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zoom RSS 映画評「少年は残酷な弓を射る」

<<   作成日時 : 2013/06/28 18:10   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年イギリス映画 監督リン・ラムジー
ネタバレあり

ライオネル・シュライバーの小説を英国の女性監督リン・ラムジーが映画化した異色作である。ホラーとかサスペンスといったジャンル映画のジャンルを当てることも出来るが、ホラー映画的な要素のあるドラマと言うべきだろう。

旅行作家のエヴァ(ティルダ・スウィントン)が夫(ジョン・C・ライリー)との間に長男ケヴィンを設ける。
 サイトやブログによっては“望まれない子供”と表現しているところがあるものの、僕が理解した範囲では“望まれない子供”というより恐らく”思いがけない妊娠で設けた子供”である。
 実は“望まれない子供”のほうがこの後記述し易い。この子供が人一倍頭が良いのに、生れた時からぎゃあぎゃあ泣き、ある程度の年齢になっても口をきかず、とにかく母親に逆らい通しなのだ。“望まれない子供”であるならば、これを望まずに産んだ子供に対する母親の偽りの心に対する反逆と理解すれば済む。少年は子育てに当惑している母親の心を傷つける為にあらゆる憎らしいことをする。しかし、これとて彼が普通の子供ではないから当惑しているというのが実際ではあるまいか。従い、彼女を母親失格と決めつける意見は解せない。そう一元的に見られるお話ではないだろう。

さて、本作には幾つか時系列があって、高校生になったケヴィン(エズラ・ミラー)が少年院に収監されてエヴァが会いに行くところを一番新しい時系列とすると、その時系列の彼女が回想する過去に恐らく二つの時系列がある。一つはケヴィンが収監される原因を作った何がしかの事件を描く一番直近で限定的な過去(フラッシュバック)、もう一つは少年が生れてから事件を起こすまでの大きな流れの過去であり、フラッシュバックで表現される過去は最終的に大きな時間の流れに吸収される形になる。

といった具合にモザイクとまではいかないまでも細かく切られたピースが一つの絵になるまでに上映時間の殆どを費やしているから、気の短い僕には多分にまだるっこい印象が避けられない。

お話の眼目は恐らく母と子だけが共有できる宿命的関係を描くことであり、彼に好かれているように見える父親は最初から関心の外にあることは、少年が最終的に犯す事件を見ればよく解る。
 彼が母親に何を求めていたのかはよく解らない。天才にありがちな、凡才には解らない屈折した心理であることは間違いない。同時に、本人でさえその欲動の原因が何なのか碌に解っていないのだ。そこに悲劇がある。いずれにしても、二人が織りなすぐちゃぐちゃな関係は、僕にはしかと掴めない母子関係を寓意する何かなのだろう。

寓意と言えば、邦題が少年の母親に対する嫌がらせの数々を指すのかと思っていたら、それもあるのだろうが、一番肝心な部分を直接示しているとは驚いた。アガサ・クリスティーの本格推理小説「オリエント急行殺人事件」が戦前「十二の刺傷」と名付けられ一部ミステリー・ファンの顰蹙を買った“事件”に匹敵しようか。あちらは犯人探しがメインだからぐっと罪が深いが。

ミドルティーンの犯罪を描いた心理重視の作品として邦画「告白」を想起させないでもないが、あちらが表面的にはともかく最終的に娯楽映画に向かったのに比べると、こちらは人間存在そのものに薄気味悪さを感じさせる部分でもっと恐ろしいものがある。それを考えると幕切れは少々妥協的ではある。

子供たちの演技も優秀ながら、やはり難しい役をきちんとこなしたティルダ・スウィントンがあっぱれ。

用言止めの原題にならって用言止めの邦題にしたのは良いけれど・・・。

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少年は残酷な弓を射る
トマト祭りと胎内回帰願望 公式サイト。ライオネル・シュライバー原作、イギリス映画。原題:We Need To Talk About Kevin。リン・ラムジー監督、ティルダ・スウィントン、ジョン・C・ライリ ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2013/06/28 18:27
母と息子〜『少年は残酷な弓を射る』
 WE NEED TO TALK ABOUT KEVIN ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2013/06/28 21:20
少年は残酷な弓を射る
母さん、僕が怖い? 製作年度 2011年 原題 WE NEED TO TALK ABOUT KEVIN 製作国・地域 イギリス 上映時間 112分 脚本 リン・ラムジー 、ローリー・スチュワート・キニア 監督 リン・ラムジー 出演 ティルダ・スウィントン/ジョン・C・ライリー/エズラ・ミラー ...続きを見る
to Heart
2013/06/29 22:22

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
病的というか天才的というか・・・・でありますが・・・・
ちょっと付き合うのに骨の折れる映画でありますね。
20代のころなら喜んで見ていたかもしれない映画でありました。
おじさんは疲れる・・・・(~_~;)
ねこのひげ
2013/06/29 01:41
ねこのひげさん、こんにちは。

アメリカ映画は画面が見づらい作品、欧州映画は神経衰弱みたいな作品が増産傾向で、昔の映画ファンにはきついですねえ。
こういう作品を見ると、良し悪しは別にして、ゴダールとかアントニオーニが可愛く見えちゃいますね。
オカピー
2013/06/29 21:01

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