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zoom RSS 映画評「母の身終い」

<<   作成日時 : 2015/02/04 13:15   >>

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☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年フランス映画 監督ステファヌ・ブリゼ
ネタバレあり

終の信託」が示したように日本で尊厳死(積極的安楽死)を実行すれば殺人罪が適用され、法律により裁かれることになる。しかし、医療が発達したが故に病人に中途半端に長生きされ、残された家族が死ぬような思いに追い込まれるケースがこれから益々増えて来るだろう。民法・刑法は科学の進歩に即して改定されなければならないと思う。

麻薬密輸の片棒を担がされて服役したトラック運転手ヴァンサン・ランドンは元の仕事に復帰できず、数年前に夫を亡くした高齢の母親エレーヌ・ヴァンサンの許に身を寄せる。
 親心から何かとうるさく小言を言う母としっくり来ない或る日、脳腫瘍を患っている彼女がフランスでは禁止されている尊厳死(自殺幇助)を実行してくれる協会のあるスイスで死ぬことに決めたことを書類により知る。母親がそこまで追い込まれていることを知っても彼は優しくすることが出来ず、遂に爆発して家を出てしまう。と言っても行くところがないので隣の家に寄寓するみっともない状態。母親にしても寂しさを禁じえず、愛犬に殺鼠剤を服させ、犬好きの息子を病院に急行させて戻って来させるという手段を取ったりする。
 病院での診察の結果どうにもいけないと知らされ、いよいよスイス行きを決断しなければならない。協会側は慎重に彼女の意向を確認する。もはや息子は意見を挟めない。車でスイスの山地まで連れていく。母親は薬を飲み、息子と親子らしい触れ合いの後、静かに死んでいく。

4年近く前に母を失った僕は殆ど息子の立場でこの作品を観ていたと思う。訳ありで地元に帰って来た僕も母親から意見を言われることがあった。その中には再就職の問題もあったが、自分で承知している非を指摘されると人は腹を立てたくなるもので、僕も切れることがあった。僕の母親はぐずぐず言わないし、僕も主人公ほど短気ではないので、あそこまでの争いになることはなかったものの、この作品の主人公の心理を察するに似たようなものではないかと、他人事(ひとごと)とは思えない。母親の態度については誰でも示す親心であり、偏に喧嘩の責任は息子にあるが、それでも僕は息子の気持ちが「解る」のである。

本作の主題は親子の関係で、目を引く尊厳死はモチーフらしい。モチーフが即ち主題という場合も多いが、本作の場合は尊厳死は親子の関係を見つめる要素という感じである。つまり、息子との関係が別のものであれば、彼女がこのような選択をしたか、といった「たられば」から逆説的に親子の問題を観ているようなのである。少なくとも、まともに自立ができていると言い難い息子に迷惑はかけまいという思いが、自分を失う前に死にたいという第一の思いと同じくらいにあったと推測したい。もしそうであれば、直接言葉や態度で息子に示されなかった彼女の優しさが唯一現れた行為であったことになる。何と感動的ではなかろうか。

ごく個人的に、スーパーに息子と母親が行く場面にじーんとさせられた。何ということはない、動けなくなった父親の代わりに僕が何度も母親とスーパーに買い物に行ったことを思い出さざるを得なかったからである。前からやって来る車が気になって、駐車場で車から母が下り切る前にごくゆっくりではあるが車を動かし、母を転倒させたことがある。亡くなる2週間かそこら前のことだ。僕は、何ということもないこの行為をした自分を許し難く思っている。

愛されるために、ここにいる」「シャンボンの背中」の二本を観たことがあるステファヌ・ブリゼは前二作以上に淡々と、僕の好きな措辞で言えば観照に徹し、進行させている。観照的従って一見冷たいのだが、どことなく温かみを感じさせるのがこの監督の持ち味ではないかと思う。その点に関し本作の場合は犬が上手く機能している。

アジア・アフリカの貧困層に比べれば、贅沢な悩みなのかもしれないが。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
ああ、シアター・キノにも
しばらく行ってませんなぁ。
「蠍座」が消えて映画小屋的名画座は
札幌ではここだけとなりました。
何とか存続してますようで。^^

ステファヌ・ブリゼ監督は女性ですかね。
本作はシビアな題材ながら冷淡スレスレで
踏みとどまりサラリと余韻を残す・・・
うまい方だと思いますね。

「シャンボンの背中」なぜか観逃しました。
WOWOWさんに期待しましょう。
vivajiji
2015/02/04 17:14
vivajijiさん

TBとコメント有難うございました。

僕の住んでいるところは僕が生まれた頃に一軒も映画館がなくなったという田舎ですが、僕がよく通った隣町の洋画系映画館は十数年前にみな消えてしまったようです。

>ステファヌ・ブリゼ監督
タッチや内容から言ってそういう感じもしますが、調べたら男性でしたよ^^
フランス人の名前は男性と女性の区別が難しい名前がありますね。例えば、綴りの違うミシェル。「スクリーン」は確か男性をミッシェル、女性をミシェルにしていたような。
ステファヌもよく解らない部類。僕は男性ならステファンとしていますが、解らないので公式サイト等にあるものを採用しました。

そうですね、厳しいけれど、突き放しきらないで少し何かを残しますね。なかなか実力派だと思います。この作品は少し観客の理解にゆだねすぎたきらいがありますが。

>「シャンボンの背中」
WOWOWはまだ放映権を持っていると思います。これもヴァンサンさん主演でしたね。今回の放映に合わせてしてくれれば良かったのに^^
オカピー
2015/02/04 21:10
オカピーさん、おはようございます。
この映画、とても心に残っています。私も今は息子と二人で暮らしているので、とても身につまされました。
オカピーさんとは逆に、母の目線でこの映画を観たわけですが、彼女が死を選んだのは息子のためでもある、、というご意見は目から鱗でした。
親子にも、相性はあると思っています。
愛はあっても、相性が悪いとよい関係を築くのは難しい、、と思うのは母の怠慢でしょうか。
こういう個人的な感情を喚起する映画、好きです。
真紅
URL
2015/02/05 07:56
おからだの調子はいかがでしょうか?
ご健筆を目にして、良好とお察ししております。
今年は去年の悪夢のような大雪もなく、このまま春を迎えられるといいのですが。

この映画、vivajijiさんのブログを読んですぐに鑑賞、劇場の席で、vivajijiさん同様、肩を震わせてきた作品です。
ぼくは、プロフェッサーと違って不感症(笑)なので、まずもって、映画を見て泣くということは三十年ぶりくらいでして・・。

主役のランドンは、確か、ドロンの「復讐のビッグガン」で初めて見た俳優で好きなのですが、実年齢も我々と同世代なので、よけいに感情移入してしまいました。

真紅さんのコメントですが、母と子の間であっても、当然、相性の良し悪しはあるでしょう。
相性が良くないゆえに、分かり合おうとする気持ちは、通常の親子よりも強く、愛を模索する激しさは、より密度の濃いものになってゆくのではないでしょうか。
世の中で、母と子の結びつき以上に、強い紲は存在しないわけですから・・。

そして、今また、プロフェッサーの、ご自分のスーパーでの体験談を読んで、目頭を押さえています・・。

思うに、母親というのは、息子に対して、本当に寛容というか、口喧嘩のやりとりさえ愛おしむような節があります・・。
プロフェッサーも、どうぞ、お気に病むことのなきように・・。

浅野佑都
2015/02/05 14:32
真紅さん、こんばんは。

>彼女が死を選んだのは息子のためでもある
というのは、僕の勝手な推測・解釈ですが、そのほうが豊かな内容と思えるんですよね。

>親子にも、相性がある
そうでしょうね。
父親と母親とで比べたら母親とは相性が良かったと思います。
しかし、実態は少し違っていたみたいです。
母が死んだ後、兄や姉から色々と話を聞くと、僕に対して気を使っていたところが相当あったようです。
母は相手の立場を慮って交流してきた人で、村でも人気がありました。僕は勝手に相性が良いと思い込んでいたわけですが、実際は母が気を使っていたようなのです。これを知って僕は愕然としましたね。良い息子、あるいは相性が良いと思っていたのは自惚れに過ぎなかったのだと。
オカピー
2015/02/05 20:19
浅野佑都さん、こんにちは。

おかげさまで、【病は気から】の逆を地で行ったら、体調が改善しました。
脂肪分に気を付けて一日四食にしたことで、昨年十月に激減した体重が少し増えたのも、まだ悪い病気を抱えていない証拠と思います。一安心しております。

>映画を見て泣くということは三十年ぶりくらいでして・・。
はは、そうですか^^
僕は異常に涙腺が緩くて、先日などは半ば馬鹿にして観ていた「トリック」でちさえょっとじーんとしてしまいましたからねえ。我ながら呆れたもんです。

>「復讐のビッグガン」
おーっ、そうでしたか。気が付きませんでした。勉強になりました。

>実年齢も我々と同世代
そうでしたね。
だから、母親同士も同世代で、亡母が生きている時に見たかったなあとも思います。
尤も、その場合は駐車場の場面でじーんとすることはなかったでしょうが。

>相性が良くないゆえに
この映画の母親が正にそうだったのでしょうね。
もし僕の「息子の為にも尊厳死を選んだ」という推測が正しければ、(この)母は偉大なり・・・です。

>スーパー
4年間自分の裡に抱え込んでいて、もう我慢が出来なくなり、ブログで心情を吐露したわけです。余りに似た風景だったもので。
今度、姉が遊びに来た時に告白してみようかと思います。
少し気が楽になると思います。
色々とお気遣い戴き、有難うございました。
オカピー
2015/02/05 20:39

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