと言われたスクリーンでの本作の迫力に圧倒され、帰宅の途についたのは午前5時頃である。それが正に最後の上映であった。

恐らく1973年(グラディス・ナイト&ザ・ピップスの名曲「夜汽車よジョージアへ」が戦場ベトナムでかかる)、ペンシルベニアの鉄鋼の町で暮らす5人の友人たちのうち、ロバート・デニーロ、ジョン・サヴェージ、そして前出のウォーケンが出征することになる。サヴェージは自分ではない男の子供を妊娠している女性と土曜日に結婚式を挙げ、月曜に出征という慌ただしさ。日曜日にサヴェージを除く友人4人(前出二人加え、ジョン・カザール、ジョージ・ザンザ)は鹿狩りに山へ繰り出す。

街並みの描写に続き撮影監督ヴィルモス・ジグモンドが捉えた山岳での情景が非常に素晴らしい。射止めたシカを囲んで明日の出征を控えた沈黙の場が、突然、爆音がうなるベトナムの戦場に移る。映画館では音量と明暗による落差が強烈な印象を残した。TVではさすがに無理である。

そして、いよいよ、捕虜になった三人がベトコンにロシアン・ルーレットを強制される緊張の場面が始まる。弱気のサヴェージはまともにできない為水牢に入れられ、強気のデニーロはこめる銃弾の数を増やすことをベトコンに持ちかけ、緊張で隙ができた瞬間を狙って逆襲する算段である。いずれにしても一度は挑戦しなければならない。
 もっと長い場面だったような気がするが、それだけこちらも主人公たちと同様に緊張に手に汗を握っていたのでしょう。

その結果三人とも命を奪われずに退役することになるが、ウォーケンの恋人メリル・ストリープに挨拶に出かけたデニーロはサヴェージが足を失って退役軍人病院に入院していることを知り、さらに彼の許に届いているお金から精神を病んだウォーケンがまだベトナムでロシアン・ルーレットで稼いでいることに気付く。かくして再びベトナムに赴いたデニーロはウォーケンを連れ帰ろうとするが、ウォーケンはルーレットを強行するうちに死んでしまう。そして、葬儀の後女性たちを加えた知人たちで彼を偲ぶ。

ロシアン・ルーレットは戦争の狂気を象徴し、運が生死を分かつ戦場の恐怖を表現する。必ず死ぬなら却って怖くないのではないだろうか、そんな思いを抱きつつ観ていた。一発の銃弾の重みを知ったデニーロは退役後の狩りでシカに向って銃弾を放つことができない。胸に迫る場面であった。
 今の若い人はせっかちだから、前半の、特に結婚式場面が延々と続くところで退屈してしまうのではないかと危惧するが、この長さが醸成する重量感が後半のルーレットの超ド級の緊張感へと繋がっているはずだから、ここをあっさり処理しては観終わった後の肩が凝るような疲労感が生まれまいと思う。

いずれにしても、本作は映画による見事な純文学であった。それが大衆によりこれだけ騒がれたのは、必ずしもロシアン・ルーレットやウォーケンの為だけではない。演技陣が揃って好演し、ジグモンドが美しい画面を構成し、ジョン・ウィリアムズのギターが余韻を生み出し、それらを堂々とまとめあげたチミノ渾身の演出がそれを成し遂げたのである。今回見直してつくづく感心した。

配役陣のデニーロが既にスターであったがまだまだ新鮮。「ジュリア」(1977年)で短い映画出演を果たしたメリル・ストリープは出番が大幅に増えた本作にてスターダムが半ば約束された。新鮮な美しさと演技力の一端を観ると、栴檀は双葉より芳し、の思いを抱く。

IMDbでの評価が上がっているのは、リアル・タイムで観て興奮した者としては嬉しいぞよ。本作を見直すと、先日観た「ファーナス/訣別の朝」は本作の本歌取りであることがよく解る。

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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
何年か前にBS字幕放送を録画していて、その時は重厚で悲惨なものを観る気がしなかったので、後日の鑑賞となったんですが、若くもないのに<前半の、特に結婚式場面が延々と続くところで退屈して>しまいました(笑)。
歳をとってせっかちになったというよりは、沈鬱なムードが続くのが嫌になったみたいです。
封切り時に劇場鑑賞した時には、それはそれは感動したもんですがねぇ。

>グラディス・ナイト&ザ・ピップスの名曲「夜汽車よジョージアへ」が戦場ベトナムでかかる

この曲は当時好きな曲でした。
MYブログのtopページに、youtubeのっけてみます。
十瑠
URL
2015/10/02 11:14
友を救う為またあの地獄へ戻っていくデ・ニーロに
公開時、心が打ち震えました。まだデ・ニーロ臭さが
前面に出てなくてとてもよかったし。(笑)
哀しいウォーケンの表情とか、異様なくらい
ハイ・テンションなあのベトコンの言葉使いとか、
とにかく観る者をヒリヒリ感でいっぱいにする映画
でした。何回も観たいとは思いませんが、
傑作であることだけは確かですわ。
vivajiji
2015/10/02 17:08
これは封切りで観てます。戦争の狂気を描くのにこういうやりかたもあるのだな、と思いました。役者はみなうまい、メリル・ストリープも覚えています、よかったです。
ただ、マイケル・チミノの癖というか、ベトナムのあやしげなクラブなどいかがわしい場面になると画面が活き活きするというのも感じました。これはその後の作品にも共通しておりまして、本来は社会派ではなく、モンド系みたいな下品方向に合う体質の監督さんだなと見ております。
nessko
URL
2015/10/02 20:03
十瑠さん、こんにちは。

>何年か前
その時もブルーレイに録画しましたが、放送自体がハイビジョンではなかったので、今回のハイビジョン版で鑑賞しました。
しかし、序盤に地震があり、暫く情報を伝えるのに腹が立ちました。震度3くらいの時は出す必要ないでしょうし、出すにしてもあっさりお願いしたいものです。

>沈鬱なムードが続く
そうでしたねえ。
でも、僕はこの作品の沈鬱は美しく感じたなあ。
長いけど、また観てもいいなあと思いました。

>「夜汽車よジョージアへ」
この曲を聞くと1973年とピンと来ますねえ。
1990年頃になると全然曲と年が一致しなくなりました。
オカピー
2015/10/02 21:14
vivajijiさん、こんにちは。

>デ・ニーロ臭
あご髭を生やしているせいもありますが、臭くなかったですねえ(笑)
この作品のデ・ニーロは表情にイタリア的にやけではなく、ロシア的厳粛がありました。
見直して、ロシア・コミュニティだったと気付いたというお粗末。
酒を飲む時にしきりにロシア語で「健康に!」と言っていたのが印象に残りました。

>哀しいウォーケンの表情
何と透明なんだろう、と思います。魅力的だったなあ。
当時女性陣のハートを鷲掴みにしたのが解りましたよ。

>ヒリヒリ感
若者たちには残酷すぎる経験。
本当に心が痛みましたね。
オカピー
2015/10/02 21:32
nesskoさん、こんにちは。

>戦争の狂気
究極の恐怖が却って麻薬のように若者をしてロシアン・ルーレットに嵌らせる。
シカ狩りとロシアン・ルーレットをリンクさせたのが文学的で、味わいがあると思いました。それぞれの一発の意義!

>モンド系
僕も社会派とは思いません。
長回しのねちっこい作風ですから、合うのかもしれませんね。
録画してある「サンダーボルト」はどうだったかな。
オカピー
2015/10/02 21:40
 プロフェッサーと同じく、ロードショーではなくスクリーン派だった僕も、当時の反響はよく覚えています・・。
ただ、ぼくも、この作品は2度しか観ていない・・vivajijiさん同様、何度も見たい映画ではないのでしょうが、そのくせ、頭から離れない(笑)

>いずれにしても、本作は映画による見事な純文学であった

ううむ・・ぼくみたいな生半な学問では、ここまでピシッと言えませんでしたよ(笑)
確かに、これほどの純文学なのに、ベストセラー的に大衆が受け入れたのですからね・・時代のせいもあったでしょうけど。

>ロシアンルーレット・・必ず死ぬなら却って怖くないのではないだろうか

これですよね!
ぼくは、弱者のみが犠牲になる戦争は大嫌いですが、日本軍の特攻は、当事者(パイロット)にとっては、言われるほどの狂気でも恐怖でもではなかったと思いますね。
「必死」なら、むしろさっぱりと死ねる。
何分の一の確率で生き残れる、いや、生きることができてしまう状況の怖さ・・。
人間の生み出した最も、過酷なゲームですねぇ・・。
浅野祐都
2015/10/03 04:42
浅野祐都さん、こんにちは。

>スクリーン
反響は凄かったですねえ。
女性陣はウォーケンに嬌声を上げていました。
「ロードショー」が73年頃創刊されて、わが「スクリーン」もアイドル雑誌化を進めて、次第に映画評が減り、何度も止めようかと思いましたが、当座は双葉十三郎師匠の「ぼくの採点表」があったので続けていました。しかし、これがなくなった時すぐにやめれば良かったものを、さらに7〜8年購読しましたよ。

>ぼくみたいな生半な学問では
いや、当方も勢いに任せて書いているところもあり・・・
チミノ自身は決して文学指向でも社会派指向でもないと思いますが、本作に関しては紛れもない純文学と思いましたね。

>時代のせいもあり
これは絶対的にそうですね。
それよりさらに数年前パートカラーの厭戦映画「ジョニーは戦場へ行った」が配収でベスト10に入り、宗教映画「ブラザー・サン、シスター・ムーン」やロードムービー「スケアクロウ」が映画ファンの間ではアイドル映画のように騒がれましたから。隔世の感ありです。

>日本軍の特攻
一部保守が言うような「喜んで死んでいった」ということはないでしょうが、恐怖についてはあるいはそうかもしれませんね。
戦死もあるいは、確率がはっきりしないだけでロシアン・ルーレットの如きもの。そんな気もしました。それを戦場でやるという発想、戦場だから当たり前のように行われるという発想が凄かったです。
オカピー
2015/10/03 21:44
マイケル・チミノは『サンダーボルト』で惚れましたけどね。役者たちもよかった。観ている側も熱かったですね。
『ディア・ハンター』はいささか美しすぎたかな?
『FURY]みたいにリアル過ぎのも昨今は疲れますがね。
ねこのひげ
2015/10/04 11:11
ねこのひげさん、こんにちは。

前日文句を言ったばかりなのに、デニーロの主演映画とは、これ如何に(笑)・・・という展開なのですが、ずっと再鑑賞しようと思っていたので、全くの偶然です^^

>「FURY」
コンピューター技術で何でもできる、というのが、プラス面もありものの、映画を作るという精神に於いて後退したような気がしているのですよ。
オカピー
2015/10/04 14:50

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