プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「北のカナリアたち」(地上波放映版)

<<   作成日時 : 2013/12/23 11:16   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 2 / コメント 6

☆☆☆(6点/10点満点中)
2012年日本映画 監督・阪本順治
ネタバレあり

地上波放映版。CMによる中断とエンディング・クレジットの削除はあるものの、本編は事実上のノーカットで、放映状態は良好。評価への影響は最小限と思われる。

湊かなえの短編小説を素材にしてベテラン阪本順治が作り上げた話題作。吉永小百合が主演なので問題作とされた「告白」のイメージには程遠い。尤も女史の小説は一行も読んでいず、彼女のスタイルが本来どんなものかは全く解らないので、どちらが本来のスタイルか解らないのが実際。クレジットをよく見ると“原作”ではなく“原案”とあるので、恐らく映画「告白」のほうがそのスタイルに近いのであろう。

図書館を退職した吉永小百合が刑事二人の訪問を受け、20年前教員時代に北海道の離れ島の分校で教えていた生徒の一人森山未來が殺人容疑で追われていると告げられる。かくして北海道へ出かけ、残る5人の男女教え子を次々と訪れ、彼の様子を伺っていく。

言わば歴訪型ドラマの典型であり、ミステリー性は希薄である。しかし、細かな行動背景に一々ミステリー的趣向はあるし、終盤判ることに、感動的場面に至る元教師たるヒロインの行動に最大のミステリーがあるのである。演繹的な進行形式と言っても良い。

まず彼女が退職したのには夫・柴田恭平が溺死した時に彼女が傷心の刑事・仲村トオルと密会していた“事件”があったことが判る。その密会を親に伝えたのは子供時代の小池栄子である。彼が溺死する原因となった事件は生徒のいざこざで、その直接原因の主・宮崎あおいは罪の意識に苦しめられている。しかし、ヒロインは夫が末期癌で余命半年であったと告げ、罪の意識を和らげようとする。そして、少女時代の彼女にそういう行動を取らせたのは勝地涼である。

こういうミステリー要素が展開の面白味に繋がっているが、映画の狙いは罪悪感に生きる人間を重点的に描くことにある。罪悪感は払拭されることもあるし、一生続くかもしれない。罪悪感でなくても人生に“辛い”ことは多い。“それでも人生は続く”というこの手の映画によくある結論は平凡で、ヒロインが癌の夫に代わる精神的拠り所にする問題刑事を巡る一幕や不倫事件の経験者であるヒロインが教え子に会うその場で不倫騒動に遭遇する一幕など脚本化(脚色?)した那須真知子による進め方がぎこちなく、完成度に大いに問題を感じる一方、大衆を納得させるレベルにおいてはなかなか上手く出来ていると思われる。

純粋に映画芸術的に完成度が高くても大衆映画的に良い映画になるとは限らない。僕は完成度と大衆映画としての満足度を或る程度高く両立出来ている映画が後世に名作として残る可能性が高いと思っている。映画マニアには不満を覚えさせても、本作は大衆映画的に失格レベルとは言えないのである。

同時にいつもの吉永小百合主演映画の枠内に収まっていて「ああまたか」という不満を禁じえないながら、何だか人生に絶望し始めた僕の心は「辛い」という劇中の言葉に強く動かされたことを告白しておく。特に熱烈な映画ファンではない観客はかなり満足できるのではないだろうか。

二十四の瞳」ならぬ「十二の瞳」でした。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(2件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
北のカナリアたち/吉永小百合
予告編を目にする回数がとても多くて宣伝にかなり力を入れているなぁとは思っていましたが、これって東映創立60周年記念作品だったんですね。吉永小百合さん主演はもちろんキャス ... ...続きを見る
カノンな日々
2013/12/23 11:19
北のカナリアたち
終盤が良かった。   ...続きを見る
Akira's VOICE
2013/12/23 11:23

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
世間はクリスマスムードですね。

この作品は、普段ニュース以外、ほとんど見ないテレビで偶然に鑑賞しました。

前半、子供時代の自閉症気味の森山未來をオルガンでなだめるシーンなど、まさに二十四の瞳さながらでしたね。

>吉永小百合主演映画の枠内に収まっていて「ああまたか」という不満を禁じえない

もはや、邦画界全体が、この人に遠慮しちゃってるのでしょうね、予定調和で・・。
山田洋次さんくらいでしょうか、この類まれな駿馬(というにはいささか薹が立ってはいますが)を乗りこなせるのは・・。

タラレバですが、もし、この人が「忍ぶ川」をみすみす栗原小巻なんかに取られず出演していれば・・(本人でなく、周囲が反対したんですが)。
ああ、でも、それまでも予定調和に終わったとすればカナシイですね(笑)

浅野佑都
2013/12/23 17:05
映画界のuntouchableな存在になっちゃったということでしょうか・・・
湊かなえさんの小説は、嫌な後味を残すミステリーとして名を馳せてます。
精神衛生上よろしくないので読まれない方がよいでしょう。
本人は、『告白』は主婦をやっていてヒマだったので書いたと言っておられます。
おそろしい人でありますな。
凄い才能というべきかな?
ねこのひげ
2013/12/23 17:46
テレビ放映があったそうですね。見逃してしまいました。
吉永小百合ですが、稀有な映画スターだというのはわかるのですが、企画に恵まれない、この役も合っているのかどうか(使いにくい女優だというのもありますが)。でも、オカピーさんの映画評を読むと、観ればよかったな、と思ってしまった。
nessko
URL
2013/12/23 20:47
浅野佑都さん、こんにちは。

同様にニュースしか見ない(スポーツ観戦も減りました)僕もTV欄に発見、映画館での上映時間と照らしてカットがなさそうだから観ました。
良くも悪くも大衆映画でした。僕は良く出来た大衆映画が好きで、僕の厳密な基準では良く出来ているとは言えませんが、「デビルマン」の那須女史としてはまずまず観られる映画になっているなとは思いましたね(笑)

>吉永小百合
うーむ、1980年くらいから同じようなムードの作品ばかりですよね。年齢的にも無理がある役が多い。年相応の役をやらせるべきなんでしょうが、サユリストが許しませんか(笑)
確かにちょっと冒険があったのは山田洋次作品くらいですね。

>「忍ぶ川」
栗原小巻が振り返るショットが好きで、あそこを見る為にハイビジョン画質の映像が欲しいです。S−VHSでは持っていて自作DVDにしましたが。
あの役は小百合ちゃんでは理に落ちる気がします。
オカピー
2013/12/23 21:00
ねこのひげさん、こんにちは。

>湊かなえさん
僕はノミの心臓の持ち主ですので、お言葉に従って、やめておくことにしましょう(笑)

>才能
僕も他人の話を理解する能力はもの凄いと言われましたよ(笑)
この人の理解力は凄いなあと尊敬していた部長から「俺より凄いかもしれない」と言われたくらい(笑)・・・が、後は「お前は話し方がなっていない」
喜んだり、落ち込んだり。
僕は35くらいで課長になれるくらいの営業成績(海外マーケティング・・・最高時一月2億円くらい)を残していたんですが、聞く能力がない代わりに話す能力のある同僚が先に出世してしまいました。
とにかく、話す能力の劣る人間は出世できないのがホワイトカラーの世界と思い知りましたよ。
オカピー
2013/12/23 21:11
nesskoさん、こんにちは。

「二十四の瞳」を少しミステリー的に分解し再構築したようなお話で、精神的にダメージを受けている時なので、多少心が動きました。
大衆レベルでは、程々の出来栄えと思ったわけです。
吉永小百合は、ここ四半世紀くらい、監督の個性を超えて、吉永映画にしてしまうところがありますね。凄いと言えば凄い。
オカピー
2013/12/23 21:19

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「北のカナリアたち」(地上波放映版) プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる