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zoom RSS 映画評「ハンナ・アーレント」

<<   作成日時 : 2015/02/02 09:49   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2012年ドイツ=ルーマニア=フランス=イスラエル合作映画 監督マルガレーテ・フォン・トロッタ
ネタバレあり

ハンナ・アーレントという名前は聞いたことがあるが、女性哲学者の名前とは知らなかった。どこで聞いたのかと考えたら小惑星の名前だった。その名前の由来になったのが有名な哲学者マルティン・ハイデッガーの弟子でもある彼女で、本作はその人生の断片を描いたものである。

1961年、アルゼンチンに逃亡していた、ナチスでユダヤ人移送管理を主な業務としていたアドルフ・アイヒマンがイスラエルのモサドに逮捕され、エルサレムで裁判に付されることになる。アメリカに移住していたユダヤ人哲学者ハンナ(バルバラ・スコヴァ)は裁判の傍聴をしていて哲学者として“悪”について考えざるを得なくなり、帰国後の1963年「アイヒマンは思考不能に陥った平凡な人間である」と論文を発表する。その内容に加えて「ユダヤ人指導者がホロコーストの拡大に寄与したかもしれない」としたことから、世界中のユダヤ人社会に大騒動を巻き起こしてしまう。

この作品はハンナの人生の断片を描くことを目的としているが、同時に、アイヒマン問題に関する彼女の主張にその人生の本質を透かしているように見える。作者は彼女の人生を描くことでその主張への共感も示しているわけで、そこに本作のメッセージ性が感じ取れる。人間で怖いの(一番の悪)は思考停止することである、と。本作で紹介される彼女への反論は極めて感情的で、反論者自体が彼女の言う思考停止(彼女の言い方によれば、思考不能)に陥っている。
 今耳目を集めているイスラム国の連中を始めイスラム原理主義者は勿論、人質に対してまたぞろ無責任な【自己責任論】を繰り出して自国民を貶める一部の日本国民も一種の思考停止状態に陥ってはいまいか。我々もまた自省し、気を付けなければならない。

閑話休題。
 映画としてはハンナのハイデッガーとの関係を断続的に綴るフラッシュバックの挿入の仕方など少々不器用な部分があったり、直球勝負すぎて潤いに欠ける憾みがなくもないが、それでも彼女が大学の大教室で堂々と反論を試みる最後のシークエンスは迫力満点、ユダヤ人の問題やホロコーストに関係なく、思考することの大事さが強烈に滲み出て、感動を呼び起こす。実は、採点以上にこの作品にはインパクトを覚えている。

監督は、観たような気がしていたがどうも観ていない「ローザ・ルクセンブルク」を1986年に発表しているマルガレーテ・フォン・トロッタ。考え行動する女性がお好きなようである。

わが図書館でも「イェルサレムのアイヒマン」は読むことが出来るので、折を見て触れてみよう。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
これは昨年度のマイベスト10に唯一入った、かなり真面目系(?)作品です。
というより、真面目系をほとんど見ていないというべきか(苦笑)。
よかったです。考えることの大事さ。そこで、間違った方向に流されないこと、でしょうか。
ボー
URL
2015/02/02 14:00
ボーさん、こんにちは。

僕も、採点こそ通常ベスト10圏外の☆☆☆★止まりなのですが、2015年度「一年遅れのベスト10」に絡むかもしれません。かなりインパクトがあり、最近「思考停止」「思考不能」を使いまくっています。

アイヒマンは本当に思考停止していたのでしょう。
しかし、例えば、ネットなどで行われている議論で並行線になっている場合、多分双方が思考停止(状態)になっているのだと思います。気を付けないといけないと思いますね。
オカピー
2015/02/03 11:10
アイヒマン一人の責任と言えるかどうかは疑問でありますが、似たようなことは世界中で起きていたわけでありますね。

すべての人間が思考を停止していると言わざるをえない今度の事件ですけどね。
一人の日本人を殺すことで1万人の健二を生み出す結果になりましたね。
自分たちこそが地獄にいると気づいていない連中は哀れであります。
ねこのひげ
2015/02/08 11:37
ねこのひげさん、こんにちは。

国会の議論を聞いていても、与党の皆様は思考停止しているようです。
紛うことなきネトウヨに、「戦争は嫌だ」とコメント欄に書いただけで、暴言を吐かれたことがありますよ。彼らこそ思考停止の権化でしょう。
アンジェリーナ・ジョリーの監督第二作「アンブロークン」を、観てもいない「週刊文春」が批判していますが、町山氏によりますと「反日映画なんてとんでもない」と仰っていますね。観てから言ってほしいものですが、観ても観なくても彼らは色眼鏡が観ますから無駄でしょうが。
右を見ても左を見てもこの世は真っ暗闇・・・ならぬ・・・思考停止ばかりじゃございませんか。
オカピー
2015/02/08 21:23
オカピーさん、こんにちは。
昨日、「ハンナ・アーレント」を観ました。彼女はアメリカを主に活躍していたユダヤ系の政治思想家ですが、保守の立場であったようです。わたしのファンであるアラン・ドロンもそうですが、タカ派の新保守主義に近いともいえそうです。レーガンやサッチャー、中曽根、現在でいえば小泉、安倍と共通するものもあるかもしれません。
わたしも、どちらかというと「みぎ」に属する人や思想は嫌いではありませんが(逆にいわゆる日本の「ひだり」には嫌悪感すらあります)、その視点から考えるとき、現在のネトウヨなるものの思考停止状況は悲惨です。
右翼を名のってほしくないし、自分たちが右翼だと自覚もしてほしくないと思います。どちらかというと社会から疎外されていて、にもかかわらず現実に救済を求めている、つまり依存心の強い幼児ファシズムともいえる者が多いと思います。
だから、思考停止に陥るのではないでしょうか。これらの状況は侮蔑するべきものです。わたしは「ハンナ・アーレント」を観て思いました。右翼が右翼であるためにはやはり知性、例えばアーレントの言うように「思考」が必要だと思います。右翼の思想にも種々多くのものがあり、例えば石原慎太郎のような強いタカ派の右派の政治家でも天皇制の廃止を唱えていました。
これらをどのように考えるのか、自称ネトウヨの者たちは思考すべきです。
本物の右翼には知性的で素晴らしい人物は多いと思います。(アラン・ドロンもそうですが(笑))。
では、また。
トム(Tom5k)
URL
2015/02/11 14:33
トムさん、こんばんは。

ネトウヨと真の右翼に関する考えは近いですね。
サブジェクトによって、右の人からは左と言われ、左の人からは右と言われます。僕は上か下かのどっちかなんでしょう(笑)。
僕は、最近は個人主義を標榜(笑)しており、敢えて分類すれば平和的アナーキストではないかと思っています。全然無政府主義ではないですけどね^^;

僕の知り合いに毎年のように皇居や靖国神社にも出かけ、自衛隊の催し物を見学する人がいらっしゃるのですが、氏は天皇が朝鮮人の血を引いている(「続日本紀」による)ことを自分から僕に話してくれましたし、(多分似非)右翼に非難を浴びた「パール・ハーバー」がなかなか良く出来ていると仰っています。
 ネトウヨは、天皇が彼らが実際以上に悪く言って貶めている韓国(朝鮮)人の血を引いていると聞いたらどう思うのでしょうかね(多分大多数は勉強不足で知らないと思います)。

とにかく、自分で考えること。読むのも観るのもソースが偏らないこと、これが肝要と思います。ハンナ・アーレント、よくぞ言ったりです。
オカピー
2015/02/12 19:54

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