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zoom RSS 映画評「仕立て屋の恋」

<<   作成日時 : 2014/09/30 09:18   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1989年フランス映画 監督パトリス・ルコント
ネタバレあり

「髪結いの亭主」(1990年)がヒットしたのを受けて公開されたパトリス・ルコントの前作。ジョルジュ・シムノンのサスペンス小説が原作なので、ご覧になったミステリー・ファンの方も多いかもしれない。20余年ぶりの再鑑賞。

郊外で若い女性が死体で発見される。一方、孤独な仕立て屋ミシェル・ブランには向いの下方の部屋に住んでいる妙齢美人サンドリーヌ・ボネールを覗き見する日課がある。それに気付いた彼女は自ら彼を訪れ、様子を探る。というのも彼女の恋人が殺人犯で、彼がどこまで知っているか気になったらしい。
 担当刑事アンドレ・ウィルムはブランが犯人と信じて色々と仕掛けるが、この仕立て屋は横恋慕する彼女の為を思ってスイスの別宅へ逃げようと誘う。

サスペンスフルではあるが、ルコントの作品であるから、眼目は仕立て屋の切ない慕情である。彼の行動を凝視するタッチはとぼけた味で見せた「髪結い」とは対照的に至って厳しい。
 彼のような癖のある人物は観客に共感を覚えさせるタイプではない為、主人公への好感度で映画の価値を決めてしまうようなタイプの鑑賞者には全くお勧めできない。同時に、彼のような一種内気な人物を法律上のストーカーと決めつけるのは違うと思う。少しエキセントリックではあるが、実はこういう人々は世に少なからず存在し、文学や映画はかかる人々から人間の普遍的な感情に迫ろうとする。原作はともかく、この映画化作品は、長い上映時間を要さず、その点を純度高く実現して感嘆させるものがある。

サスペンスとしてのハイライトは、思いのたけを告げた彼が救いの手を差し伸べた彼女の裏切りに遭って逃げた建物から墜落死する、という部分である。その時彼女が窓から彼の死を見つめているショットは、覗きに関する皮肉な扱いになっていて余韻を響かせる。刑事は彼が手紙を残していることに気付く。これにより刑事は真相を知ることになるが、最後まで彼女を思う心情は本物であろう。だからこその切なさである。

サムライ」(1967年)の孤独な殺し屋(アラン・ドロン)が小鳥を愛したように、本作の仕立て屋は鼠に接する。孤独の象徴としての小動物の使い方が上手く、特に死んだ鼠を捨てる場面の、断ち切るようなタッチが効いている。

芥川龍之介ならこう言ったであろう、「映画的な、余りに映画的な」と。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
ルコントのタッチ、大変好物です。^^
「髪結いの亭主」、あのどこか間抜けた
ゆるめの調子の中に感じられる人間凝視の
鋭さ、それを飄々と描く残酷さとか。
本作、孤独な仕立て屋の孤独な恋。
一方的でも利用されても恋は恋。
当人にとっては陶酔でも、恋なんぞ
端から見れば滑稽以外の何ものでもない。
その落差がうまい作り手にかかると
極上の切なさに醸成されるんですわね〜
原作ジョルジュ・シムノン、厳しく辛辣。
これもいいけれど、短編小説「猫」も
超おすすめ。^^
vivajiji
2014/09/30 10:47
vivajijiさん、こんにちは。

ルコントは人間凝視の作家ですよね。
「髪結い」とはテイストが大分違いますが、どちらにも魅力がありましたなあ。

>滑稽
切なさの向こうに滑稽があるというのはさすがの分析です。
確かに、本作の幕切れ、他人から見たら滑稽そのものでしたね。

>ジョルジュ・シムノン
初期メグレものは好きでしたが、他は読んでいないです。
そこで・・・調べますと、
利用できる県立図書館に「猫」はありました。
「仕立て屋の恋」は僕が借りる権利のない県庁所在地の市立図書館に蔵書とな。いつも行っている図書館に頼めば借りられないことはないですが、お薦めという「猫」は借りてみようかなあ。
オカピー
2014/09/30 21:08
切なさが救いですかね〜
観葉植物を愛していた殺し屋もおりましたね。
ねこのひげ
2014/10/05 08:16
ねこのひげさん、こんにちは。

>観葉植物
「レオン」ですね。
甥が最近観て気に入ったようで、フェイスブックの表紙に使っています。
オカピー
2014/10/05 20:15

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