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zoom RSS 映画評「蛇イチゴ」

<<   作成日時 : 2013/10/30 11:23   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2003年日本映画 監督・西川美和
ネタバレあり

今や邦画界で最も充実した映画作家の一人になった感のある西川美和の長編映画デビュー作である。以前から観るチャンスはあったものの、余りその気になれなかったのが、「ゆれる」以降の仕事ぶりを見れば見て損はないと思い、観てみた。

小学校の教師をしているつみきみほは、サラリーマンの父・平泉成と、認知症の祖父・笑福亭笑之助を懸命に世話する母親・大谷直子と和気藹々の日々を過ごしていて、結婚も考えている同僚・手塚とおるを自宅に連れてくる。
 ところが、死んだ祖父の告別式に借金取りが現れ、父親が会社を首になっていて借金を重ねていることを騒ぎ立てる。そこへ10年くらい前に父親に勘当された放蕩息子・宮迫博之が現れ、弁護士を騙って上手く追い払ってくれる。さすがに父親も彼を家に寄せないわけには行かない。香典泥棒をしているとは言え、世間の事情に精通する息子が父親の借金を洗い出すと、どうも家を売っても足りない。そこで貯金や家の名義を変更する手を発案する。
 手塚からやんわりと縁切りを言い出されて傷心の体で帰宅した彼女は兄の言いなりになってはまずいと両親を説得しにかかるが、疲弊している両親は兄に全てを委ねる。

兄は本当に信用に値する人なのか・・・というお話である。彼女は小学生の時に「おいしい蛇イチゴがある」と教えられた場所を発見できずひどい目にあったことから兄を信用できない人と思っている。

本作において蛇イチゴは騙しのメタファーであり、象徴である。そして本作は終始“騙し”と“嘘”によりお話が構成されている。世の中には人を騙す蛇イチゴが多いのである。父親は首になったことを家族に告げない。兄は業者のふりをして葬式に現れ、香典泥棒をしている。母親は夫がきちんと仕事をしていると思っていたから良い嫁・妻・母を演じてきたという側面がある。小学校では母の病気と言って花の世話を相方に任せきりの少年がいる。
 ヒロインは嘘をつかない堅物だが、だからと言って彼女の考えが他より正しいとは限らない。彼女の人物像をよく表しているのがホームルームの場面である。花の世話をできない少年の「母が病気なので」という言い訳を嘘と決めつけると、相方の少女が「お母さんはほんとに病気でないんでしょうか」と疑問を呈するのである。
 西川監督はこの場面を彼女と兄とのやり取りに重ねる。兄の蛇イチゴ言及を嘘と決めつけ、再確認しに出かけた山で警察まで呼んでいる。が、家に帰りついてみると、開いたサッシの下に蛇イチゴが置かれているのである。

映画のキモは放蕩息子の帰還により家の問題が顕在化する可笑し味だが、嘘をモチーフに人間を善悪割り切れないものとして辛辣なアングルから描いてなかなか興味深い。ヒロインが蛇イチゴをサッシ下に見出す幕切れは、凡百の家族再生ハッピー・エンドと一線を画して鮮烈。

西山監督は常に登場人物の行動原理を曖昧に扱い、両義的に解釈できるように作る。本作のヒロインのように正邪を決めつけようとすれば、映画としては欠点と見なされる。しかし、監督が割り切れない存在として人間を考えて作っている以上、そこに映画的な瑕疵はない。だから彼女の映画は、時に観念的であっても、面白いのである。

人間は複雑怪奇な生き物なのです。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
だから、善悪がはっきりした作品も楽しむのかもね(*^。^*)
ねこのひげ
2013/11/01 02:27
ねこのひげさん、こんにちは。

一般的にはそういうことだと思います。
西川女史は、そうした一般的傾向に飽き足らず、人間の“本当の実態”を捉えたいのだと思います。
どちらにしても、上手く作ってくれば、こちらは楽しめるという次第。
オカピー
2013/11/01 21:32

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