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zoom RSS 映画評「ふがいない僕は空を見た」

<<   作成日時 : 2013/11/13 13:44   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2012年日本映画 監督タナダユキ
ネタバレあり

タナダユキとしては「百万円と苦虫女」のような明解さを欠く気はするが、注目に値する作品である。

助産師・原田美枝子の息子で高校生・永山絢斗がコミケ(コミック・マーケット)で知り合った人妻の田畑智子とコスプレ・セックスの間柄になるが、同級生から思慕を告白されたことから関係を断とうとする。
 片や、その彼女は子供のできないことからマザコン夫の母親・銀粉蝶に嫌味を言われる。

この二人の関係を重点的に描くのが前半で、同じ場面が彼女の視点から描かれる前半の終盤で彼女の心情が明らかにされていく。つまり、マザコン的な夫の不甲斐なさや子供ができないことで姑から嫌味を言われるストレスが彼女をコスプレに走り続けさせていることが解るのである。

後半は、夫がこっそり録っていた二人の濡れ場がネットに流出させたことから永山君が学校へ行けなくなった後主役交代し、コンビニでバイトをする彼の同級生・窪田正孝や小篠恵奈が中心的に描かれることになる。
 この二人は憂さ晴らしか、彼の流出画像を大量にコピーして団地内や学校中に配り回る。しかし、ロリコン趣味から逮捕されてしまう兄貴分のバイト店員・三浦貴大が何故彼に優しくするか聞いて彼は閉塞的な現状から抜け出す努力を始める。母の言動を見聞きすることで永山君も生命のあることそのものの価値に気付いて学校へ戻り、母の下でこの世に出てきた新しい生命を嬉しそうに眺める。

多くの人が仰るように、性と生のお話である。生は誕生と人生の両方を含んでいる。性と誕生は切り離せない。
 生まれた時から多くの人が運命に歩まされる。子供は親を選べないと世間でよく言われるのは半ばそういう意味である。だから、多くの人にとって人生は閉塞感でいっぱいだ。惰性で人妻との情事に嵌る永山君、夫と姑から抜け出せない田畑嬢、祖母との赤貧生活に甘んじている窪田君は、しかし、それに気付いて敷かれたレールから外れようとし始める。彼らに目覚めるきっかけを与えるのは、好意的・悪意的を問わず、他者である。人生に面白味を与えるのも他者である。
 作者の言わんとしていることと合っているか確信は持てないが、そんなことを本作は思わせる。

他者と言えば、自分と少し違う価値観を持つ他人を人は大いに批判する。しかし、本作を観ていると、三浦氏をロリコンとして蛇蝎のように嫌悪するコンビニの新しい店員や、同級生のセックス映像に色めく生徒たちの方が人間として卑しいのではないか、そんな気にさせられる。他人の価値観からは自分も逸脱するところが必ずあると考えれば、安易に他人を批判することなどできないことに気付くべきなのだ。

出来映えに関しては、前半部分に見られた、同じ場面が繰り返される時に別のニュアンスが与えられる手法はもはや2012年の時点において有難味が薄く、また連作短編集の再構築映画が日本では多く作られているから、余程上手く作らないと新味不足に陥るわけで、そうした要求を完全にクリアしているわけではないものの、生命と人生との絡め方が上手くなかなか面白く観られる。

窪美澄の原作は山本周五郎賞を受賞したそうな。そう言えば、「どですかでん」の原作となった彼の「季節のない街」は連作短編集の傑作だった。

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ふがいない僕は空を見た/永山絢斗
原作は本屋を訪れるたびに気になっていてそのうち買おうかなと思っていたら先に映画化されてしまいました。冒頭の数ページだけ何度か立ち読みしているんですけど、いきなりディー ... ...続きを見る
カノンな日々
2013/11/13 16:39
ふがいない僕は空を見た
生きる。 それだけのことが、 何故こんなに苦しくて愛おしいのだろう。 製作年度 2012年 上映時間 142分 映倫R18+ 原作 窪美澄『ふがいない僕は空を見た』(新潮社刊) 脚本 向井康介 監督 タナダユキ 出演 永山絢斗/田畑智子/窪田正孝/小篠恵奈/三浦貴大/銀粉蝶/原田美... ...続きを見る
to Heart
2013/11/13 19:51
『ふがいない僕は空を見た』
----この映画、 タナダユキ監督の作品だよね。 『百万円と苦虫女』』だとか『俺たちに明日はないッす』とか あまり気に入っていなかったような気がするけど…。 「うん。 でも、やはり注目の監督ではあるし、 やはり押さえておかなければと…。 噂では、過激なシーンもあ... ...続きを見る
ラムの大通り
2013/11/14 23:08

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
黒いカラスの間では白いカラスが嫌われるという奴ですけどね。
最近は、この傾向が顕著で低俗な人間ほどひどく他人を差別する傾向があるようです。
ニュースのコメント欄など見るに堪えませんね。
ねこのひげ
2013/11/24 12:14
ねこのひげさん、こんにちは。

「特定秘密保護法」は差別も助長すると言われていますね。
とにかく、考えの違う人、特に国の考えと違う人を排斥する傾向が強まるとは思います。嫌だなあ。
この個人主義の時代に家族どうのこうの言っている政党と違う考えだからと言われても困りますがねえ。
オカピー
2013/11/24 21:01

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