プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「安城家の舞踏会」

<<   作成日時 : 2013/07/17 13:53   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 2

☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1947年日本映画 監督・吉村公三郎
ネタバレあり

日本映画ベスト10を選ぶとしたら落とすことができない国宝的名作である。三十数年前に初めて観てから何度か鑑賞しているが、ブログ開始後は観ていない。今月前半はスケジュールが大分オープンなのでうってつけだった。

敗戦により華族制度が廃止になり、特権階級としての恩恵を奪われ生じた借金や莫大な財産税の為に海辺にある瀟洒な屋敷も抵当に入り、明日にも路頭に迷おうかという安城家。長男・正彦(森雅之)は自暴自棄的になって小間使(幾野道子)にも手を付けている。当主の忠彦(滝沢修)は正彦の婚約者(津島恵子)の父親であり抵当権を持つヤミ商人・新川(清水将夫)との談判の結果に期待しているが、妹娘・敦子(原節子)は今は資産家になった元運転手の遠山(神田隆)に買い取って貰うのが一番と思っている。そうした話をする機会を設ける考えもあって舞踏会が開かれ、関係者たちが一堂に会した末に、色々な大騒動が巻き起こる。

没落貴族は舞踏会やパーティーがお好き。今思えば、ルキノ・ヴィスコンティ「山猫」(1963年)に似ているし、終盤の騒動はジャン・ルノワールの「ゲームの規則」(1939年)のドタバタ喜劇に通ずるものがある。悲劇は時に喜劇的なものである。

遠山はお金も持っているが、戦前から横恋慕している姉娘・昭子(逢初夢子)と結ばれたいという思いが先行している模様。妹の敦子はきっとそれに気付いて遠山に頼る気になっているようだが、当の昭子にしてみれば“運転手風情”は触るのも汚れるとのたまうプライドの塊で、露骨に侮蔑の言葉を投げつけられた遠山はひどく落ち込む。が、実際には昭子の心中ではプライドと愛情の相克が渦巻いていたようで、泥酔した彼が家を買い取って出て行った後「モロッコ」(1930年)のマレーネ・ディートリッヒよろしく裸足で遠山を追う。

砂浜に残る靴。遠山の倒した鎧。名撮影監督・生方敏夫により捉えられたこれらのアイテムが彼らの意識を含む古き物が消えていくことを強く印象付ける。とにかく対象物が目に焼け付けられるように腐心した撮り方をしていて、当時僕はキャロル・リードに似ていると感じた。時に起用されるダッチ・アングル(斜角)もリードみたいだった。
 絵の構図という点では縦方向への意識が圧倒的に横方向より強い。アルフレッド・ヒッチコックの「疑惑の影」(1943年)など1930〜40年代の洋画では珍しくはないが、同時代の邦画ではそれほどなかったと思う。それが実に洒落た印象に昇華している。

NHK−BSで解説を担当している山本晋也(元?)監督によれば、ウィリアム・ワイラーの影響があるらしい。確かに人物の動かし方や階段の使い方は似ているかもしれず、ほぼ同時代の「女相続人」(1949年)と比較してみると面白そうだ。

お話の骨格については、序盤で一家の抱えている様相を簡潔にして鮮やかに説明した後、中盤始まる舞踏会での人物の激しい出入りを上手く捌き、怒涛の波乱を見せ、終盤舞踏会が散会し自殺未遂事件の後は静かに収束していく展開に陶酔させられる。
 恐らく、着想のベースは日本演劇・映画人に多大な影響を与えたチェーホフの「桜の園」で、現在の若い人にはかなりオーヴァーな印象を与えるかもしれないが、オールド・ファンには起承転結における満足度が高いだろう。当時の欧米映画水準なら年間に何本か見られる完成度ではあるものの、この内容をこのタッチで邦画がやったということに大いに認めたいものがあるのである。初鑑賞時本当に吃驚し、興奮に足を震わせながら帰途に着いたのがつい昨日のことのようだ。

小津安二郎の映画のように綺麗にデジタル化して貰いたい。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
これは、20代のころ観た記憶があります。二度ほど・・・一度はNHKだったかな?
二度目はどこかの名画座で。
で、こんどが三度目で。
よい作品でありますね。
名作であります。
いずれも雨が降っていたのでデジタル化してきれいにしてもらえるとうれしいですね。
ねこのひげ
2013/07/18 02:48
ねこのひげさん、こんにちは。

何だか洋画を見ている気分で、素敵です。
どこで観たかは憶えていませんが(銀座並木座あたり?)、興奮して足が震えました。
まして同時代で観た方の興奮はいかばかりだったでしょうか?

古い映画をデジタル補修すると画面が揺れなくなるメリットもありまして、この時代の映画を見ると大概揺れるのに、数年前の修正した「東京物語」を見たら全く微動だにしないのに感動しました(笑)。
オカピー
2013/07/18 20:12

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「安城家の舞踏会」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる