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zoom RSS 映画評「ドクトル・マブゼ」

<<   作成日時 : 2013/07/11 10:27   >>

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☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1922年ドイツ映画 監督フリッツ・ラング
ネタバレあり

四十余年TV放映される映画作品をチェックしてきた中でどうしても見られなかった映画史上有数の名作が何本かある。殆どがサイレント映画で、ジャン・エプスタンの「アッシャー家の末裔」(1928年)と共にフリッツ・ラング監督の超大作たる本作が代表的な位置を占める。昔は信じがたい貴重品を数多放映していたNHK−BSにも出て来なかったので、金欠病のなか一万円近い金額を出してDVDでも買わなければなるまいかと思っていたところ、去年暮れから通い始めた街の図書館にひょっとしたらあるのではないかとチェックしたら・・・何と在りました。これに欣喜雀躍しないで何に喜ぼうか。因みに、続編の「怪人マブゼ博士」(1932年)は20年くらい前に観ている。

幾つかのバージョンがあり、戦前日本で封切られた時は凡そ270分の上映時間だったらしい。現在日本で観られる一番長いバージョンがこれで、オリジナル版と言って良いのだろう。これより長いリストアド・バージョンというのもあるらしいが、僕が観たのはぐっと短い188分版である。と言ってもかなりの長尺であり、権威ある書物に詳細に記されたストーリーと比較しても省略された箇所は見当たらない。

地下の工場で偽札を刷らせている大悪党ドクトル・マブゼ(ルドルフ・クライン=ロッゲ)は変装の名人で、子分を使って外交官からスイスとの経済協定書を奪った上で証券取引場に現れ、株価が暴落したところで買い上げてその直後に協定書発見のニュースを流し再び高騰したところで売って大儲け。
 というのが最初の一幕で、現在のネット取引にそっくりである。そこに加えて偽札も作っているから経済恐慌を来たす戦術も持っているわけで、ラングと妻のテア・フォン・ハルボウはナチスとヒトラーを出現させる原因となった第一次大戦後のドイツ経済問題をベースにしているらしく、結果的にヒトラー出現予見の映画とも理解される所以である。但し、それで映画的な価値が増したと理解するつもりもない。

続いて、カジノに現れて得意な念力と催眠術を使ってお金を巻き上げるが、これに大打撃を受けるのがトルスト伯爵夫妻で、夫君(アルフレッド・アベル)はその気もなかったインチキで仲間から罵倒され、マブゼは懸想するその夫人(ゲルトルート・ヴェルカー)を誘拐・軟禁する。

ここまでが第一部で、第二部は第一部で危うく殺されそうになったフォン・ヴェンク検事(ベルンハルト・ゲッツケ)が本格的に登場して一連の犯罪を起した犯人を突き止めようと奮闘、精神的打撃を受けた伯爵に精神分析を勧めるが、あろうことか伯爵はマブゼに診て貰うことにしてしまう。かくして伯爵は一巻の終わり。
 検事が頼りにしていたマブゼの愛人たる踊り子カーラ(アウト・エゲーデ・ニッセン)も刑務所内でマブゼがこっそり忍ばせた毒物で自殺、犯人の行方を知ることができない。ただ、そんな博士も人の子、検事にある催眠術師(実は博士本人)のショーの見学を薦めたのが躓きの元で、車を暴走させて事故死させようとした計画が失敗に終わった時検事は真犯人がマブゼであることに気付き、追いつめて行く。銃撃戦の末マブゼは中からは開けられない偽札工場に逃げ込み、袋の鼠になって正気を失う。

本作が後年の組織犯罪映画に与えた影響は多大なるものがあると言って良いが、本作が参考にしたと推測される唯一の作品がフランス映画の五部作「ファントマ」(1919年)である。これは十年ほど前NHK−BSで放映された時にしっかり観たし、当然保存もしている。

じっくりと作り上げた本作の作劇上ほぼ唯一の瑕疵は、一味がフォン・ヴェンクを催眠ガスで眠らせたままボートに乗せて海に流すに留め、殺さなかったことである。博士は死んだと思い込んでいるから部下の勝手な判断だったかもしれないが、少々弱い。

映像的には、多重露出とカメラを止めた後再開する古典的トリック(SFX)が多用されラングの面目躍如といったところ。その両方を併せて使ったのではないかと想像している場面は、催眠術ショーで観客の間に入って行った芸人たちが瞬時に消えてしまう箇所である。通常の撮影中断−再開方式ではここまで綺麗に出来ないのではないかと思われる為。いずれにしても、映画の、特にラング映画の魔術たる所以が、文字通りマジックの場面に現れている。見事に陶酔させられた。

Allcinemaの投稿者g氏の「判事(検事が正しい)の行き先を文字で表すのは不適切」というご意見には承服しがたい。あの文字は催眠術で行き場所を植え付けられた検事の脳内を表現しているのであって、単に行き場所を示しているのではあるまい。トーキーなら音声でやるところだ。しかも、1922年というサイレント映画成熟期にあってこうした表現が観客の興奮を誘ったことは想像に難くない。こういうのは現在の感覚ではなく、当時の観客の気分になって素直に楽しみたいものだ。

因みに、映像の間に挿入される字幕は英語版だったが、かなりいい加減なもので、上のトルスト伯爵は最初のうちTolstだったのかToldになり、最後にまたTolstになる。ImdbではToldが役名とされている。困りますなあ。

死ぬまでに観たい十本のサイレント映画。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ねこのひげの学生時代は、サイレント映画特集など、普段見れない映画の特集を文芸坐などでやっとりましたな〜
『ドクトル・マブゼ』『アーシャー家の末裔』もそのころ観ております。

ところでリメイクの『ローンレンジャー』が公開されますが、テレビのCMを観る限りでは面白そうですな。
ねこのひげ
2013/07/11 17:48
ねこのひげさん、こんにちは。

>『ドクトル・マブゼ』『アーシャー家の末裔』
1970年代後半から80年代前半は北大塚に住んでいて、文芸坐には歩いて行きましたが、その頃はかからなかったなあ。
僕が東京にいた頃はフィルムセンターにも掛かっていないと思います。
しかし、新宿あたりの自主上映ではやっていた記憶があります。将来何らかなの形で観られると思っていましたが、大いなる見込み違いでしたTT
「アッシャー家の末裔」は図書館にはない・・・どうしよう。要望書を出してみようかな?
金は持っているけどボンビー(貧乏)なので(笑)、節約しないと・・・

>『ローンレンジャー』
最近は陰性にしがちなので、気勢が上がるように作っていると良いのですね。
オカピー
2013/07/11 21:40

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