プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「別離」

<<   作成日時 : 2013/06/17 10:27   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 6 / コメント 4

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2011年イラン映画 監督アスガー・ファルハディ
ネタバレあり

彼女が消えた浜辺」のアスガー・ファルハディが自らの脚本を映像化したこのドラマは、2011年度アカデミー外国映画賞受賞に値する秀作である。

銀行員の夫ナデル(ペイマン・モアディ)と教師の妻シミン(レイラ・ハタミ)は、外国への移住を巡って意見の相違を見た為、裁判所に離婚協議を持ち込む。夫としてはアルツハイマーの父親をおいて外国へは行けない。実の親子ではむべなるかな。
 仕方なく暫し別居という方法を取り、ナデルは義姉の紹介で5歳くらいの娘を連れて訪れたラジエ(サレー・バヤト)を介護ヘルパーに雇うが、三日目に早々に帰宅したところ彼女がいず、父親が倒れているのを発見、しかもお金がなくなっているのに怒ってドア越しに押した為に彼女が転倒してしまう。
 その夜彼女が流産したことが判明、相手の夫ホジャト(シャハブ・ホセイニ)が失業中の怒りに任せてナデルを訴えると、こちらも父親の負傷の原因を作ったとラジエを訴えた為に、双方の間がこじれにこじれ、たまたま現場に居合わせた娘テルメー(サリナ・ファルハディ)の担任教師ギャーライ先生(メリッラ・ザレイ)や階上の住人までとばっちりを受け、収拾の目途が立たない。

という物語の底に常に流れているのはイスラム教戒律による様々な制限ではなかろうか。お話を直接動かすのは男性二人の頑迷とラジエの優柔不断ながら、そうした彼らの性格構築に恐らく少なからずイスラム教が影響を与えているのではないかと想像されるわけである。シミンだけが宗教から一定の距離を置き、イスラム教徒としてはかなり自由な考え方をしている。それを地につける為の移住目的であり、娘を連れていきたいのはそれ故である。つまり、彼女のリベラルな発想が物語の発端にある。

各々の理屈は一応理に適っていながらも、親の不和で一番つらい目に会うのは11歳の娘テルメー。まず、父親の暴力事件で父親の味方をする為に裁判所で不本意にも嘘をつく羽目になり、幕切れではどちらの親の許に残るか決断を迫られる。
 親が悪いと言えばそれまでだが、その遠因を探ると彼らの性格・人格だけでなく、どうしてもイスラム教の戒律に行き着かざるを得ない。

いずれにしても映画はテルメーが父母のどちらのもとに残るかは示さない。先日の「籠の中の乙女」の幕切れと似ている反面、あの作品と違って少女が選ぶ道は観客の理解力や性格より人生観に左右されるような気がする。

幾つかの出来事を途中までしか描かず、一種のミステリー的構成でお話を進めていく手法は「彼女が消えた浜辺」の延長上にあるが、もっと洗練され観客の興味を呼ぶのに大いに貢献している。
 例えば、ナデルが押した後ラジエが転がったところを省いて彼女が下の踊り場に横たわっているショットに繋ぎ、或いは彼女は外に出た老人を連れ戻しに行った経緯も途中まで描くだけ。実はこの後の出来事が流産の原因かもしれず、次の日に彼女がいなかった理由にもなっていることが判明する。観客の感興を呼ぶ有効な手段である謎の扱いが実に巧妙と感心させられた。

かくして脚本はイラン映画史上最高レベルであるが、男性二人の頑迷さが後味悪く、★一つマイナス。

「昔こんなタイトルの映画があったなあ」シリーズその2。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
ナイス

トラックバック(6件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
MIB3
2作目から、かれこれ10年の歳月が流れた「メン・イン・ブラック3」。 観てきた話の前にですね、恒例のあれですけれどね。(笑) 先週観たのですよ、今回のアカデミー賞外国 ... ...続きを見る
映画と暮らす、日々に暮らす。
2013/06/17 14:06
『別離』
もう愛していないから別れよう。 欧米の恋愛事情では、別れる理由は愛情の喪失しかない。『ミラノ、愛に生きる』では、エンマは資産も家族も名誉もすべてを捨てて息子の友人の恋人の元に走っていった。人として正直に自分の人生を選んだエンマの行動に拍手。しかし、そこ... ...続きを見る
千の天使がバスケットボールする
2013/06/17 19:28
別離
原題 JODAEIYE NADER AZ SIMIN/NADER AND SIMIN, A SEPARATION 製作年度 2011年 上映時間 123分 製作国・地域 イラン 脚本:監督 アスガー・ファルハディ 出演 レイラ・ハタミ/ペイマン・モアディ/シャハブ・ホセイニ/サレー・バヤト/サリナ・ファルハディ ...続きを見る
to Heart
2013/06/17 21:31
ひとは何故、かくも悲しい生き物なのだろう〜『別離』
 JODAEIYE NADER AZ SIMIN ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2013/06/18 07:08
『別離』(アカデミー賞外国語映画賞受賞作)
(原題:Jodaeiye Nader az Simin) ...続きを見る
ラムの大通り
2013/06/18 09:40
「別離」
真相は何か?という興味で引っ張る。 ...続きを見る
或る日の出来事
2013/07/30 21:45

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
「彼女が消えた浜辺」に引き続き
この監督さんはとても巧い人だと思います。ま、
どんなに巧くても、苦手、ではございますが。(笑)
何せイザとなればギッツギッツ戒律に逃げ込む
彼らを見てると、人のことは笑えないところの
一歩間違えば瞬時にして突入するにちがいない
わが国民性の危うさに思いを馳せるわけです。
ヘタな恐怖映画よりよっぽど薄ら恐い秀作と。

ふざけたあのシリーズものとジョイントさせてる
わが感性もどうかと思いますがTBさせて頂きました。
(^ ^);
vivajiji
URL
2013/06/17 14:20
イスラム教がなければ、アラブ人が月に一番乗りをしていたかもしれないと思いますがね。
2000年間停滞し続ける頑迷さは洗脳以外のなにものでもないですな。
先日も女子大のバスを爆破した馬鹿がおりますからね。
ねこのひげ
2013/06/17 16:41
vivajijiさん、こんにちは。

とにかく、現在の文明の中に生きていくには、残念ながら戒律が不条理すぎて、イスラム社会は矛盾だらけなんですね。間違いなく内部崩壊は進んでいるんだと思います。
ところが、彼ら(の保守派、原理主義者)はその現実を認めず、その原因を西側に求め、9・11のような馬鹿をしでかしたのだでしょう。

現在の日本人も、品性のなさ(それでも隣国に比べればはるかに良いと思いますが)から判断しても、いずれ自己崩壊につながる危険性はあるでしょうね。
そのだいひょうたるのが現政権の恐るべき退行的思想で、日本を封建時代に戻そうとしているかのようです。だから、彼らの憲法改正案が国会で通り、それを国民投票が認めてしまえば、日本は崩壊すると決め込んでおります(笑)。
新聞を読むと病気になりそうです。
vivajijiさんは新聞をお取りになっていないと聞いておりますが、精神衛生上大変ヨロシイと思いますです、ハイ^^
オカピー
2013/06/17 20:53
ねこのひげさん、こんにちは。

平均的信者でも僕らの常識に照らせば狂信者に近いのに、ましてタリバンなどの原理主義者など度し難い。

僕もねこのひげさんのご意見と同じで、千年前の数学を筆頭とする科学の力を見てもイスラム教がもう少し寛容であったら、女性の力も生かせ、世界で一番最初に月に行っただろうし、原子爆弾も作ったかもしれませんね。
残念ながら、現実には、彼らは車もテレビもCDも作れなかった。本来持っている知力を生かせなかった。
オカピー
2013/06/17 21:02

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「別離」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる