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zoom RSS 映画評「キリマンジャロの雪」(2011年)

<<   作成日時 : 2013/06/30 09:37   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2011年フランス映画 監督ロベール・ゲディギャン
ネタバレあり

ヘミングウェイの同名短編小説とは全く関係なく、ヴィクトル・ユゴーの詩がモチーフだそうで、題名は劇中とエンディングで使われるパスカル・ダネルのヒット曲に由来している。1960年代に流行ったというこの曲を良く知っているにちがいないフランス熟年層にはきっと感慨深く聞きながら観たことだろう。 

マルセイユ、労働組合委員長ジャン=ピエール・ダルッサンが20名の解雇者をくじで決める。委員長の権限で自らの身分を保証することも出来たのに名前を箱に入れて彼自身も解雇されることになるが、30年寄り添ってきた妻アリアンヌ・アスカリッドは彼の行為を理解する。
 やがて、一緒に解雇された元同僚たちも招いた結婚30周年のパーティーで妻の妹の夫婦や子供たち夫婦からキリマンジャロ・ツアーのチケットが贈られる。しかし、妹夫婦とトランプで楽しむ夕べに二人組の押し込み強盗が入り、チケットやクレジット・カードが奪われる。

ミステリー的には犯人を限定してしまう「チケット」という言葉を放つ犯人は間抜けであるが、そこが“素人”の悲しさで、ついでに失敬してきたマンガ本から足が付いてしまう。
 かくして判明する犯人たる元同僚の若者グレゴワール・ルプランス=ランゲが、デラシネ生活で家に寄りつかない母親に代わり二人の小学生の弟の面倒を見ていて追いつめられていたことを知った初老夫婦は、怒りの鉾を収めて、何とか対処することを別々に考えるうち同じ結論に達するのである。

ロベール・ゲディギャンという監督はそろそろベテランといって良い経験を積んでいるが、日本にはこれが三本目の紹介に過ぎず、僕は初めて。
 観ているうちに山田洋次監督に方向性が近いと感じた。つまり、フランスの抱えている雇用問題といった社会派映画的要素を背景にがっちりと据えて人間劇を見せる。いくらでも社会派映画として作れるお話を、山田監督同様ゲティギャンもそういう方向に持って行かず、行間から社会の問題を浮かび上らせるのである。

主人公夫婦が通常の人より良心的であることは妹夫婦や犯人同様恵まれない世代である子供夫婦の考え方との差を見ても歴然としているが、百人に一人或いは千人に一人くらいであってもこういう人間が実際にいないなどということはない。特に良いのは、良かれと思ったくじでの選考が一番良い選択ではなかったと主人公が納得する部分で、彼ら夫婦とて聖人ではなく、失敗したり怒ったり極めて人間的な人々なのである。

そうした夫婦を大袈裟な表現に走らず人生観照的に綴っているから、アメリカのメジャー映画会社が作ったらファンタジーにしかならないお話が実感を伴うものになる。ファンタジーと必要以上のリアル志向映画に二極化している時代にこういう中間的な作品は貴重だと思う。

WOWOWさんは、本作放映の後にヘミングウェイ特集を組んだ。実にややこしい。

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キリマンジャロの雪(2012)
21世紀のレ・ミゼラブル 公式サイト。Les Neiges du Kilimandjaro。ロベール・ゲディギャン監督、アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイラン、マリリ ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2013/06/30 10:22

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ねこのひげも、最初、ヘミングウェイの小説の映画化だと思って観てしまいましたが・・・
良い作品でした。
たまにこういう善人もいるのですが、昨今そういう善人を騙して金を巻き上げる悪党どもが増えているのにはあきれますな。
困った世の中で・・・・
ねこのひげ
2013/07/01 01:48
ねこのひげさん、こんにちは。

そう思いますよねえ^^;
丁度半年終ったところですが、今年の【一年遅れのベスト10】に十分入る資格のある作品だと思います。

>悪党
詐欺師が跋扈している時代です。
振り込め詐欺には騙されない自信がありますが、その他についてはしかと言えません。
オカピー
2013/07/01 20:34

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