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zoom RSS 映画評「12人の優しい日本人」

<<   作成日時 : 2015/10/13 09:02   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1991年日本映画 監督・中原俊
ネタバレあり

かつて「法廷映画セレクション20+α」なる特別記事で法廷映画社会派部門の1位に挙げたシドニー・ルメット監督の傑作「十二人の怒れる男」」(1957年)の日本版もじりである。本作自体も娯楽派部門の3位にした。
 1991年当時、日本には一般国民が裁判に関与する仕組みは全くなかったから、一種の"What if"ものとしての興味もあって相当楽しんだ。現在陪審員制度と似て非なる裁判員制度が設立されてある程度の月日が経ったので、その観点から観るのも意義がある。

脚本(原作)は三谷幸喜とサンシャインボーイズで、監督に当たった中原俊は「櫻の園」に引き続き好調だった。

21歳の女性が復縁を迫る夫を道路に押し出してトラックに轢かせた死亡事件をめぐって、12人の老若男女が有罪・無罪を決めることになる。
 全員“無罪”で簡単に落着かと思ったところ、陪審員2号(相島一之)が有罪論を提示したことから喧々囂々の議論が始まり、被告女性のピザの事前の発注から有罪派が多勢を占め始めるが、そこへ今まで無関心を装い一時は有罪派に加わっていた陪審員11号(豊川悦司)が無罪派として突然反証を開始し、再び無罪派が優勢になる。

"What if"ものならではの面白味は、日本人は感情的で論理的な議論はできないという主題が浮かび上がるところに最も出ている。それが幕切れの意外な人物の意外な性格の露見ではっきりする。タイトルの「優しい」は論理的な議論のできない日本人への言わば皮肉である。国会議員の議論レベルを観ていても本当に情けなくなる。

場所の移動がない典型的な(一幕もの的な)芝居が原作である場合映画化される必要がないという意見がよく出されるが、二つの点で反論したい。
 一つは田舎に暮らす者の事情を無視している。田舎では東京のように色々なものが観られるわけではない。
 もう一つは芸術的理由で、本作の場合、緩い移動を伴った長回しの部分と適度にカットする部分とがあり、それが映画ならではの面白味を出していること。例えば、相島が懸命に有罪論を説き、その間に山下容莉枝が黒板に地図を書く場面など上手くカットを割って楽しめる。これをずっと長回しでやったら冗長に過ぎる。映画的工夫である。或いは、突然被害者の自殺論が出された瞬間、カメラがハイポジションになって「中原俊、やるな」と思わされる(カメラが人間のように吃驚しているのである)。舞台を見ている人々にこれはできない。舞台中継でも容易ではない。

今でこそ顔も名前も知られた役者がかなり出ているが、この当時殆ど誰も知らなかった。この無名の役者たちのアンサンブルも強力で、楽しめる一因である。

そして、案外語られないが、些か極端すぎるにしても、ミステリーとして侮れぬ面白味がある。被告が遠回りした理由や、被告が発したと言う「死んじゃえ」と彼女が買ったというジンジャーエールを巡るダジャレもどきの推理などバカバカしいながら、エドガー・アラン・ポーなど初期推理小説的な発想でそう捨てたものではないですぞ。

昼間に始まり夕方を経て夜を迎えるのが外の光加減で解るのはアルフレッド・ヒッチコック監督の一幕もの的室内劇「ロープ」(1948年)を見るようだ。

「私はこれで三谷幸喜を知りました」・・・何かのCM風に言うとこうなる。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
楽しめた映画でした。
ほんとは三谷幸喜ものは苦手なんですが。(笑)
中原監督の手腕は買っておりますので
別作品で苔むした拙過去記事持参いたしました。

日本人的感性もろ表出している三谷脚本、
中原監督はそれらを巧みに演出。
あの傑作のまさしく「日本版もじり」の
優秀作ですね。
(あの、ひねこびた感情論のぶつかりあいや
皮肉な薄笑いと妥協は日本人独特のもの。
きっとアメリカの方々には理解不能かも。笑)


vivajiji
2015/10/13 15:30
vivajijiさん、こんにちは。

お話の面白さは、映画好きの三谷幸喜に負うところが多いと思いますが、中原俊の手腕はさすがでしたね。
こういう舞台的な群像処理は特に上手いのでは。

>感情論
最後まで無罪派の男女が「フィーリング」をやたらに言うのが可笑しかったですよね。
アメリカではこういう人は容易に生きていけないでしょう。
オカピー
2015/10/13 19:32
三谷幸喜さんは本当にうまいですね。
新作も面白そうです。
予告を観ると、古いB級映画を思い出します。
ねこのひげ
2015/10/18 05:04
ねこのひげさん、こんにちは。

本作は監督に進出する前の作品ですが、背景に古い映画に対する愛情を感じさせるものが多く、オールド・ファンを喜ばせますね。
現在においては、彼の作品がそう舞台臭いとも思わないなあ。
オカピー
2015/10/18 18:15

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