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zoom RSS 映画評「わが母の記」

<<   作成日時 : 2014/05/13 09:47   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2012年日本映画 監督・原田眞人
ネタバレあり

中学の時に井上靖の自伝的小説「あすなろ物語」「しろばんば」「夏草冬濤」を大変面白く読んだ。「氷壁」「射程」「猟銃」などそれ以外の大人向けの現代小説も少しは読んだが、自伝的小説以外では「天平の甍」「敦煌」といった歴史小説が好きだった。
 本作はその井上靖が1960年代から70年代にかけて書いた私小説「わが母の記」三部作を原田眞人が映画化したものである。カラー時代の小津安二郎作品を意識して作られていると聞いたが、小津云々はともかく、1950〜70年代にかけての時代的ムードをうまく再現していることに、何よりも、感心させられた。

少年時代に祖父の妾に預けられ見捨てられたと母を恨んでいる人気作家・伊上洪作(役所広司)が、年を経るごとにボケが激しくなっていく老母(樹木希林)を伊豆の妹(キムラ緑子)夫婦に預け、その時の状況に応じて軽井沢の別荘に連れていき下女や娘の一人(宮崎あおい)に面倒を見させたり、作家活動に支障のないようにやりくりしているが、晩年に近いある時彼が少年時代に作った詩を母親が暗唱するのを聞いて母親の真の思いに初めて気づかされる。さらに、母親が彼を祖父の妾に預けた理由も妻から教えてもらい、彼の母親への恨みは完全に溶け去る。

僕の事ではないので大きなお世話だが、本作をボケ(最近の言葉で言えば認知症)に対する家族の対応を主題にした作品と勘違いして貰っては困る。印税で豪勢な暮らしをする上流階級と一般的な現代社会の庶民とは比較にならないし、あの当時のボケ老人をめぐる社会環境は現在とは全然違う。もし認知症をめぐる家族の問題を描くなら井上靖の40〜50年前の私小説を映画化するには及ばないではないか。
 原田眞人の眼目は、初老となった作家が母への積年の恨みを溶いていく過程を描くことにあったはずである。特に、老母が作家の少年時代に書いた詩を暗唱する場面は圧巻と言って良い。作家は、ボケているが故に母親の偽らざる思いが明確に理解できたのである。
 僕は母をこのように恨んだことはないが、主人公の心情を思って彼が泣く前に目頭を熱くしていた。母の思いを厚く裏打ちするのが以前本人から聞かされていたという妻の語る言葉である。

一人で勝手に家を出て沼津を目指した母親の先回りをして待ち受けた後老母を背負う場面は「姥捨山」と重なる。必ずしも「姥捨山」はネガティヴな要素ではなく母子の交情を強く象徴する。
 ずっと母の面倒を見てきた妹への感謝も感動的と言わねばならない。彼は、多忙な作家であるという以上に、母親への恨みから、老母の面倒を見るという行為を避けてきたところがあるのだろう。だから、自分の無理解から生まれた母への恨みが溶けた時に厄介な母親の世話をし続けてきた妹が素直に有難く思えた、と僕は推測するのである。

中盤までの本当にボケているのか嫌味なのか解らない樹木希林の演技が絶妙。

久しぶりに井上靖が読みたくなってきたなあ。

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わが母の記
絶品でございます。   ...続きを見る
Akira's VOICE
2014/05/13 10:00
わが母の記/役所広司、樹木希林
文豪・井上靖の自伝的小説『わが母の記〜花の下・月の光・雪の面〜』を原田眞人監督が役所広司さん、樹木希林さんを迎えて映画化した家族の絆を描く物語です。近年の出演作では見 ... ...続きを見る
カノンな日々
2014/05/13 22:07

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ねこのひげは自伝的小説より歴史的小説の方が好きですな〜

『エイリアン』の画家ギーガーさんが亡くなりましたね〜
『エイリアン』・・・・あの不気味さには驚きました。
画集も買っちゃいましたよ。
ねこのひげ
2014/05/14 02:55
ねこのひげさん、こんにちは。

本文でも記した「天平の甍」「敦煌」は面白かったなあ。
「蒼き狼」なんてのもありましたね。
子供時代の小説では一番分厚かった「夏草冬濤」を一気呵成に読んでしまったのを憶えています。中学生にはちょうど良かったんでしょう。

>ギーガーさん
模倣が多く出ましたね。それはそれで困りましたが。
合掌。
オカピー
2014/05/14 21:39

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