プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「恋の花咲く 伊豆の踊子」

<<   作成日時 : 2014/11/08 09:03   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 1 / コメント 2

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1933年日本映画 監督・五所平之助
ネタバレあり

川端康成の同名短編小説最初の映画化。
 因みに、「恋の花咲く」はサイレント時代によく見られたサブタイトルなので、本稿では「伊豆の踊子」としてあ行扱いとする。1990年頃から再びサブタイトルが増え、どちらが本タイトルなのか判然としないケースも多いが、通常は前の部分が本タイトルと考えられる。しかし、この時代はサブタイトルは前と相場が決まっていた。明治時代の小説同様、昔は細字や小文字で紹介されたので、容易に区別が出来たのだが。

監督をした五所平之助は1931年に日本最初の本格トーキー映画「マダムと女房」を作っているのに、二年も後のこの作品は再びサイレント映画である。日本映画がトーキー時代を迎えるのはもう1〜2年待たねばならなかったようだ。

一高生の水原(大日方伝)は、試験休暇を利用して伊豆を旅している最中、天城峠を超え湯ヶ島から下田へ向かう道で旅芸人をする家族と知り合う。旅を続けるうちに一座の少女・薫(田中絹代)と互いに思慕の情を深めていくが、大島へ帰る一家と東京へ戻って勉学に励まなければならない学生とでは所詮縁のない二人、下田港から船で出て行く水原を薫は寂しく見送るのである。

という基本的なお話は原作に沿って展開するが、改変というより大胆な付加要素があり、少々驚いた。

つまり、薫の兄・栄二(小林十九二)が持っていた鉱山(金鉱)を温泉宿の親父(新井淳)がだまし取ったと噂する者(河村黎吉)があり、それによりゴタゴタが生じ、間に入ろうと思った水原が温泉宿主人の薫をいずれ引き取ろうという真意を知るというエピソードである。
 この挿話がなくてもお話は叙情性において十分有効であり、邪魔と言えないこともないくらいだが、それでもこのエピソードにより水原が薫とは結ばれない運命であると考える理由が強まる効果が認められ、なかなか上手く本来のお話に織り交ぜたと思う次第。
 原作や後の映画化を知っている我々にしてみると、二人が知り合うまでに時間がかかるのが難点とは言うものの、それは知識が邪魔しているのであって映画の出来とは関係あるまい。

サイレント映画だからカットは比較的短いが、フルショットからクロースアップの画面サイズ、軽い俯瞰や仰角を交えたアングル等の工夫により人物の心理がうまく描出される。今の映画にはこんなカット割りはないから実に面白く観られる。環境描写から人物への移行は概ねパン(ティルト含む)によるフレームインが使われ、これにより、またショットの繋ぎにディゾルブ等を挿入することにより、小津安二郎のように固定カメラ+ショットの直接的繋ぎよりぐっと柔らかい表現が生まれ、本作の叙情性に合って誠にヨロシイ。

終幕の別れは相当ゆったりしているが、これもセンチメンタリズムの醸成に大いに貢献している。若い人にはスローすぎるかもしれないが、棺桶組の多くはこのテンポに身を委ねることが出来るだろう。

但し、全体として映像の保存状態が悪く、字幕の大半は読む気も起らない。幸いに弁士・松田春翠氏の名調子で理解に不都合なし。

印象的なのはやはり薫を直情的に演ずる若き田中絹代。以降、この名短編が映画化される度その時代最高のアイドルが選ばれることになる。美空ひばり、吉永小百合、山口百恵、錚々たる顔ぶれと言うべし。スター性では少々ファン層が狭くなるものの、やはり人気のあった鰐淵晴子や内藤洋子の版もある。

面白いことに、同じ川端の映画化である清水宏監督「有りがたうさん」(1936年)に薫が映る場面があり、本作では「有りがたうさん」で活躍するようなバスが映る。こちらのバスは偶然かもしれないが、実に興味深い。

日本の戦前の名作映画群は大半が焼失若しくは消失して観られない。「忠治旅日記」(1927年)など名前だけ知る名作の何と多いことよ。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
『伊豆の踊子』(1933)何度もリメイクされた、川端康成の原作をはじめて映画化した作品。
 今では知る人も少ない、日本映画初期の巨匠、五所平之助監督が1933年に、この川端康成原作の本作品を、はじめて映画化した時には、まさかそのあとに、何度もリメイクされるとは思っても見なかったのではないだろうか。 ...続きを見る
良い映画を褒める会。
2014/11/10 17:31

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
これもNHKで観たかな?
なかなかよかった覚えがあります。
印象的だったのは吉永小百合のかな?
学生というだけであれだけ尊敬される時代であったんですな。
山口百恵のは・・・・同世代なんですが、あまりピンとこなかった。
鰐淵晴子は、外人的すぎたかな・・・
内藤洋子はおでこが印象的でありましたね。
ねこのひげ
2014/11/08 17:39
ねこのひげさん、こんにちは。

>吉永小百合
これは二回観たかなあ。高橋英樹の学生が気分を出していました。
これを作った西川克己が山口百恵でセルフ・リメイク。再鑑賞した時に思ったよりは良かったですが、この監督の限界も感じる内容でした。

>鰐淵晴子
未見。
しかし、仰るように、薫が似合うのは田中絹代のような日本的美人でしょうね。

>内藤洋子
20年くらい前娘が活躍していましたね。
オカピー
2014/11/08 19:08

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「恋の花咲く 伊豆の踊子」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる