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zoom RSS 映画評「リスボンに誘われて」

<<   作成日時 : 2015/10/10 09:24   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2013年ドイツ=スイス=ポルトガル合作映画 監督ビレ・アウグスト
ネタバレあり

世界的ベストセラーと言われても全く存じあげないパスカル・メルシエの「リスボンへの夜行列車」を、ブラジルのサッカー選手とは全く関係ない大秀作「ペレ」(1987年)で僕を大いに感心させたデンマーク出身の監督ビレ・アウグストが映画化したドラマ。

ポルトガルが主な舞台である。
 スイスの高校で古典文献学を教えているライムント(ジェレミー・アイアンズ)が、欄干に立って自殺でもしようかという風情の美人(サラ・ビルマン)を救うが、突然姿を消した彼女を追いかけるうち、成り行きで彼女が残した本に挟まっていた切符を使ってリスボン行夜行列車に乗ることになってしまう。
 車中読んだ本に強く惹かれた彼は、彼女を追うより、その著者に逢いたくなって探し始める。辿り着いた家にいたのは妹アドリアーナ(シャーロット・ランプリング)と老家政婦だけで、医師である本人アマデウ(ジャック・ヒューストン)は40年前の“革命”の日に葬儀が行われたことを知る。
 しかし、本の言辞にいたく共感を覚える主人公は、さらに関係者を追い続け、事故で壊れた眼鏡を直そうと訪れた眼科医マリアナ(マルティナ・ゲデック)が、偶然にも医師と反体制運動の同志であったジョアン(トム・コートニー)の姪であった為に彼を介護施設に訪れ、通い詰めてようやく医師と親友ジョルジェ(アウグスト・ディール)の二人が特殊記憶能力を持つ美人レジスタンスのエステファニア(メラニー・メロン)を巡って恋のさや当てのあったことを聞き出す。
 かく関係者を巡るうちに美人の女医が彼の価値を認めてくれたことで自分の人生をつまらないと思い続けていた主人公の心境にも変化が訪れる。

ポルトガルの独裁体制については殆ど紹介されていないので、その点での興味が少なくない。本作を観る限り秘密警察の活動など“いずこも同じ”抑圧ぶりで、治安維持法下での我が邦の特別高等警察もかくやと思わされる。昔のことはともかく、こんな時代・体制は今からの我が国には無縁であってほしいものである。

序盤の雰囲気からスペインの劇作家ガルシア・ロルカのような悲劇が描かれていくのかと思いきや、レジスタンス活動の狭間で生じた三角関係とその呆気ない結末が一種のミステリー趣向で紹介されていく。
 本作を語る上で大事なのはこの“一種のミステリー趣向”の部分で、関係者と言えども知らないことが多く、為に主人公が探偵役として各関係者を歴訪することで繋がらない点の部分が線として繋がっていく面白味にある。

勿論、犯人探しやトリック解明を眼目とする本格ミステリーではないから大団円の余韻はないが、その代わり主人公がマリアナに「無理に帰らなくても良いのでは」とスイス行きの列車を前に言われる幕切れでは捨てがたい味わいが醸成されることになる。終わって見れば主人公の“自分探しの旅”のような印象であり、僕と同じ世代だけに共感も深い。リスボンのロケも楽しめる。

主人公が言語能力に長けているという設定だから、全編ほぼ英語で語られるのは本作の潜在的面白味を減殺させていて、この点に関してはかなり残念。アメリカ市場向けというより、英語であればどこの国にも売りやすいという理由があるのだろうが、もしそうであれば商業上の理由が芸術上の要求を排除しているわけで、実にけしからんと思う。こうした傾向は21世紀に入って顕著になっている。

アウグストとしては「ペレ」に大分及ばないが、さすがにしっかり映像化している。

主人公が金田一耕助なら列車車上の人になるのだが、果たして?

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タイトル (本文) ブログ名/日時
リスボンに誘われて〜死と真実
公式サイト。ドイツ=スイス=ポルトガル。英題:Night Train to Lisbon。パスカル・メルシエ原作、ビレ・アウグスト監督。ジェレミー・アイアンズ、メラニー・ロラン、ジャック・ヒュー ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2015/10/10 09:35
リスボンに誘われて★★★★
2004年に刊行されて以来、全世界で発行部数400万部を突破しているパスカル・メルシエのベストセラー「リスボンへの夜行列車」(早川書房刊)を、ジェレミー・アイアンズ主演、「ペレ」「愛の風景」の名匠ビレ・アウグスト監督により映画化。 スイスの古典文献学教師ライム... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2015/10/10 11:56

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
この監督さんの作風は好きです。
93年「愛と精霊の家」以来の
J・アイアンズ起用でしょうか。
本作もアイアンズありきの雰囲気も
ありましたような。(贔屓目・笑)
ベルイマンの脚本が光った92年の
「愛の風景」、これも秀作かと。

T・コートネイにお会いでしたのも
とっても久しぶりでしたし、
劣化甚だしいランプリングでしたが
彼女のワンパターン演技もここまで来ると
かえって潔くて。^^;
vivajiji
2015/10/10 11:40
vivajijiさん、こんにちは。

>「愛と精霊の家」
忘れていたなあ。
アイアンズとメリル・ストリープが共演していましたか。
二人の共演は「フランス軍中尉の女」というのもありましたよね。映画館で観ましたが、これ、また観たい。

>「愛の風景」
ベルイマンの監督作が観られなくなっていたので、ベルイマン脚本作というだけで感動した記憶があります。
ベルイマンの自伝的な作品で、秀作でした。
「ペレ」やかの作品を始め、アウグストは長尺の作品を上手くまとめますよね。本作はそれほど長くないですが。

>T・コートネイ
若い頃は結構変な顔と思っていましたけど、年を取って見やすく(笑)なりました。ハンサムでない有利さですかね。

>ランプリング
どこを切ってもランプリング・・・てか(笑)
しかし、老け込んでいましたねえ。
オカピー
2015/10/10 21:32
世界的ベストセラー・・・ねこのひげも全く知りませんでした。

昔、村上春樹さんの本がロスアンゼルスの空港とロンドンの空港で売られていたので本当に世界で売れているんだと納得しました。
それまでは、本当か?と疑っておりましたもんでね。
ノーベル文学賞をまたもや逃しましたが、ご本人はかなり迷惑なようですね。
ねこのひげ
2015/10/11 18:02
ねこのひげさん、こんにちは。

TVの識者が仰っていましたが、村上春樹は世界中で読まれすぎているのが、ノーベル賞的には寧ろ不利かもしれない、と。
ノーベル文学賞は国や地域の個性を感じさせるのが良いのだそうな。
オカピー
2015/10/11 20:58

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