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zoom RSS 映画評「もらとりあむタマ子」

<<   作成日時 : 2014/12/26 09:41   >>

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☆☆☆(6点/10点満点中)
2013年日本映画 監督・山下敦弘
ネタバレあり

僕が大学時代に就職しない新卒者などを指す社会学用語としてモラトリアムという言葉が定着したと思う。元来は「支払猶予」を意味する経済学用語であるが、かく言う僕も危うくモラトリアムな生活に入る寸前でメーカーに就職を決めたのであった。

山下敦弘は素晴らしい中距離ヒッターと思う。今のところホームランはないが、観客として会心打という手応えを覚えることが多い。本作も☆はそこそこにしたものの、クリーンなシングル・ヒットという感じである。

東京の大学を卒業して山梨県のスポーツ用品店をする父親(康すおん)の許に戻って来た娘・前田敦子は、就職活動もせず、店の手伝いもせず、家でごろごろしている毎日。最初のうちは就職活動をしろと文句を言っていた父親もやがて静かになってしまう。
 彼女は、店にやって来た客の中学生(伊東清矢)を唯一の友達にでっち上げて色々便利に使うようになり、芸能人にでもなってみようかと少年の家の稼業である写真屋で応募写真などをこしらえてみる。しかし、結局このアイデアは消滅したようである。
 母親とは離婚した父親に再婚話が出ていることを知ると、またまた少年を使ってアクセサリー製作の先生をしている相手女性(富田靖子)の様子を伺わせる。少年の情報から彼女がなかなか魅力的な女性らしいと感じたヒロインは今度は自ら足を運ぶと、自らの正体を打ちあけて父親の悪口などを言ってみる。曰く、「ダメなのは私に家を出て行けと言えないところ」と。後日父親から「就職できるできない拘わらず家を出て行け」と言われると、「合格」と謎めいた返事をし、家を出る決心をする。

彼女のこの反応はかなり両義的である。自分の言葉が正直に伝わる大人二人の関係に再婚への可能性を確認したとも思えるし、逆にやはり父はダメ男で二人の関係は続かないと予想したとも思える。
 僕はお話の結構から言って断然前者を取る。すると、互いに寄りかかっていた父娘の関係を打破しようという娘の成長の物語と理解できる。どの時点でそうした思いが芽生えたかしかと解らないものの、彼女の内部でモラトリアムな現況から脱却するきっかけを待っていたような気がするのである。
 そんなことは自分で勝手に決心すれば良いのだが、父親に自分(娘)に居て欲しいと思う甘えがあると認識していたのだとすれば、自分と同時に父親の意識変化を促したとも考えられる。視点が他者へ向かったのだとしたら、それは相当な進歩である。

山下監督の作品らしく、お話は相変らずとぼけているが、タッチ自体はさほどとぼけていない感じで、その意味では少し面白味に欠ける。
 しかし、それを補って余りあるのは微妙な感情を巧みに表現する前田敦子嬢の表情で、アイドルのイメージを凌駕する卓抜した演技力と言うべし。

同じ料金を払うなら量が多いほうが望ましいのが一般的経済観念ながら、映画はそうとは限らない。昨今の邦画に見るように、量(上映時間)に反比例して密度が下がり、最終印象も薄いものになること多し。本作は78分。密度は高い。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
アイドルというだけで、演技がどうのこうのと言われるのはどうかと思いますね。
モラトリアムとはずいぶん懐かしいというか古い言葉が出てきたと思いましたが、就職しない若者が増えているようですね。
ねこのひげのころは、学生時代から就職していた奴がおりましたけどね。
ねこのひげ
2014/12/30 09:02
ねこのひげさん、こんにちは。

>アイドルというだけで、
僕は読んでいないのですが、ある映画ブログによると、前田某という映画評論家が、彼女の演技にけちをつけていたようです。
僕も演技が良く解る方ではないですけどね、ケチをつけるどころか、収穫ではなかったかと思いますよ。

>学生時代から就職
3年の時に既に外交官試験を受けた同級生もいたような記憶があります。わがロシア語クラス一の秀才でした。
後輩なのに遊んでいるうちに同級生になってしまった島田雅彦君は、4年生の時に芥川賞候補になって、やるもんだなあと思いましたね。本人は6回候補になって結局受賞しませんでしたが、今や選考委員ですから(笑)
オカピー
2014/12/30 18:06

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