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zoom RSS 映画評「アラバマ物語」

<<   作成日時 : 2014/08/25 10:43   >>

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☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1962年アメリカ映画 監督ロバート・マリガン
ネタバレあり

1980年代初頭に初めて観た時オープニング・タイトルの映像のヴィヴィッドさに驚いた。当時僕の抱いていた60年代初めのアメリカ映画のイメージを完全に覆した。
 そして、内容にも感心するところが多く、後年「となりのトトロ」を観た時この作品を思い出し、俳優ビリー・ボブ・ソーントンが主演して自ら監督も務めた佳作「スリング・ブレイド」(1996年)に至っては重なる部分が多い為、オマージュ作品ではないかと思って余計に感激したものである。

1930年代アラバマ州のある町、冴えない白人女性をレイプした容疑で真面目そうな黒人青年ブロック・ピーターズが逮捕され、その弁護をグレゴリー・ペックが担当することになる。現在ですら黒人が絡む事件に陪審員全員が白人の場合取り沙汰されることが多いのに、黒人差別の甚だしい当時の南部であるから、ペック弁護士が如何に感動的な最終弁論を行っても“ぬかにくぎ”、結局は有罪になってしまう。

というのが軸となるお話なのだが、実はこの部分における裁判模様は凡庸の域を出ていない。断然良いのは、妻に先立たれて弁護士が一人で育ててきた6歳の娘メアリー・バダムの視点で語られる部分である。

幾つかある優れたポイントの中でも、僕は隣に住む謎の青年ブーの扱いに大いに感心させられ、感動もした。
 彼は普段姿を現さず、大変危険な人物であると噂されている。それが劇的にも素晴らしい効果を生んでいて、ハロウィンの時に変な着ぐるみを被ったメアリーちゃんと4歳年上の兄フィリップ・アルフォード君が森を歩いていると何者かに襲われる。目の部分だけが開いている着ぐるみを付けている少女の視界のように扱われる為に見えるのは足だけである。あるいはブーであろうかと想像するが、兄さんがその人物と格闘している時に別の人物が現れ相手を退治し、負傷した兄さんを家まで運んでくれる。その男こそブー(ロバート・デュヴォール)である。彼は恐らく自閉症か何か病気を抱えた、純な心優しき人物であると判明する。
 画面をきちんと観ていれば兄妹の人形を彫って残すような人物が悪党であるわけがないことくらいは解るのだが、それにしてもブーの扱いの何という上手さよ!

同時にペックの父親像も言葉では表せられないくらい素晴らしい。黒人だからと言って差別しないのは当たり前、原告たる娘の父親(ミステリー的に言えば、左利きだから、娘が右目を殴られていたとしたら多分こやつの仕業だろう)に子供たちの前で唾をかけられても堪える大人物で、猟銃の腕前が天下一品なのにそうしたヒーロー的な部分は封印している。それが露見するのは狂犬病にかかった犬を撃つ事件であるが、作者(原作ハーパー・リー)はこの犬に原告の父を重ねていよう。この人物こそ子供たちを襲った悪党で、実際の猟銃ではなく正義の鉄拳という猟銃により亡き者になるのである。

かくして、兄妹は父親が人品優れた英雄であることに徐々に気づき、黒人にも病気の青年にも偏見を持たず、成長していくことになる。裁判以外の部分は全てが調和し、文句なし。

グレゴリー・ペックはそう上手い俳優というわけではなかったが、良心が体から滲み出る人物を演じると良い味を出した。特に本作では抜群の出来。「ペーパー・ムーン」(1973年)のテータム・オニールを思わせる達者なメアリー・バダムは昨年「雨のニューオリンズ」(1966年)で再会したばかりだが、出演数は少なく、日本ではこの二本が紹介されているのみ。

ロバート・マリガンは好きな監督だ。本作を見ればきっとその感覚の良さにびっくりされるだろう。ベテランさんはまずご覧になっていると思うので、若い映画ファンに大いにお勧めしたい。

日本人にはピンと来にくいが、原題「マネシツグミを殺すのは」To Kill a Mockingbird は含みがあって良い。映画サイトで紹介されている「ものまね鳥を殺すには」は内容を考えると誤訳っぽい。

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アラバマ物語
(1962/ロバート・マリガン監督/グレゴリー・ペック、メアリー・バダム、フィリップ・アルフォード、ジョン・メグナ、ブロック・ピータース、ロバート・デュヴァル) ...続きを見る
テアトル十瑠
2014/08/25 15:41
グレゴリー・ペック わが人生を語る
たいていの往年映画ファンの方々がお好きな男優さんでは ありましょうけれど、私が、ち〜〜〜〜とも心動かされない 三男優のうちの、おひとりが、このグレゴリー・ペック氏。 ... ...続きを見る
映画と暮らす、日々に暮らす。
2014/08/25 16:38

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
当方のブログでもかなり初期の記事で、博士ともお知り合いになる前のモノですな。
『日曜洋画劇場』で観た映画の中でも特に印象に強い作品で、多分、子供の視点で語られているのがその要因でしょう。
主人公の弁護士にも憧れめいたものを感じたもんです。
タイトルバックに出てくる“子供の宝箱”がしみじみとしますね。

>謎の青年ブーの扱いに大いに感心

終盤になって、裁判劇とブーのエピソードが一つの思い出として残っていったことが分かるのが巧いなぁと思いましたね。
十瑠
2014/08/25 15:53
十瑠さん、こんにちは。

僕はビデオで録って初めて観たような記憶があるので、深夜放送だったのかなあ。ビデオが普及し始めた頃だから“80年代初頭”と書いたわけですが。
『日曜洋画劇場』での放映はもっと前でしょ?

>“子供の宝箱”
そう、このタイトルバックの接写映像にびっくりしましてね。「これは良い映画だぞ」という予感がしました。

>裁判劇とブーのエピソードが一つの思い出
ブーも殺してはいけないモッキンバードだったわけですよね。人間の嫌な部分が相当出てきますが、後味が実に良い作品でした。
オカピー
2014/08/25 21:15
現在でも、黒人少年が白人警官に殺されただけで暴動騒ぎが起きてますからね。
黒人少年が強盗犯であっても関係ないことになるのですから、根が深いです。

マネシツグミ・・・・マザーグースの『誰が殺したクックロビン』からとったのかな?
ねこのひげ
2014/08/31 08:16
ねこのひげさん、こんにちは。

同じ強盗犯でも扱いが違うということなんでしょうね。
日本が単一民族国家と思いこみたくて「アイヌ人などいない。お金が云々」などと放言する議員さんがいますから、人の国のことは余り言えません。
最近の保守系議員さんは「他山の石」という言葉を知らないらしい。

>マザーグース
父親が「マネシツグミは害鳥ではないから、殺すべきではない」といった台詞があってそこから来ているわけですが、勿論英米の作家ですからそうした知識がベースになっている可能性もありますね。
オカピー
2014/08/31 16:43

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