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zoom RSS 映画評「ある過去の行方」

<<   作成日時 : 2015/05/20 10:10   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2013年フランス=イタリア=イラン合作映画 監督アスガー・ファルハディ
ネタバレあり

彼女が消えた浜辺」で日本にお目見えしたイラン人監督アスガー・ファルハディは次の「別離」で端倪すべからざる才能を発揮した。この作品はまるで欧州への移民を決意した母とイランに残る父との間に挟まれて娘が難儀する「別離」の続編のようである。

イラン人アリ・モサファは、フランス人の妻ベレニス・ベジョに請われて離婚手続きに応じるべく4年ぶりにフランスを訪れる。以前暮らしていた家には妻の外に二人の娘がいるが、前の夫(たち?)との子である。下の娘と同じくらい年頃の少年も見出し、妻は3人目(或いは4人目)の男タハール・ラヒムと付き合っているらしい、ということがこれらの人物の会話の端々から徐々に判って来る。

上の娘ポリーヌ・ブリュレのモサファ氏への傾倒は実父に勝るとも劣らないが、裁判官の「間に子供がいないので、離婚手続きは簡単」という言葉から彼の娘でないことが確認される。
 脚本も書くこの監督の巧さは、こういう事務的な台詞で状況を間接的にかつ端的に説明してしまうところにある。直接的な説明はこの監督の作品ではまず為されない。

高校生の娘ポリーヌは母親も今度の男も大いに避けているが、その訳は・・・というところから、ファルハディ監督お得意のミステリー趣味が始まる。「別離」でもそれが上手く機能していたが、本作は殆どミステリーである。
 モサファ氏が調べると、娘はラヒムの妻が植物状態になった原因が二人の不倫にあると思い、それで二人を疎ましく思っているらしい。モサファ氏は事件前日に彼女が客と喧嘩したことがあることを掴み、原因は母親にないと説得する。しかるに、娘は自分は証拠のメールを夫人に転送したのだという。悩みは自責の念だ。元義父が尚も調べると、メールアドレスを訊き出した相手が本人ではなく、ここから経営者ラヒム氏の妻を恨む従業員の仕業であったことが判明する。
 それが解ったとて何一つ解決するわけではないが、本作がジャンルとしてのミステリーではなくドラマである所以はそこにこそある。謎解きの形で過去の出来事を掘り起こし、人物に迫っていく誠に鮮やかな叙述ぶりに大いに感心させられた。

最後に奇跡は起こったのか。ストップモーションに見えるが実は微妙に手が動いている幕切れは、しかし、この監督らしく、明らかな結論を示しているとは言えないのだろう。

「別離」では優柔不断な男たちが事を複雑にし、本作では優柔不断な(ここではほぼ、惚れっぽく虚言の塊の意なり)女性が周囲の人間を不幸にする形であるのもこのファルハディの方向性を物語っているようで興味深い。今や僕が次回作を楽しみに待つ5本の指に入る監督になった。

なるほど「ある過去の行方」だね。

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ある過去の行方
公式サイト。フランス=イタリア=イラン。原題:Le Passe。英題:The Past。アスガー・ファルハディ監督。ベレニス・ベジョ、タハール・ラヒム、アリ・モサファ、ポリーヌ・ビュルレ、ジ ... ...続きを見る
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こういうミステリーもあるんでありますね。
ねこのひげ
2015/05/24 16:41
ねこのひげさん、こんにちは。

作り過ぎというご意見もありましたが、僕には大変面白かったです^^
オカピー
2015/05/24 18:17

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