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zoom RSS 映画評「めぐり逢わせのお弁当」

<<   作成日時 : 2015/09/06 09:56   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年インド=フランス=ドイツ合作映画 監督リテーシュ・バトラ
ネタバレあり

【サタジット・レイ=インド映画】の公式で育った僕らの世代には踊りのないインド映画は珍しくも何ともないのだが、今世紀になって見始めた若い人に本作のような非マサラ映画スタイルが奇異に映るのは無理もない。かく言う僕にしても今世紀になって作られたインド映画でミュージカル・スタイルを完全に取っていない作品を観るのは本作が初めてだ。

ボンベイ(ムンバイ)のお弁当文化を扱ったものに「スタンリーのお弁当箱」があるが、こちらはさらにニッチな分野に焦点を当て興味深い。お弁当配達サービスが紹介されているのだ。お弁当配達自体は珍しくもないが、弁当の作り手と配達者が全く無関係というサーヴィス形態は恐らく日本にはない。つまり、弁当の作り手が自分の奥方であるということもある(厳密にはそれがメイン)わけで、現在の日本人には全く理解できない文化と言うべし。

本作は、そうした奥方の一人イラ(ニムラト・カウル)の弁当が、全くの別人の初老寡夫サージャン(イルファン・カーン)に届いたことから思わぬ出来事に発展していく、というお話。

彼女が二階に住む訳あり“おばさん”から知恵を拝借して弁当に精を出すのは夫の愛情を繋ぎとめる為だが、弁当が届かなかったこともあってか、一向に寄りが戻らない。そんな環境の中、弁当をおいしいと言ってメモを残してくれた男性に好感を覚え、彼女が返事を出し、それに対し返事を返されるといった具合に互いにちょっとした思慕を発展させていくものの、「会いましょう」という女性のモーションに対して男性は自分の年齢を自覚して待ち合わせ場所まで出かけたのに声を掛けない。

イラが「人形の家」のノラの如く家を出るのは間違いない一方、彼女が向かうはずのブータンにサージャンが行くかどうかは解らない。彼女が彼の隠居先に手紙を出すかどうかも定かでなく、彼も隠居先と決めた町に行かずに戻ってくる。しかし、これは他人を遠ざける隠遁はしないという彼の決意とも理解できるので寧ろ希望の持てる幕切れと解釈したい。

いずれにしても、孤独な男女がその存在自体により互いに慰藉される手紙だけの関係が醸し出すムードには、僕が愛して已まないドストエフスキーの書簡体小説「貧しき人々」を髣髴とさせる温かみがあって、静かに胸を打つ。優れた文学作品が持つ品位があり気に入った。

思うに、自分で弁当を持たずに配達を待つ、という発想は「できたてほやほや」を食べたいということなのだろう。インドにおける女性の立場は50年くらい前の日本と同じくらいの印象あり。

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めぐり逢わせのお弁当 ★★★★
インドの大都会ムンバイでは、家庭でつくった“できたて”のお弁当をオフィスに届ける配達サービスが充実していて、1日20万個のお弁当箱がダッバーワーラーと呼ばれる配達人5千人によって家庭とオフィスを正確に往き来しているという。本作はそんなムンバイのお弁当事情を... ...続きを見る
パピとママ映画のblog
2015/09/06 21:32
めぐり逢わせのお弁当
原題 The Lunchbox 上映時間 105分 製作国 インド/フランス/ドイツ 脚本:監督 リテーシュ・バトラ 出演 イルファン・カーン/ニムラト・カウル/ナワーズッディーン・シッディーキー ...続きを見る
to Heart
2015/09/06 22:17

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
インドの弁当箱は面白いですね。昔、インド製のスプーンと一緒に買いましたよ。
友人はインドでカレーライスの弁当を買って食べたら、翌日から下痢が止まらなかったそうでありますけどね(≧◇≦)

塚本信也監督の『野火』は凄いです。怖いです。
塚本監督はマーチン・スコセッシ―が映画化する遠藤周作さんの『沈黙』に茂吉役で出演するそうです。
ねこのひげ
2015/09/06 11:01
ねこのひげさん、こんにちは。

>カレーライス
日本人は、インドとかタイのカレーを食べると、膵臓の分泌が追いつかず、下痢をするのではないでしょうかねえ。
慢性膵炎の僕は、病院へ行くたびに医者から「下痢はしていないか」と訊かれますよ。

>『野火』
昔、市川崑監督が映画化した大岡昇平の小説の再映画化ですか。原作を読み最初の映画版も観ていますが、鬼気迫りましたね。
塚本晋也とは相性が余り良くないものの、期待の一作。

>『沈黙』
こちらも原作を読み、最初の映画化を観ています。
夏前、隆大介の台湾での暴力事件による降板を、彼が在日韓国人であるために、ネトウヨが大騒ぎしていましたね。
オカピー
2015/09/06 18:59

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