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zoom RSS 映画評「ポエトリー アグネスの詩」

<<   作成日時 : 2013/06/13 10:31   >>

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☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2010年韓国映画 監督イ・チャンドン
ネタバレあり

一般韓国人を観照的に撮っても日本人には大袈裟に見えるし、そこに加えて実際以上に大袈裟に見せるのが韓国映画監督の傾向である。その中にあって「オアシス」「シークレット・サンシャイン」という二秀作で僕を唸らせたイ・チャンドンの演じさせ方は日本人にも全く自然に映り、それだけで好感が持てる。

ソウル。プサンに暮らしている娘とは殆ど音信を取らず、その息子イ・デヴィットを引き取っている65歳の老婦人ユン・ジョンヒはヘルパーの仕事だけでは収入は足りず生活保護も受け、初期段階の認知症を患っているらしく、その予防のつもりがあってか偶然目にしたした詩作教室に通い始める。
 そんなある日、孫の悪友の父親アン・ネサンから連絡を受け、川で入水自殺した女子中学生の事件に悪友グループが関与していることを知らされる。それでも態度を変えることはなく、他の親たちが進める被害者家族との示談工作に巻き込まれる一方で、詩作の為に真実の美を求めて歩く。

イ・チャンドンは簡単に理解できるような作劇はしない。しかし、幾つかの解釈が出来ても観客に丸投げしているわけではない。
 彼女は孫の不祥事という社会の醜い部分を身近に見て体験しつつ、真実の美を求める詩作という対照的な行為を続ける。示談金捻出の為に介護先の金持老人のお相手をする羽目にも陥る。詩の朗読会でも美とは程遠い猥雑な話がされ、そうした人々との接触を通して彼女が達する境地が、醜悪と善美が混然一体としているのが現実の社会であるということ。それに気付いた時に老婦人は若くして死を選んだ少女と感応し、彼女に代わって詩を読むことができるようになる。

少女の遺体が発見される川に始まり、同じ川で映画は終わる。最後の詩作教室に詩と花だけを残して姿を現さない老婦人の死体が漂ってくるのではないかと思って観ていたが、イ監督はそうした半ば通俗的な、プロローグとの安易な対称は避けた。彼女は死んでいるかもしれないが、そうでないかもしれない。

この映画を鑑賞する上で大事なのは、醜悪と苦痛の向こうに(それは死後かもしれないながら)善美と安楽があるというテーマを的確に把握することだろう。彼女が少女と感応し合い始めるのは、少女が普段通学の為に乗っていたであろうバスから降りて、彼女が身を投げた橋に行き、その下にある岸辺で詩想に思いを馳せていると大雨が降って来る辺りからであろう。ずぶ濡れでバスに乗り込んでくる彼女は、川から出て来た少女その人のような気さえする。その直後介護先に向い老人のお相手をするのも、中学生事件と似た構図に思える。

所謂詩的、リリカルといった表現は美しさの象徴であるが、現実の醜さを切り取った詩が多くあるように、本作も対照と類似、美醜を織り交ぜながら、全編詩のような印象を残し、圧巻の出来栄えと言うしかない。

16年ぶりの映画出演というユン・ジョンヒも誠に素晴らしい。

アグネスの詩は、アグネスの死を歌っていた。いつものダジャレではないよ。

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それでも人生を祝福する〜『ポエトリー アグネスの詩』
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真紅のthinkingdays
2013/06/13 12:55
『ポエトリー アグネスの詩』
(英題:POETRY) ...続きを見る
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2013/06/13 21:59

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
オカピーさま、こんにちは。TBありがとうございました。

イ・チャンドンは、尊敬する映画監督の一人です。
『グリーン・フィッシュ』から観ていますが、どれも本当に素晴らしい作品ですよね。。
本作も、心にずっしりと残る映画でした。

ところで、今更なのですが、リンクさせていただいてもよろしいでしょうか?
今拙宅は休止中なのですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
真紅
URL
2013/06/13 13:09
真紅さん、こちらへのコメントは初めてだったですよね?
TB返しと共にお礼申し上げます。

イ・チャンドン、素晴らしいですね。
僕が本格的に意識したのは「オアシス」からですが、お見事としか言いようがないです。
キム・ギドクと違って人間を映画の実験台に載せるという感じではないんですよね。もっと形而下的というか。

>リンク
どうぞ。嬉しいです。
こちらからもリンクしたいと思いますので、宜しくお願い致します。

>休止中
お休み若しくは閉店するブログが多いので、また再開してくださいね。
オカピー
2013/06/13 19:48

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