プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「黄金」(1948年)

<<   作成日時 : 2015/05/29 08:58   >>

ナイス ブログ気持玉 2 / トラックバック 1 / コメント 4

☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1948年アメリカ映画 監督ジョン・ヒューストン
ネタバレあり

映画監督ジョン・ヒューストンはこれで日本に紹介された。戦後アメリカでのヒューストンの評価を聞いていた批評家は「なるほど凄い」と思ったらしい。わが鑑賞歴としては、1970年代半ばに不完全版を一度、1980年代後半から90年代にかけて完全版を一度か二度観ている。

メキシコ、アメリカからやって来たものの食い詰めていたハンフリー・ボガートが相棒となったティム・ホルトと大工仕事の仕事にありつくが、騙されたことを知り、偶然再会した請負師バートン・マクレーンをやっつけ賃金を貰う。その足で木賃宿に向った二人は山師のウォルター・ヒューストンと出会い、金脈の話を聞く。しかし、資金がないので山へ行っても始まらないと思っていたところへ富くじが当たったというニュースが届き、三人でシエラマドレの山中に入っていく。

ここまでが少し長めのプロローグ・第一章といったところで、これ以降のドラマ展開の布石が全て詰まっている。昨今布石を丁寧に置くドラマ映画が少なくなっている(その代わり台詞で安直に説明し、それで空いた分をどうでも良いアクションに回したりする)ので、こういう展開が馬鹿丁寧に映るようであるが、ここがあるから後段が盛り上がるのである。
 特に重要なのは金銭欲に関する描写で、ボギーがマクレーンから余分な金を奪わずかつそこから酒代を出す場面、木賃宿で達観した境地のヒューストンが富が人を変えていくことを語る二場面である。ここを踏まえ、砂金が溜まっていくにつれ、前段では金に対して潔かったボギーが欲に駆られ他の二人に対して疑心暗鬼を深めていく一連の描写の面白さに繋がる。

ストーリーは当時でも決して珍しい部類ではなかったらしいが、三人とも疑心暗鬼に陥らないのが、昨今の映画と比べ却って新鮮で、前段でボギー自身が「欲は人を変えるとしても、人によるだろう」と言っているのが大いに効いている。
 少し解りにくいのは、一貫して必要以上の欲を見せなかったホルトが落盤事故に遭ったボギーを助けようかどうか迷う場面である。あるいは二次災害への不安であったのだろうか? 

中盤この三人にテキサス男ブルース・ベネットが加わり、疑心暗鬼の要素を強めるのかと思いきや、山賊の出現と相まって幕切れへの二つの大きな布石となっている。即ち、
 紆余曲折の末に一人になって黄金を独占しようとしたボギーは山賊と再会して呆気なく殺され、砂金を知らない山賊はこれを捨てる。インディオに絶大な評価を得たヒューストンはボギーにより負傷させられたホルトと再会して砂金の後を追うが、風により皆どこかへ行ってしまったと知り、哄笑するしかない。ホルトはベネットの残された妻に彼の最期を伝えに行く。

欲は身を滅ぼすというお話ではあれど、勧善懲悪ではない。ボギーが常に善なる自分の心と闘っていたのは彼の自問自答で解るわけで、欲に負ける弱い人間に過ぎない。これが人間というものであり、チームワークのメリットや先の“欲は身を滅ぼす”という教訓は含んでいても、それをメッセージとはしない。努力が水泡に終わる人間喜劇として見せているところにジョン・ヒューストンの凄みがある。本作以降努力水泡(型のお話)はヒューストンのライフテーマとなっていく。

今なら当たり前としか思われないこの秀作のリアリズムも、当時作り物めいた作品の多かったアメリカ映画としては例外的に厳しい即実的な描写として高く評価されたということも若い人の為にお伝えしておきたい。
 そこで世評はどんなもんじゃろかと映画サイトに伺ったところ、低くはないものの実力に見合った評価とは言いにくい印象。若い人が多そうなのでやむを得ないだろう。その中でボギーが言わば悪役なのに驚いたという意見に幾つか遭遇したが、その意見にこそ僕は驚いた。ボギーは「カサブランカ」以前は悪役で、こういう哀れな最期を遂げる役は決して少なくないのである。

演技陣では、そのボギーが比較的型にはまった演技をしているのに対し、ティム・ホルトと監督の父親ウォルター・ヒューストンはぐっと自然な趣きで、好演と言うべし。

一昨年読んだヒューストンの自伝によれば、ジョンは旅で不在がちな父親を好いてはいなかった。それでも舞台役者出身の父親にアカデミー賞をもたらした。ジョンは親孝行である。

後発の作品を先に観ているが故に、古い映画の価値を正確に判断するのは難しい。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
ナイス ナイス

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
映画評「アフリカの女王」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中) 1951年イギリス映画 監督ジョン・ヒューストン ネタバレあり ...続きを見る
プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
2017/01/05 09:03

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
何年か前にNHK−BSで放送されて観たのが最初でした。
DVDに録画して2、3回観たはずですが、忙しかったのか記事に出来なかったです。
ほぼオカピーさんの書かれた内容通りに面白かった印象ですね。
プロローグが長かったけど、後半はボギーの運命がそれとは真逆の方向に動いていく、正に事実は小説より奇なり的な展開とか、実に面白かったです。
終盤の全てが水の泡のごとく消え去る様も、あれま、やっぱしヒューストンのお得意のパターンじゃんってなもんでしたネ。
十瑠
URL
2015/05/29 21:34
十瑠さん、こんにちは。

>NHK−BS
これはその時ものですかなあ。
最初の観たのは40年くらい前高校生の時くらいではなかったでしょうか。
次は多分NHK−BSですね。ここで二回観ていると思います。

>プロローグ
若い人には辛抱できないかなあと心配なるくらいでしたね。
情報がいっぱいで、僕なんか面白くてたまらないのですけど。

>ヒューストンのお得意のパターン
「黄金」が多分そのパターンの第一作ですね。
ヒューストン本人だけでなく、これを典型にキューブリックの「現金に体を張れ」などへと引き継がれていくのでしょう。
この系列に属する「白鯨」もまた観たくなった来ました。
オカピー
2015/05/29 22:17
ねこのひげもテレビで何度か見ましたがこの映画は実によかったですね。
実際に当時の人は砂金を知らない人が多かったようで、見過ごされていたようですね。
後に気が付いて砂金採りが大流行り。
日本人はすでに砂金採りをしていたようですが。
ねこのひげ
2015/06/01 05:56
ねこのひげさん、こんにちは。

僕なんかは、親の観る「水戸黄門」を一緒に見ていたせいか、日本の金は砂金というイメージです。
西条八十の詩集に「砂金」というのもありましたね。
オカピー
2015/06/01 11:05

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「黄金」(1948年) プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる